個人事業主が個人再生の申立を行うにあたって注意すべきことは?
そもそも個人事業主は、サラリーマンなどと同様、個人再生手続を利用することが可能なのでしょうか。
個人再生手続は小規模個人再生手続と、給与所得者等再生手続というものの2つあります。
給与所得者等再生手続はその名称のとおり、サラリーマンの利用を念頭に法律が作られましたが、小規模個人再生手続は、当初から、個人事業主が、破産手続を回避し、低廉な費用で経済的再生を図ることができることを目的として制定されたものです。
したがって、先程の質問には、個人事業主であったとしても、個人再生手続を利用することは可能であるとの答えとなります。
それでは、個人事業主が個人再生手続を利用するにあたって、気をつけなければならない点はあるのでしょうか。
1.事業再生の可能性があるかどうか
個人再生手続は、再建型の法的手続です。
具体的にいうと、再生手続のなかで決めた再生計画にしたがって、継続的に返済をしなければなりません。
そのため、個人再生手続を利用する個人事業主は、今後の生活費だけではなく、再生計画と呼ばれる返済スケジュールに基づいて、返済を問題なく継続するだけの収益が望めなければなりません。
もし、返済を問題なく継続できないのであれば、手続は失敗となってしまいます。
たとえば、個人事業主が継続的に収益を確保するためには、仕入先・得意先の理解及び協力は不可欠でしょうし、従業員を雇用して事業を営んでいるような場合には、通常従業員の理解及び協力も必要といえるでしょう。
このように、個人再生手続の申立をした後については、再生計画に基づいて返済を行うことができるよう資金繰りについて問題が生じないようにする必要があるといえます。
2.資料等の作成と提出をしなければならない
申立をするに際しては、事業の規模・内容・収支等を報告しなければなりません。
そのため、店舗や事業所については、実際に所有している店舗等なのか、それとも賃借をしている店舗等なのかということを明らかにする必要があります。
その裏付けとして、登記事項証明書や賃貸借契約書などの資料があるのであれば、それも裁判所に提出する必要があるといえるでしょう。
支店がある場合や、工場や倉庫等がある場合には、全てについて上記のような資料が必要となるといえるでしょう。
そのほか、従業員の数や構成なども明らかにする必要があります。
事業収支については、通常は確定申告書を提出する必要があります。
売掛金と買掛金については、債権者を記載する債権者一覧表や財産について記載する財産目録に記載するだけではなく、支払い時期などについて明らかにした方がわかりやすいでしょう。
その際には、請求書・注文書・納品書等を整理しておくと、個人再生手続の申立後に、裁判所や裁判所から選任された手続を指導・監督する個人再生委員に説明をする際に役立ちます。
事業用資産については、その資産の明細と評価額を、リース物件等については明細と今後引続き利用するのか、それとも処分をするか等の処理方針を明らかにする必要があります。
3.支払いが困難となった後での買掛金などに対する支払いの取扱について
個人再生手続は簡単にいうと、支払いが難しくなった段階で、基本的には全ての債務に対する支払いをストップして、裁判所からお墨付きが与えられた再生計画に基づいて、もとの債務より通常5分の1に圧縮された債務を3年から5年にわたって分割して支払う手続です。
このように、基本的には、全ての債務に対する支払いをストップしなければなりません。
支払いを継続することが困難となった(例:個人再生手続を弁護士に依頼した)後、に一部の債権者のみに買掛金などの支払いをすることは、上記の全ての支払いをストップしなければならいということに反する行為で、偏(へん)ぱ弁済(かたよった一部の債権者のみに返済をすることを意味します。)と呼ばれています。
この偏ぱ弁済を行った場合には、偏ぱ弁済をした金額を上乗せして、再生計画の中で支払いをすることになる可能性が出てきます。
また、金額が大きいケースでは、再生手続自体進められなくなってしまいますので注意が必要です。
個人再生手続の開始決定後に、開始決定前の買掛金などの支払いをすることは、再生計画に基づいてしかできないのが通常です。
例外的に、申立後開始決定前までの間に、事業の継続に欠くことができない原材料の購入等をしなければならないときには、裁判所の許可を得て、手続と関係なく返済をすることができる債権(このような債権を「共益債権」といいます。)になるとされています。
事業の継続のために、申立後にも買掛金の発生が予想される場合には、裁判所や個人再生委員と相談して、あらかじめ共益債権として扱ってもらえるように段取りをするなどの工夫をすることが必要でしょう。
(1)売掛金の取扱について
個人再生手続きは、上記のとおり、債務を通常5分の1に圧縮して、その圧縮した債務を3年から5年の間で分割して返済していく手続です。
もっとも、個人再生を考えるほどに債務があったとしても、個人事業主に貸付金や売掛金などの財産がある場合もあります。
この場合、個人再生で債務を5分の1に圧縮した金額よりも、破産をして土地や建物、車や貴金属類の売却や、貸付金や売掛金の回収をした場合の合計金額(これを「清算価値」といいます。)が大きいのであれば、その清算価値までしか債務を圧縮できません。
破産をして土地や建物、車や貴金属類の売却や、貸付金や売掛金の回収をした場合の合計金額(これを「清算価値」といいます。)が大きいのであれば、その清算価値までしか債務を圧縮できません。
この清算価値がいくらかであるかを判断する時期は、申立時でもなく開始決定時でもなく、再生計画について裁判所からお墨付きを与えられる認可決定のときと考えられています。
しかし、開始決定後の売掛金からは、事業の経費、生活費、積立予納金等が支払われ、ほとんどの場合再生手続を利用する債務者には残らないと考えられます。
そのため、実務上は、財産の変動があまりないことを前提にして、開始決定時までの売掛金を清算価値として考える裁判所も多いです。
しかしその場合でも、開始決定後に多額の売掛金が発生し、清算価値が増加する場合には、認可決定時の財産価値を報告することが必要です。
そのため、売掛金については、その金額、内容、発生時期等を準備しておくことが手続を円滑に進めるうえで必要であるといえるでしょう。
(2)リース物件の取扱い
リース物件については、一般にリース物件が引き上げられ、引き上げ後の換価で不足した額については、他の債務と同様に取り扱われます。
もっとも、事業継続に必要不可欠なリース物件については、債権者との間で協定を締結(これを、「別除権協定」といいます。)することで、再生債務者が使用を継続する代わりに、リース物件等の利用権相当額を分割して支払う等の処置が必要です。
リース物件等を保有している個人事業者が個人再生手続を利用する場合には、その取扱について、リース業者及び裁判所と事前調整をして、手続の見通しをつける必要があるといえるでしょう。
まとめ
今回は、個人事業主が個人再生の申立を行うにあたって注意すべきことついて説明をしました。
個人事業主が個人再生の申立を行う場合には、上記の点以外にも問題になる点があります。
早期かつ適切に対処をすることで、円滑に個人再生手続を行なうことができます。
個人再生手続を検討されている個人事業主の方は、なるべくお早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。
関連記事