再生手続開始決定後、再生計画が認可されるまでの間に注意すべきこと
再生手続開始決定がなされたとしても、再生手続を申立した人(以下、「再生債務者」といいます。)は開始決定前と同様に、財産を管理・処分する権利を有します。簡単にいうと、再生手続をしても、再生債務者は自分の財産を自分で管理できます。そのため、基本的には、以前と同様に生活することができます。
しかし、他方で、債権者に対し、公平かつ誠実に、その権利を行使し、再生手続を遂行する必要があります。
今回は、再生手続開始決定時から、再生計画が認可されるまでの間に、手続が滞りなく終了するように注意すべきものとして、①再生手続開始決定の官報広告、②再生債権の弁済の禁止、③再生計画の作成について、説明していくことにします。
1.官報広告がされるということ
再生手続を利用したいということで、裁判所に再生手続申立をして、裁判所が問題ないと判断した場合に、再生手続を開始しますという決定が行われます。
これを、再生手続開始決定といいます。
この再生手続開始決定が行われると、官報広告がされます。官報広告とは、政府が発行する新聞のようなものです。
そこには、再生債務者の氏名、住所が個人再生手続開始決定をしたということが記載されています。
再生手続から、官報広告がなされるまでの間というのは、約10日間と言われています。
もちろん、この官報広告を見る人はいませんので、官報広告をされたとしても、通常は再生手続き開始決定を知人等に知られることはありません。
しかし、職業によっては知人等に知られる可能性があります。
実際に、官報広告に困ったケースとしては、銀行員である再生債務者が融資先の状況を確認するために、官報広告を見ていた上司に知られるなどのケースはあるようです。
そのため、職業柄、官報広告を見る人が身近にいないかどうかは、少しだけ気にする必要があるといえるでしょう。
2.返済は基本的に禁止される
再生債務者は、開始決定手続後に法律上優先順位の高い債権(共益債権及び一般優先債権)については、再生手続と無関係に返済できますが、通常の債権(再生債権)は返済できなくなります。
もし、再生債権に対して、返済をしてしまうと、再生手続が途中で終わる(廃止)となることもありますし、今後毎月このような金額で返していきますということを記載した再生計画案について裁判所から認可が得られないことにもなりかねません。
そのため、返済してよいものと、返済してよくないものについては、慎重になる必要があります。
気をつけなければならいのは、親しい友人から借入れをしていた再生債務者が友人も経済的に困窮したいたために、少額ですが借入金の返済をしてしまうようなケースでしょう。
親しい友人や親族から借入れがあり、その人が経済的に困っていたとしても、返済をしないように特別に注意をする必要があります。
なお、再生債務者が賃借している建物の賃料について、再生手続開始決定前から延滞しているケースにも注意が必要です。
もちろん、賃借人に再生手続開始決定が出たとしても、賃貸人は賃料の不払いを理由として、賃貸借契約を解除することができます。
そのため、再生債務者としては、賃貸借契約の解除を避けるために、賃料の延滞を解消しなければなりません。
しかし、延滞している賃料も他の債権と同じ再生債権ですので、上記のとおり返済をしてはいけません。
返済をしてしまうと、手続が廃止され、また再生計画案が認可されなくなるという大きなリスクを抱えることになるからです。
そのため、賃料の不払いがあるまま申立をする場合には、親族などの負担で賃料の延滞を解消するなどの工夫をする必要があります。
3.再生計画の作成
再生計画が再生手続の中ではとても重要であるといっても過言ではないでしょう。
まさに、債務を圧縮し、その圧縮した債務について返済をしていくという再生手続の効果・メリットと直結するものだからです。
ただし、再生計画の作成にあたっては、以下の3点に気をつける必要があります。
(1)新たな借入れをしないように注意
上記のとおり、再生手続をしても、再生債務者は自分の財産を管理されません。
また、優先順位の高い債権(共益債権や一般優先債権)については、再生手続によらずに返済をすることができます。
そのため、再生手続開始決定後も以前と同じように生活ができます。また、再生手続とは異なり、個人再生手続では、裁判所の許可を得ずに新たな借入れをすることができてしまいます。
そうすると、注意しなければならないのが、新たな借入れをすることで、再生計画に沿った、返済ができなくなることを注意する必要があります。
再生手続をすると、信用情報に傷がつくことになります。
そうすると、借入れをできるのは通常の金融機関やサラ金ではなく、ヤミ金ぐらいしかないでしょう。
その場合に新たな借入れをすると、再生計画通りに返済することができなることは目に見えていますので、ヤミ金などから新たな借入れをしないようにすることに注意をする必要がありあます。
(2)返済期間については慎重に決める必要
再生計画に沿って返済をする場合には、その期間は通常3年間とされていますが、特別の事情があれば5年間での返済が可能です。
3年間の中に、生活状況の変化によって、再生計画どおりに返済できなくなる可能性があります。
また、再生計画について裁判所から認可を得た後に、再生計画を変更することは簡単ではありません。
そのため、再生計画を作成するにあたっては、生活状況(子の進学等)の変化を考慮して、再生計画の返済期間を慎重に決めていく必要があります。
(3)財産変動の報告
再生手続は、清算価値保障原則というルールに反しないことが必要とされています。
これは、簡単に言うと、自己破産をして債権者に対して配当をする場合の金額よりも、再生手続で債権者に対して返済する金額が高くなければならないというルールです。
そして、多くの裁判所では、個人再生手続において、清算価値に反しないかどうかを判断する時期を再生手続の開始決定時ではなく、再生計画認可時としています。
再生手続開始決定時から、再生計画認可時までの間は、東京地裁では5ヶ月(21週間)程度です。
ですから、大幅に金額が変わることはないのが通常です。
しかし、タイミングによっては、手続開始決定時から認可時までの間に、遺産相続や退職により財産が大きく増える時期もあるかと思います。
この場合は、裁判所に財産が増加した旨をきちんと報告する必要があります。
もちろん、何かの理由で財産が大幅に減少した場合も裁判所に報告をする必要があります。
まとめ
今回は、民事再生手続における再生手続開始決定後、再生計画が認可されるまでの間に注意すべき事項について説明をしました。
再生手続を行うにあたっては、上記以外にも問題になる点があります。
早期かつ適切に対処をすることで、円滑に民事再生手続を行なうことができます。
民事再生手続を検討されている方は、なるべくお早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。
関連記事