大型事件の特色とは?破産にかかる費用について
大型事件(ここでは、債権者数が300名以上の事件を「大型事件」とします。)について、破産手続がどのように行われるのでしょうか。
今回は、大型事件の特色、費用、特別ルール、東京地裁に大型事件の申立をする際に行なわれる申立前の面接や事前相談、債権者への対応等について説明していくことにしましょう。
1.大型事件の特色
大型事件の場合、債権者債務者間、債権者相互間の利害調整をしなければならないことが多いです。
資産や負債の金額も多額であり、従業員の未払い賃金などの労働債権や税金等の公租公課の処理、債権調査等の管財業務(裁判所から選任された管財人という弁護士が行なう破産する会社の財産を管理、調査、換価、配当等すること)が複雑になります。
このように、大型事件は、管財業務が複雑になることが多いことから、破産手続開始前の裁判所との事前相談、申立代理人・破産管財人候補者、裁判所との適切な連携、関係者からの審尋による破産手続開始要件の慎重な審理、破産手続開始後における事件全体の見通しを立てた上での裁判所と破産管財人との十分な協議が必要となります。
また、通常の管財事件とは異なり、管財業務が膨大になるため、それに応じて予納金額も高額となるので予納金を十分に確保する必要があります。
東京地方裁判所における通常の管財事件では、申立時に担当する裁判官・書記官と債権者期日を担当する裁判官・書記官は必ずしも同じではありませんが、大型事件については、特定管財係という特別の係が担当し、担当裁判官・書記官を固定するという運用となっています。
2.破産にかかる費用の確保
東京地方裁判所での通常管財事件の予納金は、20万円からスタートです。
大型事件では、上記のとおり管財業務が複雑であることから、高額になるでしょう。
大型事件の予納金は、担当裁判官が、事件の内容、債権者数、換価可能財産等を具体的に検討し手続開始後に見込まれる管財業務を想定した上で、債権者申立の基準表を参考にしつつ、を決めるとされています。
予納金が確保できないとそもそも破産できないということになってしまいますから、申立をするには、予納金をどのように確保するかを十分に検討する必要があります。
負債総額(単位:円) | 予納金の目安 |
---|---|
5000万未満 | 70万円 |
5000万以上1億未満 | 100万円 |
1億以上5億未満 | 200万円 |
5億以上10億未満 | 300万円 |
10億以上50億未満 | 400万円~ |
50億以上100億未満 | 500万円~ |
100億未満 | 700万円~ |
※上記は目安です。事情により増額されます。
3.大型事件に関する特別ルール
(1)事件処理をする裁判所について特別ルール
大型事件というのは、上記のとおり大変複雑であるため、経験やノウハウがないと手続をスムーズに進めることが困難です。
そのため、大型事件の経験やノウハウがある裁判所に事件を処理させて、事件処理をスムーズかつスピーディーに進められるようにする趣旨で、以下の特別のルールが定められています。
予想債権者数が500人以上であるときは、法人の本店の所在地を管轄する地方裁判所だけではなく、高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも管轄が認められるとされています。
管轄が認められるというのは、簡 単にいうと、その管轄が認められる地方裁判所に申立をすることができ、その管轄が認められる裁判所が事件を処理するということです。
たとえば、宇都宮市に本店の所在地がある通常の法人の場合には、宇都宮地方裁判所本庁が管轄裁判所であり、宇都宮地方裁判所にのみ申立をすることができます。
これが予想債権者数500人以上の宇都宮市に所在する法人の破産の場合には、通常は宇都宮地方裁判所の本庁だけではなく、高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所すなわち東京地方裁判所にも管轄が認められるということになります。
なお、予想債権者数が1000人以上の場合には、上記の高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に加えて東京地方裁判所か大阪裁判所にも管轄が認められるとされています。
(2)通知についての特別ルール
大型事件の場合、上記のとおり債権者が多数であるため、債権者への通知についても膨大なコストがかかります。
そのため、特別に知れている債権者数の数が1000人以上であり、かつ、相当と認めるときは、裁判所は、破産債権者に対する通知をせず、かつ、破産債権の届出をした破産債権者を債権者集会の期日に呼び出さないという決定をすることができるとされています。
もっとも、東京地方裁判所では、破産管財人が選任される全事件について、「情報を配当」を債権者にするということを重視して、実際には債権者集会を開催する運用となっています。
4.事前相談について
通常管財事件の場合、東京地方裁判所では、破産手続開始申立に関しての事前相談や裁判官による破産者・破産会社の担当者の面接は行われていません。
大型事件の場合は、早い段階で申立代理人が裁判所に情報提供や事前相談をしたり、担当裁判官が事件処理に適切な破産管財人候補者の選定の参考とすることなどの目的で、破産者本人や破産会社の担当者の審尋を行うことがあります。
事件の規模や予想される管財業務の確認および申立から破産手続開始の決定に至るスケジュールや債権者対応等について、関係者間で認識を共通化し、必要な準備をしておくことで、スムーズかつスピーディーな管財業務のスタートを切ることができます。
事前相談の際には、今後の手続に必要であろう資料を準備しておくことはもちろんのこと、会社の代表者や経理担当者等の会社の財産関係について詳しい従業員も同席させることもあります。
そのため、会社の代表者や従業員のスケジュールを確保しておくことが必要となります。
申立直後の混乱を避け、現場を保全するために、申立代理人が手配した人員をあらかじめ会社の各事業所等に配置しておくこと、申立代理人が破産管財人に同行して本社等において説明等を行うこともあります。
以上のように、大型事件の会社の代表者および従業員は、積極的に裁判所および管財人に、十分な情報提供を行い、協働して事件処理にあたる必要があるとされています。
5.債権者一覧表の作成について
申立時には、債権者一覧表というものを裁判所に提出する必要があります。
債権者一覧表には、債権者の氏名・会社名、住所、債権の内容を記載します。
裁判所は、この債権者一覧表によって、破産会社の負債状況を把握し、破産を開始するための要件をみたしているか、今後の手続の見通しをつけることができるからです。そのため、手続申立の当初からできる限り正確な債権者一覧表を作成することが理想ではあります。
もっとも、大型事件については、債権者が少なくとも300人以上と多数ですし、また事業を継続している場合には、債権者と債権額は日々変動していきます。
そのため、正確な債権者一覧表を作成するのは膨大な時間がかかり、申立ができなくなってしまいます。
とりわけ事業を継続している場合には、債権者からの取り立てや会社財産の流出を防ぐため、速やかに申立を行って、破産管財人によって財産の保全を図る必要のあるケースも多いです。
大型事件の債権者一覧表の重要な機能のひとつは、上記のほかに債権者の破産手続参加の機会を確保することにもあります。正確な債権額の把握は後日の破産管財人による債権調査によっても可能です。
そのため申立の際には、正確性と迅速性のバランスを図って正確な債権額を記載することよりも、できる限りもれなく債権者一覧表を作成する必要があるでしょう。
6.東京地方裁判所の即日開始決定の活用
通常の管財事件の場合には、東京地方裁判所においては、特段の事情がない限り、原則として面接を行った日の翌週の水曜日の午後5時に破産手続を開始する決定(「破産手続開始決定」といいます。)をする運用となっています。
これに対し、大型事件の場合には、事案の内容、申立代理人および破産管財人候補者との調整の結果に応じて破産手続開始決定の日時を決めています。
そのため、申立の当日や、翌日の午前中に破産手続開始決定がされることもあり、開始の時間も午後5時に限ることなく、柔軟に行われています。
大型事件の申立代理人としては、債権者の動向や資金繰りを考慮して、事前相談の際に、開始決定日時についての意見を述べられるようにしておくべきでしょう。
たとえば、学校法人や、金融業者、ゴルフ場、建設会社等の破産の場合には、多数の一般客が存在し、申立直後の混乱が見込まれるので、即日開始決定を積極的に利用すべきでしょう。
7.債権者説明会などの債権者への対応
大型事件の場合、申立会社は、申立直後の混乱を防ぐため債権者対応にも配慮する必要があります。
たとえば、破産手続開始直後に、債権者説明会を開催することもあります。なお、これらの説明会の会場手配および費用負担は、法律上で必要とされる債権者集会とは異なりますので、裁判所が支出するのではなく、申立人側が負担することになります。
また、債権者対応のための対応窓口を設けたり、債権者に情報提供をするためのホームページを開設することもあります。
なお、債権者説明会を開くにあたっては、裁判所や管財人と事前に協議をする必要があるでしょう。
債権者集会で裁判所、管財人の方針と違う回答をすることにより、後日の管財業務に支障が生じてしまうことを防ぐためです。
まとめ
今回は、大型事件の特色等について説明してきました。
大型事件とまではいえなくても、会社の規模が大きくなれば大きくなるほど、破産をするにあたっては事前の準備は必要となります。
そのため、会社の破産を検討されている代表者の方々は、行き詰る前にお早目に弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
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