会社が破産すると特許権はどうなる?会社破産手続における特許権や特許ライセンス契約の処理について弁護士が解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

「会社の破産を考えているが特許をどうしたらいいかわからない」
「ライセンシーから破産するなら特許権を譲ってほしいと言われている」

会社、法人の破産で時折問題となるのが知的財産権の処理です。

今回はその中でも特許権について解説します。

特許権をもつ会社が破産手続進めると、ライセンス契約を締結している取引先企業から今後の動向や特許権の譲渡についての問い合わせを受けることがあります。

特に、特許権の譲渡は、不当な値段で処分してしまうと破産財団を棄損することになる可能性があるため、慎重な対応が求められます。

円滑な破産申立を行うためには、あらかじめ申立代理人となる弁護士と打ち合わせて、取引先に告知するのかどうか、する場合にはその告知内容や破産手続開始後に破産管財人への引継事項を決めておく必要があります。

1.会社破産手続における特許権を換価換金する方法

特許権は会社、法人の資産です。

会社の破産手続においては、会社がもつ資産を処分するのか、処分せずに破産手続を申立て、破産管財人に処理をゆだねるのか、申立て準備段階で弁護士とよく調整する必要があります。

特許は維持するだけでコストがかかることも少なくありません。

破産を考えている会社の中には、すぐにでも第三者に譲渡したいと考える方も少なくないでしょう。

しかし、破産手続のうえでは、会社の資産を廉価に処分してしまうなど処分方法を誤ると、手続上問題が生じかねません。

さらに、知的財産権は市場に流通しているものではないため、価値を見極めることが容易ではありません。

譲渡にあたっては、より慎重な対応が求められます。

破産手続の実務上では、以下のいずれかがとられています。

(1)弁理士に評価を依頼する

特許権の価値を算出する方法として、皆さんがまず思いあたるのは弁理士に評価を依頼する方法でしょう。

しかし、評価には数十万円の費用がかかるうえに、期間も半年程度を要します。

破産手続の実務上、知的財産権にそれに見合うだけの高額な評価額がつくことは稀です。

そのため、実際は弁理士に依頼するケースは少ないといえます。

(2)同業他社・共有者に購入希望者を募る

弁理士に評価を依頼することが難しい場合は、同業他社や共有者に購入希望者がいないかを募り、金額を決めるという方法があります。

購入希望者がおらず共有者に買い取ってもらう場合は、申請費用程度の金額で譲渡することも少なくありません。

破産手続の中で特許権が適切に譲渡されなかった場合は関係者が不利益を被る可能性があるため、特許権者である会社は、破産手続の中で特許権が適切に処理されるよう協力していく必要があります。

(3)破産管財人が特許権を換価する場合は裁判所の許可が必要

破産管財人が特許権を任意売却する場合は、評価額に関わらず、裁判所の許可が必要です。

このことからも、特許権の換価というのはそれだけ慎重に行うべきだということがわかります。

(破産管財人の権限)

第78条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。

2 破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。

二 鉱業権、漁業権、公共施設等運営権、樹木採取権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権、著作権又は著作隣接権の任意売却

5 第2項の許可を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

6 破産管財人は、第2項各号に掲げる行為をしようとするときは、遅滞を生ずるおそれのある場合又は第3項各号に掲げる場合を除き、破産者の意見を聴かなければならない。

2.会社の破産で特許ライセンス契約は解約しなければならないのか

特許権を有している会社は特許ライセンス契約を締結していることがあります。

会社、法人の破産手続は会社、法人を消滅させる手続ですので、必要のない契約は、解約しておく必要があります。

しかし、ライセンス契約は、ライセンシーの利害が絡み、その後の特許権の処理の問題もあるため、基本的には破産管財人に処理をゆだねることになるでしょう。

では、破産手続が申立てられた後、ライセンス契約は破産管財人によって解除されるのでしょうか。

結論として、特許ライセンス契約は、破産管財人による契約解除が法律によって制限される場合が多いです。

どのような法律による保護があるのかについて、以下に解説します。

(1)破産管財人によるライセンス契約解除の可否

ライセンス契約は、双方未履行の双務契約です。

破産法53条1項は、破産管財人に双務契約を解除する権限があると規定しています。

(双務契約)

第53条 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。

しかし、同時に破産法56条1項には次のとおり規定がなされています。

(賃貸借契約等)

第56条 第53条第1項及び第2項の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約について破産者の相手方が当該権利につき登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には、適用しない。

ということは、ライセンス契約においては、ライセンシーが「登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合」となる場合は、53条1項に基づく破産管財人による契約の解除はできないということになります。

それでは、特許権の場合はどうなのでしょうか。

特許権は、実施権の種類によって以下のように異なっています。

(2)専用実施権が設定登録されているライセンス契約

特許権には、専用実施権と通常実施権があります。

専用実施権とは、契約で定められた範囲においてその特許発明を業として実施することを占有する権利です。

専用実施権は、そのライセンシーにのみ実施を認めるものです。

たとえ、特許権者であるライセンサーであってもその特許発明を業として実施できません。

専用実施権は設定登録が必要なため、特許に専用実施権がついているかは、特許登記簿等によって確認することができます。

ということは、専用実施権は上述(1)の「登記、登録その他の第三者に対抗することができる権利を備えている場合」に該当しますので、破産管財人によるライセンス契約の解除は認められないということになります。

(3)通常実施権が設定されているライセンス契約はなぜ解除できないのか

一方、通常実施権は、契約で定められた範囲においてその特許発明を業として実施することを複数の者に対して許諾できるものです。

専用実施権と異なり、ライセンサーも引き続き特許発明を業として実施できます。

通常実施権は、古くは登録制度が設けられていましたが、実務上多くの企業が通常実施権の登録を行っていませんでした。

そのため、破産手続においては、56条1項にあたらないとして破産管財人によるライセンス契約の解除が行われていました。

しかし、2011年に特許法が改正され、当然対抗制度が導入されました。

(通常実施権の対抗力)

第99条 通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

この特許法の規定により、通常実施権も「登記、登録その他の第三者に対抗することができる権利を備えている場合」に該当しますので、破産管財人によるライセンス契約の解除は認められないということになります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、特許権をもつ会社の破産手続で特許権がどのように処理されるのかについてご紹介しました。

会社、法人が破産を考えている場合には特許権を廉価に処分することがないよう注意しましょう。

また、特許ライセンス契約を締結している場合、ライセンシーは破産法や特許法によって保護される場合があります。

そして、破産手続の中で特許権が適切に譲渡されなかった場合は関係者が不利益を被る可能性があるため、特許権者である会社は、破産手続の中で特許権が適切に処理されるよう協力していく必要があります。

会社、法人の破産手続は容易な手続ではありませんが、弁護士と相談しながら問題点を解消していくことで、清算という目的に前進していきます。

今すぐ破産を申立てなければいけないという状態になってからでは、十分な準備ができないこともあるため、気兼ねせずに早いうちからご相談いただくことをお勧めします。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。