ホテル・旅館の客室で起きてしまったトラブルの対応の仕方
客室に関するトラブル
ホテルや旅館(以下、「ホテル等」といいます。)において、客室に関するトラブルは、ホテル等で発生するトラブルの中でも大きな割合を占めるのではないでしょうか。
今回は、ホテル等の客室に関するトラブルを想定しながら、利用客とのトラブルへの対応を紹介します。
(1)ホテル等に課せられる法的な義務
利用客に対してホテル等の客室の利用を提供する場合、宿泊契約に基づくサービスの提供に当たり、安全かつ衛生的な客室を提供する義務を負っています(このような義務を「安全配慮義務」といいます)。
また、ホテル等は、ホテルの設備を管理するにあたり、他人に損害を与えないように注意すべき義務を負っています(民法717条1項)。
これらの義務は、ホテル等に、設備の設置や管理について過失がなければ責任を負いませんが、トラブルが発生した後で過失がなかったことを証明することは容易ではありませんので、客室の管理には普段から細心の注意を心がけておく必要があります。
以下、更に具体例とともに見ていきます。
(2)具体的検討
#1:眺望が悪いので部屋を変えて欲しい
客室からの眺望を売りにしているホテル等であっても、全室から良い眺望が望めるとは限りません。
そうすると、眺望のよくない客室の利用客からは、「部屋を変えて欲しい」と言われることが考えられます。
まず、全室から良い眺望が望めるわけではないにもかかわらず、パンフレットなどでは全室から良い眺望が望めるかのような誤解を生じさせるような説明になっている場合、ホテル等は眺望の良い客室を利用させなくてはならない義務を負いますので、この義務を果たせないときは債務不履行となり、損害賠償責任を負います。
このような場合は、可能な限り眺望の良い部屋に移動してもらうか、それが出来ない場合には、宿泊料金の減免に応じるべきでしょう。
また、そのような広告を行うことは、不当景品類及び不当表示防止法に違反しますので、直ちに広告内容を見直す必要があります。
ところで、このようなトラブルが発生することを避けるためには、パンフレットには、全室からよい眺望が望めるわけではないことを分かりやすく注記しておき、また、眺望の良し悪しに応じて客室の料金に傾斜をつけておくといいかもしれません。
さらに、予約の時点で眺望が良くない客室であることを説明しておくこともトラブル回避に繋がります。
#2:隣の部屋がうるさい
ホテル等の利用客の中には、同伴者と楽しく話して過ごしたい方もいれば、休日を静かにゆっくりとくつろぎたい方や、静かな部屋で仕事に打ち込みたい方など、求める環境は様々です。
そして、宿泊客が客室を利用する以上、全くの無音で過ごすことはできないのですから、隣室の音がもれ聞こえてしまうことを完全に防ぐことはできません。
利用客から「隣の部屋がうるさい」と言われたからといって、直ちに隣室へ注意することは控えるべきです。
そこで、まずは騒音の実態を確認する必要がありますが、事実確認を経て実際に隣室の利用客に対してその騒音を注意すべきか否かの基準となるのは、「受忍限度」を超えるか否かによって決すべきことになります。
受忍限度を超えるか否かは、騒音の対応と程度、騒音被害を訴える利用客の利益(どの程度の静謐な空間を必要とするか)、騒音の軽減のために講じた措置の内容などの諸事情を総合的に考慮すべきです。
たとえば、隣室からどの程度の騒音が聞こえるのか、騒音が聞こえ続けている時間はどの程度か、時刻は何時ころか、これまでに注意をされているか、どのような注意をされているかなどの事情が重要となってきます。
そのため、ホテル等から注意をするとしても、内線電話で注意をすべきなのか、直接客室まで行って注意すべきなのかも具体的な事情に応じてどのような対応をするべきかを検討すべきです。
騒音が受忍限度を超えると判断すれば、隣室の利用客に対して厳に注意すべきですし、客室に余裕があるのであれば、別の客室に移動してもらうことも検討すべきです。
客室に余裕が無く、注意を行っても騒音が収まらない場合は、致し方なく騒音を発生させている利用客に対して、宿泊契約の解除を申し出て退室してもらうことも考えられます。
#3:客室が不潔でアレルギー症状が出た
まずはすぐに病院へ案内して治療を受けてもらいましょう。
その後はすぐに事実確認を行う必要があります。
利用客からの申告が虚偽であった場合(客室の衛生状況と利用客のアレルギー症状とに因果関係が認められない場合)、当該利用客への対応によってホテル等が被った損害(治療費、交通費など。部屋の衛生状況確認の間、新たな宿泊客の利用を断らなければならなかったなどの事情があれば、その文の損失なども含まれます)を請求することが考えられます。
他方で、事実確認の結果、確かに部屋が不潔であり、通常の人でもアレルギー性の鼻炎などを発症してもおかしくなかったという場合には、宿泊費の返還や、治療費に加えて、楽しみにしていた旅行を断念せざるを得なくなったことに対しての慰謝料の賠償も認められる可能性があります。
さらに、旅館業法では、宿泊者の衛生に必要な措置が義務付けられていますので、利用客に健康被害を与えるような場合には、営業停止等の処分を受ける可能性もあります。
もっとも、その利用客の特異な体質が主な原因となってアレルギー症状を発症した場合
あらかじめその体質についてホテル等が知らされていなかった場合(通常の人であればアレルギー症状を発症することはない程度の衛生状況であった場合)には、ホテル等に落ち度はありませんので、法的な損害賠償責任を負うことはないと思われます。
#4:利用客が客室内で自殺した
この場合、自殺者はホテル等に対して損害賠償責任を負うことになります。
そして、自殺者に相続人がいる場合には、その損害賠償責任は相続人に引き継がれます。
問題は、この損害賠償責任がどこまで及ぶかですが、客室等のクリーニング代や取替え代の他、クリーニング等のために客室を稼動できない期間については休業の損害も賠償責任の範囲に含まれると考えられます。
また、自殺者が出たことで隣室の利用客が宿泊の予定をキャンセルしてしまったり、自殺者が出たという情報が知れ渡ることによって予約がキャンセルになったりなどの個別の事情があれば、その分の宿泊によって生じるはずだった収益も損害の範囲に含まれる可能性が高いです。
もっとも、相続人がいないとか、あるいは相続人が相続放棄をした場合には、もはやその責任を追及できる相手がいなくなってしまいます。
このような場合であっても、例外的に、自殺者が一定程度の資産を持っていることが分かっている場合であれば、その資産から賠償を受けることは可能ですが、法的に煩雑な手続きを行う必要があるので、まずは弁護士に相談すべきでしょう。
まとめ
客室は利用客がホテル等に対して大きな期待を寄せるサービスの一つであり、それゆえに客室に関するトラブルの数も多くなるのではないかと思います。
上記で挙げた例はほんの一例に過ぎず、その他にも様々な内容のトラブルが日々発生していることが予想できます。
トラブルの内容によっては専門的な個別の判断が必要とされるケースもありますので、対応にお困りの際は、まずは早期に法律の専門家である弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか。
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