会社破産をする場合に従業員へどう対応をしたら良いのか弁護士が解説

過払い金の請求期限が到達する前にしておくべきこと

執筆者 中越 琢人 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士は、スーパーマンではありませんが、他人が抱える紛争の解決のため、お手伝いをすることができます。私は、一件一件丁寧で誠実な対応を心がけ、問題解決のためにできることはやり尽くすという姿勢でおります。皆様の不安が解消され、平穏な生活を送ることができるようになるまで、紛争解決のお手伝いを致します。

この記事の内容を動画で解説しております。あわせてご視聴いただければと思います。

「会社破産を行う場合、従業員にはどのようなことを、どのようなタイミングで伝えれば良いのか知りたい。」
「会社破産をした場合、手続きの中で、従業員はどのような取扱い受けることになるか知りたい。」

この記事では、会社破産の際、従業員は手続き中どのように取り扱われるのか、会社破産にあたって解雇となった従業員がその後に取るべき諸手続きを想定して、会社としてどのように従業員に対して説明、案内するべきかを解説します。

この記事を読んで、会社破産の際の従業員への対応について知っていただければ幸いです。

1.会社破産した場合の従業員への対応

会社破産をする場合、雇用にしている従業員はいずれかの段階で解雇をすることになります。

もし、破産申立に先だって早期に従業員を解雇する場合には、解雇には解雇予告という法律上要求される制度を守って行うことが必要であり、未払いの給与や退職金をどうするのかという問題もあります。

また、従業員の退職に伴う社会保険に関連する各種手続きも必要にあります。

会社破産を検討中の方に向けて、従業員への解雇予告、未払給料や退職金の支払い、従業員の退職に伴う諸手続について、以下でそれぞれご説明します。

(1)従業員への解雇予告

破産申立に先だって早期に従業員を解雇する場合には解雇予告を行う必要があります。

「解雇予告」とは、会社が従業員を解雇しようとする場合に、その旨を従業員に予告することをいいます。

労働基準法上、解雇予告を、30日前までにしない場合は、会社側は解雇日までの期間が30日に足りなかった分の平均賃金を支払わなければなりません。

解雇日までの期間が30日に足りなかった分の平均賃金は、「解雇予告手当」といいます。

「解雇予告手当」の支払いが必要なのは、会社破産を理由にした解雇の場合においても、例外ではありません。

もし、会社の資産状況からして、この「解雇予告手当」などの賃金が支払えない場合でも、会社破産の手続きが進められないというわけではなく、他の会社に対する債権と同様に、従業員の会社に対する債権として取り扱われることになります。

このように、会社破産による解雇の場合、無条件で従業員との雇用契約が終了するわけではなく、30日前までに解雇予告を行い、解雇日までの期間が30日に足らなかった分は平均賃金を支払うという義務は生じる点に注意が必要です。

その支払いができない場合には会社に対する債権として破産手続上、従業員が債権者となります。

(2)未払給料や退職金の支払

従業員にかかる賃金・退職金は、たとえ会社破産による解雇の場合でも支払義務があります。

未払賃金などが残ったまま会社破産申立てを進めた場合、従業員も会社に対する債権者となり、未払賃金などは、会社の負債となります。

もし破産手続きの中で裁判所が選任する破産管財人が会社の財産を換価するなどして一定の財産ができた場合には、最終的にそれを債権者に配当として債権額に応じて支払うことになります。

このとき、会社破産手続きでは、未払賃金などのうち、破産手続開始前3か月間のものは、財団債権といって最優先で弁済が受けられる債権になります。

また、破産手続開始前3か月間に当たらない未払賃金も、優先的破産債権といって金融機関や取引先に対する債務の返済よりも優先的に弁済が受けられます。

速やかに破産申立てを進めることができれば、財団債権として優先的に扱われ、また、会社財産が散逸する前に速やかに回収をして、破産財団(破産管財人が全債権者への配当の原資とするために形成する会社財産のことをいいます。)を財団再建への支払い原資を形成することができます。

従業員は会社からの賃金で生計を立てていることが多く、賃金が十分に支払われないということは、従業員の生活に大きな影響を及ぼします。

そのため、会社の事業停止に至っておらず、未払賃金が発生していない状況下であれば、従業員に対しては、会社に対する債権ではあるとしても、解雇予告手当の発生しないよう事業停止日から30日以上前に解約予告をしたうえで、可能な限り未払賃金を発生させないようにすることが望ましいです。

なお、仮に、未払賃金が発生してしまう場合には、会社としては、後にご説明する「未払賃金立替払制度」の概要の案内、こちらも後にご説明する、解雇にあたって必要になる社会保険関連の諸手続きの案内を行うことが重要になります。

(3)従業員の退職に伴う諸手続

解雇された従業員の社会保険関連の手続き(健康保険、失業保険、年金など)について、解説します。

#1: 健康保険の切替

退職した従業員は、その後に加入できる健康保険制度として、「任意継続」、「国民健康保険」のいずれかを選択することができます。

任意継続とは、会社に在籍中に加入していた健康保険に継続して加入できる制度です。

会社に在籍中は保険料の半分を会社が支払いますが、任意継続した場合は全額を個人が支払うことになります。

国民健康保険は、市区町村が運用している健康保険制度です。65歳以下の場合は、離職理由が解雇であれば国民健康保険の保険料の減免制度の利用も検討することができます。

一般的には、健康保険任意継続保険料よりも、国民健康保険料の方が低額になることが多いようですが、会社での賃金などによって保険料は変わってきますので、退職後に加入する健康保険を決めるにあたっては、各従業員が、両方の保険料の試算をしたうえで選択することになります。

#2: 失業保険の手続

失業保険は、従業員が退職(失業)したときに、一定期間、所得に応じた金額を受給することができる制度で、厚生労働省が管理運営しています。

失業保険は「自己都合退職」「会社都合退職」の2つに大別され、自己都合退職か会社都合退職かによって、受給開始時期が異なります。

「自己都合退職」は従業員が自らの意思で退職することをいいます。

従業員は、退職しようとする場合、民法上、退職の2週間前に会社側にその旨を通知しなければならないとされており、ここでいう「通知」とは、具体的には退職願や退職届をいいます。

自己都合退職の場合、失業手当を受給できるまでに3か月間の待機期間が発生するため、手当の受給は申請から3か月後となります。

「会社都合退職」とは、会社の都合によって従業員が退職することをいいます。

会社都合退職は、従業員にとっては望まない退職ですから、退職願などの提出は不要です。

会社都合退職の場合、手当受給までに必要な待機期間は7日で、自己都合退職の場合よりも早く手当を受給することができます。

会社都合退職は、従業員の自らの意思に必ずしも合致しない退職であるため、自己都合退職よりも法律上手厚く保護されることになります。

会社破産による解雇は「会社都合退職」となりますので、会社破産により解雇された従業員は、自己都合退職の場合よりも早期に失業保険を受領することができます。

なお、失業保険が受給できる期間は、雇用保険の被保険者として保険料を納めてきた期間に比例します。

そして、失業手当を受給できる期間を一定期間以上残した状態で再就職をすると、再就職手当を受け取ることもできます。

会社としては、雇用中の従業員に対しては、このような失業保険制度の概要と、「会社都合退職」に該当することになることの説明を行うことになります。

#3:年金

従業員が退職すると、厚生年金の対象から外れ、国民年金の対象となります。

失業中の国民年金の保険料支払いは、納付書を利用して失業者自らが支払いをする必要があります。

再就職後、再就職先が厚生年金加入事業所の場合は、再度厚生年金に加入することになります。

会社破産による失業の場合、国民年金保険料の減免申請を検討することが可能となりますので、各従業員は、自ら減免申請を行い、実施・不実施が決定されます。

#4: 源泉徴収票の交付

源泉徴収とは、会社が従業員に代わって所得税を納めるための制度で、従業員の毎月の給与から源泉所得税を差し引いて納税することをいいます。

源泉徴収票には、従業員の1年間の収入と納付した所得税額を記載されています。

源泉徴収票は、従業員が確定申告を行う場合や再就職先での年末調整をするために必要となります。

会社としては、各従業員の確定申告や年末調整のため、解雇による離職日までに発生した賃金などに基づいて源泉徴収票を作成して、速やかに従業員に交付することになります

2.会社破産時の従業員解雇の流れ

従業員の解雇は、会社がすでに事業停止しているか、これから事業停止を迎えるかに応じて、変わってくることになります。

ここでは、特にこれから事業停止を迎える会社における、会社破産に先だって従業員解雇の流れをご説明します。

(1)解雇日の30日以上前に解雇予告を行う

会社が従業員を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前にその旨を従業員に予告します。

このような「解雇予告」を、30日前までに予告をしない場合は、会社側は解雇日までの期間が30日に足りなかった分の平均賃金を支払わなければなりません。

上述のとおり、30日に足りなかった分の平均賃金で会社が当該従業員に対して支払わなければいけない手当を、「解雇予告手当」といいます。

会社破産の手続きで、従業員に対する「解雇予告手当」の支払義務も、金融機関や取引先に対して負っている債務と同じように、従業員を債権者として裁判所に届け出なければいけないことになります。

(2)未払賃金が発生する場合

会社破産をするということは、会社の財務状況が著しく悪く、従業員に対して十分や賃金の支払いができないことも考えられます。

その場合は、従業員に対して「未払賃金立替払制度」という制度の利用を案内することが考えられます。

「未払賃金立替払制度」とは、会社破産により賃金の未払いが生じてしまった従業員に対して、その未払賃金の一部を、労働者健康福祉機構が会社に代わって支払うという制度です。

制度の利用には、会社や従業員に一定の条件があるものの、十分な支払いができないとき、受けられないときはこの制度の利用を促すことになります。

会社破産手続きの中で、「未払賃金立替払制度」の利用は、通常は破産管財人が行うことになります。

会社としては、従業員に対する「未払賃金立替払制度」の概要の説明とともに、速やかに会社破産申立ての準備を進めて、破産管財人に対して会社の資産などを引き継ぐ必要があります。

(3)解雇手続・従業員の退職に伴う諸手続を行う

解雇予告を行った後は、会社は、会社破産申立ての準備と並行して、上記のような諸手続(健康保険、失業保険、年金、源泉徴収票の交付など)を行うことになります。

会社としては、従業員の退職直後は、特に「離職票」や「解雇理由証明書」、「源泉徴収票」の作成が主に取り掛かるべきことになります。

(4)貸与品の回収・私物の持ち帰り要請

会社が所在していた建物は、賃貸借の場合には賃貸借契約の解約により、所有建物の場合でも、申立代理人(破産申立てを行い、会社の資産を預かって、破産管財人へ引き継ぐ弁護士をいいます。)の管理としたり、その後、破産管財人が売却処分したりすることになるため、明渡しが求められます。

そのため、従業員の私物も片づけなければならなくなりますので、従業員には私物の引き取りを求めます。

3.会社破産に関するご相談は弁護士法人みずきへ

当事務所は、会社破産に関して、多数の経験があります。

また、資金繰りが悪化したものの、会社破産までは具体的には考えていらっしゃらないという会社のご相談にも多数応じております。

会社破産をご検討の際は、お早めに当事務所へご相談をいただき、ご状況に応じた会社破産の準備、スケジュール、従業員に対する説明内容などをアドバイスさせていただければと思います。

(1)従業員解雇予告の最適なタイミングを検討できる

当事務所では、資金繰りの状況を伺いながら、事業停止の時期を定め、これと合わせて従業員を解雇すべき時期を一緒に検討していきます。

仮に、未払賃金が発生する場合でも、破産手続きにおける未払賃金の取扱いや、「未払賃金立替払制度」の概要説明など、従業員向けの説明や適切なタイミングも、貴社に合った内容で検討していきます。

特に、事業停止を迎えていない会社は、状況に応じて解雇予告を行うかどうか、行う場合はどの段階で行うか、お早めにご相談ください。

(2)労働者解雇に関する諸手続のサポートを受けられる

当事務所では、会社代表者、担当従業員、社会保険労務士などと連携しながら、諸手続諸手続(健康保険、失業保険、年金、源泉徴収票の交付など)の対応や諸手続をサポートしていきます。

これら諸手続は、会社破産、代表者破産の申立て手続きとは直接的な関りはないものの、当事務所では会社破産申立てを速やかに行えるようにサポートしております。

(3)会社破産の手続を円滑に進められる

上記の各手続をスムーズにかつ的確に行うことで、会社破産、代表者破産の申立てを進められ、会社の債権債務を適切に破産管財人へ引き継ぐことができるようになります。

円滑に破産手続を進め、終結することで、結果的に、会社の資産が散逸してしまうことを防止でき、代表者個人の再起を図ることができます。

まとめ

本記事では、会社破産を行う際の従業員への具体的な対応や流れについてご説明しました。

従業員への解雇予告のタイミングや諸手続の準備は、会社破産申立て手続きとは直接的な関りはないものの、重要性の高い対応です。

それと同時に、諸手続への対応は、代表者個人にも負担がかかるものです。

会社破産の手続のみならず、従業員に関する諸手続のサポートにも豊富な経験のある弁護士に相談していただくことで、手続自体やその後の対応も円滑に進めることができます。

会社破産に関するご相談は、弁護士法人みずきへお寄せください。

執筆者 中越 琢人 弁護士

所属 第二東京弁護士会

弁護士は、スーパーマンではありませんが、他人が抱える紛争の解決のため、お手伝いをすることができます。私は、一件一件丁寧で誠実な対応を心がけ、問題解決のためにできることはやり尽くすという姿勢でおります。皆様の不安が解消され、平穏な生活を送ることができるようになるまで、紛争解決のお手伝いを致します。