神社、寺院、教会などの宗教法人の破産、民事再生
日本には、宗教法人が約18万余存在しています(平成28年12月31日現在)。
ひとくちに、宗教法人といっても、それは地域の神社、寺院、教会のようなものから、全国的な組織をもつ教派、宗派、教団のようなもの大小様々あります。
このような宗教法人は、あまり破産や民事再生などの倒産手続とは無縁のようにも思えます。
しかし、宗教法人は、公益事業やその目的に反しない限り収益事業も行うことができるとされています。
そのため、墓地の運営などの事業に乗り出す法人も増えてきています。
事業への安易な参加により、多額の負債を抱え込み、最終的に資金繰りが悪化して、返済が困難もしくは不可能となるところも少なくはなくなってきているのが現状です。
今回は、そもそも宗教法人とは何か、また宗教法人は破産や民事再生などの法的倒産手続を行うことができるのか、倒産手続を行う際に注意をしなければならないこと等について説明をしていくことにします。
1.宗教法人とは
宗教法人とは、教義をひろめ,儀式行事を行い,及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体のことをいいます。
宗教法人はすべて、宗教法人法に基づいて、都道府県知事もしくは文部科学大臣の認証を経て、法人となっています。
なお、宗教法人法は、宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法人格を与えることを目的として作られた法律です。
2.宗教法人は破産や民事再生をすることができるのか
(1)破産手続を行うことができるか
宗教法人が債務について宗教法人の財産によって完済することができなくなった場合は、代表役員は直ちに破産手続開始の申立をしなければならない(宗教法人法48条)と法律では定められています。
このように、宗教法人は破産手続を行うことができますし、むしろ財政が悪化した場合には、破産をしなければならないとまで法律では定められています。
なお、裁判所により、破産手続開始決定がくだされると、宗教法人は解散(宗教法人法43条2項3号)すると法律で定められていますので、破産手続と宗教法人の解散はセットで行うことになります。
(2)民事再生手続を行うことができるのか
宗教法人が民事再生手続を行うことを禁止する法律上の定めはありませんので、宗教法人は民事再生手続を行うこともできます。
(3)どちらの手続を優先的に検討すべきか
宗教法人を設立するためには、宗教団体として立ち上げ、そこから数年は活動実績が認められないと、認証されません。
すなわち、一般の企業のように、法人を破産させて、すぐに同種の企業を法人として設立して、法人として活動することはできないのです。
このように、宗教法人の場合は、解散をするのも難しいですが、設立するのはより難しいといえるでしょう。
そのため、解散をしても問題がない場合や法人を存続する必要が全くない場合を除き、宗教法人の資金繰りが悪化してきた場合に、まず検討すべきなのは民事再生手続といえるでしょう。
3.倒産手続を行う場合に注意しなければならないこと
(1)代表役員が独断専行で手続を行うことはできません
宗教法人には、その役員として、代表役員、責任役員を必ず設置する必要があるとされています。
そして、宗教法人が、宗教活動以外の「事務」を行うためには、責任役員会の議決等の法人が規則で定めた手続が必要です。
また、場合によっては、包括宗教団体の承認等が必要となります。
そのため、破産や民事再生手続などの倒産手続を行うには、代表役員が独断専行で行ってはならず、必ず規則で定められた手続を経る必要があります。
(2)宗教法人が管理していた墓地等についての引き継ぎ
宗教法人が破産をするということは、上記のとおり宗教法人を解散するということを意味します。
すなわち、墓地や納骨堂の運営主体がなくなることで、利用者にとって大きな障害が生じる点があり、一般の企業が破産をする場合とは異なった混乱が予想されます。
檀家などの墓地使用権を守るために、事前に、あるいは事後に破産管財人、裁判所と協議する必要があるでしょう。
たとえば、他の法人に主体を移し、運営をするなどが考えられます。墓地使用権について新法人に経営主体を移行した例もあるようです。
まとめ
今回は、宗教法人の破産、民事再生について説明をしました。
宗教法人が、破産、民事再生などの倒産手続を行う場合には、上記の点以外にも問題になる点があります。
早期かつ適切に対処をすることで、円滑に倒産手続を行なうことができます。
宗教法人の倒産を検討されている法人役員の方は、なるべくお早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。
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