手形の不渡りとは何?法人破産への影響や解決方法を弁護士が解説します
「手形の不渡りがどのようなものかわからない」
「不渡りを起こしてしまったが対処方法がわからない」
会社・法人を経営されている方の中には、資金繰りに問題が生じ、振り出した手形についてこのような悩みや疑問をお持ちの方もいるかと思います。
売掛金の支払いを手形などを用いて行っている場合には、手形の不渡りを起こすと、信用問題が生じ、倒産・廃業を考えなくてはいけなくなるなどのさまざまな影響が生じます。
この記事では、不渡りを回避する方法のほか、もし不渡りを起こしてしまったときの解決方法について解説しています。
手形の不渡りについてお悩みの方の参考になれば幸いです。
1.不渡りの種類
不渡りとは、手形や小切手の決済ができないことです。
企業間で取引をする際は、手形や小切手により支払いを決済するケースが少なくありません。
現金で支払う代わりに手形・小切手を相手に渡すことを振り出しと言い、振り出す人を振出人、受け取った相手を受取人と呼びます。
受取人は、受け取った手形を銀行に持ち込み、振出人の当座預金からお金を振り込んでもらうことができます。
不渡りは、銀行に持ち込んだ手形について、額面通りの金額を交付できない場合に生じます。
そのため、不渡りを起こすことは、振出人である会社に資金が不足していることを意味し、信用力の低下などのさまざまなリスクが生じることに注意が必要です。
不渡りは、発生原因に応じて3種類に分けられています。
具体的には、以下のとおりです。
- 0号不渡り
- 1号不渡り
- 2号不渡り
順にご説明します。
(1)0号不渡り
振出人の信用以外の原因によって生じた不渡りを0号不渡りといいます。
例えば、手形への記入ミスや、受取人が現金化できる期間を過ぎてから手形を銀行に持ち込み、現金化できなかったようなケースです。
0号不渡りは振出人の資金不足が原因で生じるものではないため、不渡り扱いとはならず、銀行の取引停止や不渡り届の作成も行われません。
(2)1号不渡り
振出人の当座預金口座に十分な預金がなく、手形が現金化できないことです。
一般的に「不渡り」というと、この1号不渡りを指します。
他にも、当座預金口座を解約したことで現金の交付を受けることができないケースも1号不渡りとして扱われます。
会社の信用が原因として起きているため、何度も不渡りを起こせば会社の経営にも影響が及ぶことがあります。
なお、経営への具体的な影響については、2で詳しく解説します。
(3)2号不渡り
0号不渡りにも1号不渡りにも該当しないものが2号不渡りです。
例えば、手形が盗難・詐欺によって振り出された場合や偽造された場合などが当てはまります。
また、振り出したにも関わらず契約が履行されない(商品が納品されないなど)場合も、契約不履行として2号不渡りに該当します。
2号不渡りは0号不渡りと同様に振出人の信用力とは無関係に不渡りとなったケースですが、そのまま放置していると銀行では不渡りとして処理がなされてしまいます。
そのため、異議申立てを行い、処分の猶予や免除を申請することが必要です。
2.不渡りによって生じる影響
1号不渡りを出すと、振出人は不渡り処分を受けます。
不渡り処分を受けたことによる影響は大きく、会社の経営にも支障が出ることがあります。
具体的には、以下のような影響があります。
- 金融機関から融資を受けることが難しくなる
- 取引先の信用を失う
- 2度目の不渡りで銀行取引が停止される
それぞれ解説していきます。
(1)金融機関から融資を受けることが難しくなる
不渡り処分を受けると、銀行は手形交換所に「不渡り届」を提出し、手形交換所は「不渡り報告」に掲載します。
これが掲載されることで、加盟している銀行が不渡りの事実を知ることとなり、振出人である会社の資金繰りが悪化していると判断されてしまいます。
不渡りを出した会社は信用力や資金力が低いと判断されますので、取引している銀行だけではなく、他の銀行からも融資を受けられなくなる可能性があるのです。
(2)取引先の信用を失う
1号不渡りは、預金残高の不足により手形が現金化できない状態です。
不渡りを起こすことによって、その会社の資金繰りが悪化していることが取引先にも知られることになり、信用を失う可能性があります。
また、手形によって支払いの意思を示していたものの、実際にそれを支払うことができなければ、取引先からの信用を大きく失い、場合によっては取引を打ち切られることもあるでしょう。
取引が終了することにより、場合によってはその後の事業の継続が難しくなることもあるのです。
(3)2度目の不渡りで銀行取引が停止される
1度目の不渡りから6か月以内に再度不渡りを起こすと、銀行取引停止処分を受けます。
具体的には、手形交換所から当座取引の停止処分を受けることになり、これによって2年間は銀行取引を行うことができなくなってしまいます。
銀行取引が停止されると、融資を受けられないため、資金繰りが悪化して事業継続が困難になるリスクが高まります。
また、不渡りを2度も起こせば、その会社は支払不能の状態であると推定されます。
支払不能とは法人が破産するための要件ともなっている状態のことであり、それが推定されるのです。
もし2度の不渡りを起こして銀行取引停止処分を受けた場合は、法人破産を行うことも視野に入れましょう。
なお、法人破産の手続きを行うための具体的な要件やメリットについては、以下の記事をご参照ください。
3.不渡りを回避するための方法
手形の不渡りを起こすことで、会社の信用に影響が生じ、経営などにも大きな支障をきたすリスクがあります。
そのため、不渡りを起こさないように事前に対策を講じることが重要です。
具体的には、以下のような対処法があります。
- 決済期日を統一する
- 融資を受けていない銀行口座を確保する
- 掛け取引への移行を検討する
順にご説明します。
(1)決済期日を統一する
不渡りを起こす主な原因は、当座預金の残高不足です。
決済期日を取引先ごとに分けてしまうと、必要な資金総額を把握しづらくなり、ミスによっても残高不足が起きやすくなります。
決済期日を統一することで必要な資金の総額を把握しやすく、あらかじめ準備しておくことができます。
(2)融資を受けていない銀行口座を確保する
手形取引用の口座と異なる金融機関で資産を保管するための口座を作っておくことで、万が一不渡りを起こしたときにリスクを分散させられます。
同一の金融機関で手形取引用と資産を保管するための口座を開設すると、不渡りを起こした際に資産を保管している口座を凍結されることがあります。
これは、金融機関が、融資している金額が回収できなくなる前に資産を保管している口座から回収することで、損失が生じるのを防ごうとするためです。
口座を分けておくことで、手形取引用の口座が不渡りにより、その銀行の口座が凍結された場合でも、別の銀行で資産の保管は引き続き行うことができるため、異なる金融機関でこれらの口座を開設しておきましょう。
(3)掛け取引への移行を検討する
掛け取引とは、期間内に取引された金額を後からまとめて清算する取引方法です。
法人では取引の回数が多く、やり取りをスムーズにするために決められた期間内に取引された分を後から清算することも少なくありません。
掛け取引は、手形とは異なり、銀行を間に通さず代金のやり取りができるため、不渡りによって銀行取引が停止され、倒産状態に陥るリスクを軽減することができるのです。
4.弁護士に不渡りについて相談するメリット
手形の不渡りを起こすなど、会社の資金繰りが悪化している場合、できる限り早期に状況を改善する必要があります。
また、必要に応じて法人破産を行うことも検討することも重要です。
法人破産を行うためには裁判所費用などが必要となるため、これらの費用を捻出できないほど資金が底をついてしまった場合には、法人破産の手続を行うことすら困難となります。
そのため、不渡りを起こしてしまった場合には、なるべく早期に弁護士に相談や依頼をすることが重要です。
弁護士に早期に相談、依頼をすることで、以下のようなメリットがあります。
- 法人破産についてアドバイスを受けることができる
- 書類作成や資料収集を任せたり、サポートを受けることができる
- 手続きをスムーズに進めることができる
- 予納金を低く抑えて手続きを行うことができる可能性がある
順にご説明します。
(1)法人破産についてアドバイスを受けることができる
法人破産は裁判所を通じて行い、最終的には法人格を消滅させる手続きです。
法人破産の手続きを行うためにはさまざまな条件があるほか、手続きすることを周囲に知られないように進める必要もあり、慎重さが要求されます。
法人破産に慣れた弁護士に相談することで、会社の経営状態を踏まえたうえで的確なアドバイスを受けることができるため、安心して手続きを進めることができます。
(2)書類作成や資料収集を任せたり、サポートを受けることができる
法人破産を行うためには、正確に書類を作成したり、多くの資料を準備する必要があります。
しかし、これらを不足なく正確に行うためには、知識や実務経験が必要です。
弁護士に依頼することで、それらの作業を弁護士に任せたり、サポートを受けながら準備を進められますので、負担を最小限に抑えられます。
また、法人破産を行う際に必要な書類や資料については、以下の記事でも解説していますので、合わせてご参照ください。
(3)手続きをスムーズに進めることができる
法人破産は、会社・法人が有する財産を換価処分し、債権者に平等に配当を行うことで、会社・法人の清算をすることを目的としています。
裁判所が関与することで、換価処分や配当について透明性の高い手続きが期待できますが、その分手続きの進行には厳格なルールがあり、知識や実務経験がなければ的確に進めることが困難です。
弁護士に手続きを依頼することで、ルールを踏まえた対応をし、円滑に進めることができます。
(4)予納金を低く抑えて手続きを行うことができる可能性がある
予納金とは、法人破産を申し立てた際、裁判所に収める必要のある費用のことです。
これを裁判所に納付することで法人破産手続を進めることができます。
資金繰りが悪化し予納金も支払うことができなければ法人破産の手続きを進めることができません。
不渡りを起こしていることは、資金繰りが悪化している1つの目安となりますので、早期に弁護士に相談することがおすすめです。
法人破産には、少額管財事件として予納金を低く抑えられるケースがありますが、これは弁護士が代理人として申し立てる必要があります。
早期に弁護士に相談することで、手遅れになる前に法人破産手続きを進めることができ、また、予納金を低く抑えて手続を行える可能性もありますので、まずは一度弁護士に相談をしてみましょう。
まとめ
手形の不渡りは会社の経営状態が悪化していることを示す大きな目安となります。
もし不渡りを起こしてしまい、資金繰りにめどが立たない場合は、速やかに弁護士に相談しましょう。
弁護士法人みずきは、これまで多くの法人破産手続に携わってきました。
それぞれの会社の経営状態を踏まえアドバイスをしますので、お気軽にご相談ください。
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