飲食店の破産の流れやポイント、注意点について解説
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「飲食店を経営しているが、売上が減少して毎月の支払で赤字が続いている」
「高齢になって店を続けるのが難しくなってきたが、後継者もおらず、借金の支払いだけ残ってしまっている」
「コロナで途絶えた客足が回復しない。借入金返済のめどが立たない」
この記事では、飲食店経営にあたって借入金の支払いが困難になってしまった方に向けて、飲食店の破産手続がどういったものなのか、その流れなどをご説明いたします。
破産手続は、法人であれば廃止決定を得て、個人事業主であれば免責許可決定を得て、代表者個人様の生活等、再起に資する制度です。
この記事を読んで、破産手続を適切に進めていき、債務超過に陥ってしまった状態から、再起を果たせる解決を果たせるよう参考にしていただければ幸いです。
1.飲食店の破産手続
個人で飲食店を経営する場合と法人とでは、おおまかな破産手続の流れは同じですが、細かい部分で異なる点があります。
個人と会社(法人)の飲食店の破産手続の流れについて、それぞれ順にご説明します。
(1)個人飲食店における破産手続の流れ
破産手続は、申立準備から破産管財人との打合せ、債権者集会・免責審尋、免責決定などの段階に分かれています。
各段階で申立人ご本人、弁護士が行うべきことがありますので、以下では、個人事業主の方が飲食店経営している場合を例に、破産手続の流れに沿ってご説明します。
#1:弁護士に相談することが始めの一歩
弁護士に相談をして破産申立を行うべきかどうか、破産手続きを行うにあたっての問題点、今後の流れ等をよく話し合う必要があります。
実際に破産申立を行う場合に、事業停止時期(閉店時期)、借入先、取引先や従業員などへの対応、店舗の原状回復のスケジュール、敷金や売掛金等の回収、破産申立てを行う時期などを決めていきます。
#2:弁護士から債権者へ受任通知を送付して弁護士が全ての窓口に
弁護士からすべての債権者へ受任通知を出します。
破産手続きの申立てを行うことが決まれば新たな借入れや債権者への弁済は禁止されますのでご注意ください。
また、弁護士から受任通知を発送することにより、債権者が金融機関である場合、その金融機関の口座は凍結されてしまいます。破産申立に要する費用、滞納税金の支払いや従業員への未払給与支払い等、本来充てられるべき支払いに充てられなくなりますので、この点も注意が必要です。
#3: 破産申立準備(必要書類など)
店主が個人事業主として飲食店を経営している場合です。
この場合は個人が自己破産手続を行うことになります。
破産手続では、債務超過、支払不能であることが要件となっています。
債務超過とは、債務総額が資産総額を超過している状態のこといいます。
支払不能とは、支払能力を欠くために、本来支払わなければいけない時期(弁済期といいます。)に支払いができない状態をいいます。
支払い能力を欠くというのは、財産、信用あるいは収入のいずれをとっても支払う能力がないことを意味します。
破産申立に必要な資料としては、住民票、確定申告書(2年分)、帳簿、預貯金通帳(2年分)、テナントの賃貸借契約書、事業設備一覧表、従業員名簿、賃金台帳、在庫一覧などをご準備いただきます。
#4:破産管財人の選任・打合せ
破産申立をすると、裁判所は破産手続の開始決定を出して、破産管財人を選任します。
個人の破産手続であれば、資産や収入に乏しいことが明らかで破産手続の費用を支弁することができない方のために同時廃止という手続もあるのですが、個人事業主の方は原則として管財人が選任される管財手続きとなります。
原則として、裁判所が破産手続の開始決定を出す日よりも前に、破産管財人(破産手続の開始決定前の場合は、正確には候補者となります。)の法律事務所で、破産管財人と面談を実施します。
この面談に申立人ご本人も出席する必要があります。
破産管財人に対して、事業内容や売上の推移、債務増大の原因、取引先との関係性や入出金の詳細など、補足説明をします。
#5:破産・管財手続の開始決定
開始決定とは、裁判所から出される破産手続を開始する旨の決定です。
破産手続の開始決定によって、申立人ご本人の財産の管理及び権利が、破産管財人に専属することになります。
また、破産手続の開始決定が出されると、破産管財人による負債や資産などの調査が始まります。
申立人ご本人は、破産管財人から説明を求められた場合、これに応じなくてはならない義務が生じます。
破産管財人による調査手法の一例としては、個人宛ての郵便物が破産管財人に転送されることになりますので、破産管財人は転送郵便物を開封して中身を確認します。
また、破産管財人との面談で、追加で提出するよう指示された資料があれば、これを収集して提出していき、説明をしていくことになります。
破産管財人は、免責許可が相当であるか意見を出しますので、破産管財人の調査に応えていくことが重要です。
#6:免責手続の開始
免責とは、負債の支払義務がなくなることをいい、破産手続きでは最終的に裁判所が免責を認める免責許可の決定を出します。
また、実際に免責許可決定を出すのは裁判所ですが、破産管財人は、浪費や偏波弁済、ギャンブルなどの免責不許可事由がないか調査を行い、免責許可を出すべきか否か意見を述べます。
債権者から免責不許可事由が存在するため、免責を与えるべきでないとの免責意見が出されることもあります。
これに対しては、免責不許可事由がないことや免責不許可事由があったとしても裁量免責とすることが相当であると説明するなどして対応していくことが必要です。
#7:債権者集会・免責審尋
債権者集会とは、破産管財人が破産管財業務に関わる重要事項について意思決定をして、債権者に対して破産手続の進行について報告をする制度です。
債権者集会では、債権者も出席することがあり、破産管財人による調査結果の報告を聞いて、質問するなどします。
免責審尋とは、申立人ご本人に免責を認めるべきかどうか、裁判官が直接様々な質問をしたり、破産管財人が免責に関する意見を述べたりする制度です。
免責審尋は、多くの場合債権者集会と同日に行われ、破産管財人は免責調査の結果や免責意見を裁判所に報告します。
債権者集会・免責審尋は、破産手続の開始決定から約3か月後に期日が設けられます。
こちらも、弁護士のみならず、申立人ご本人も出席することになります。
#8:免責決定
免責審尋の後、裁判所は、破産管財人の免責意見を踏まえて、免責許可決定を出します。
免責許可決定が確定すると、負債を支払う義務がなくなります。
(2)法人飲食店における破産手続の流れ
法人飲食店の破産手続の流れは、多くの点で個人飲食店の場合と同様です。
もっとも、法人の破産手続は、破産終結によって法人の商業登記簿も閉鎖させて完全に法人格を消滅させることを目的の一つなりますので、法人格の存続は前提にならないことから、個人の方のような自由財産(破産手続によっても失われない手元に残しておくことのできる財産をいいます。)という概念はありません。
そのため、弁護士に依頼する段階で、法人の資産や収入をすべて弁護士の管理として、弁護士はこれを管理して、速やかに破産管財人へ引継ぐ必要があります。
このように、法人の資産や収入は、代表者個人の手元に残しておくことができないという点に特徴があります。
以下では、このような法人飲食店の破産手続の特徴を、破産手続の流れに沿ってご説明します。
#1:債務超過・支払不能が法人破産手続きの要件
法人の破産手続でも債務超過、支払不能であることが要件となっています。
債務超過とは、債務総額が資産総額を超過している状態のこといいます。
支払不能とは、支払能力を欠くために、本来支払わなければいけない時期(弁済期といいます。)に支払いができない状態をいいます。
支払い能力を欠くというのは、個人と同じように、財産、信用あるいは収入のいずれをとっても支払う能力がないことを意味します。
また、債務超過は、負債が資産・収入を上回ることを言いますので、法人飲食店では債務超過に陥る事情はさまざまです。
例えば、新型コロナウイルス感染症対策による行動制限以降の客足が回復しなかったり、取引先の倒産で仕入がままならず連鎖倒産を余儀なくされたり、フランチャイズ加盟契約を結んでいたものの、契約期間の途中で解約して、違約金が生じてしまったりといった事情が考えられます。
#2:弁護士に相談することが始めの一歩
個人飲食店と同じように、弁護士に相談をして破産申立を行うべきかどうか、破産手続きを行うにあたっての問題点、今後の流れ等をよく話し合う必要があります。
法人の資産や収入は、破産を弁護士に依頼した後は、弁護士が管理していくことになります。現金や預貯金など法人のすべての資産を弁護士に預けます。
#3:弁護士から債権者へ受任通知を送付して弁護士が全ての窓口に
弁護士からすべての債権者へ受任通知を出します。
なお、個人飲食店と同様に、弁護士から受任通知を発送することにより、債権者が金融機関である場合、その金融機関の口座は凍結さますので、注意が必要です。
#4:破産申立準備
破産申立準備は、個人飲食店と同様に、必要書類をご準備いただきながら行います。
法人飲食店の固有の注意点としては、法人と個人の資産、収入、支出を混同しないことです。
どちらかの資産を他方に渡してしまったり、どちらかの支出を他方が支払ったりしてはいけません。
経理担当の従業員の方や税理士と連携しながら、法人の負債、資産や収入などを把握させていただくことも多いです。
#5:破産手続開始
破産申立をすると、個人飲食店と同じように、裁判所は破産手続の開始決定を出して、破産管財人を選任します。
#6:破産管財人の選任・打合せ
破産管財人との面談、打合せでは、個人飲食店と同じように、同席のうえ、破産管財人に対して、事業内容や売上の推移、債務増大の原因、取引先との関係性や入出金の詳細など、補足説明をします。
また、弁護士が管理していた法人の資産等を、速やかに破産管財人へ引き継ぎます。
破産管財人は、破産財団(債権者への配当の原資となる財産の集まりを意味します。)を増殖させるために活動しますが、破産管財人へ引き継ぐまでの間に、弁護士(申立代理人と呼んでいます。)と協力して、回収可能なものは回収して、また、資産を流出させずに、速やかに破産管財人に引継ぐことが重要となります。
#7: 債権者集会
債権者集会では、個人飲食店と同じように、破産管財人から債権者に対して破産手続の進行について報告がなされます。
法人の場合は、資産の換価などによって破産財団が形成されることも多く、破産管財人から複雑な収支の報告がされることもあります。
また、法人については、負債を弁済できるほどの資産がないとされれば、廃止決定(破産管財人が調査しても換価できる財産がないことが明らかとなった旨の決定です。)によって、破産手続が終了します。
代表者個人も同時に申立てている場合は、個人飲食店と同じように、代表者個人に免責審尋がされます。
#8:債権者への配当
破産申立てを行う弁護士や破産管財人の活動によって、破産財団の増殖を果たせた場合、配当をすることができる金額を、債権者へ配当することになります。
配当をすることができる金額が1000万円未満の場合は、簡易配当という方法で、破産管財人は、債権者への個別通知を省略するなど簡略化して配当手続を執り行います。
第1回目の債権者集会までに配当手続が完了することは稀ですので、約3か月おきに、数回債権者集会が開かれます。
#9:終結
法人飲食店は、廃止決定、又は、配当をすることができる金額が生じた場合の配当手続の終了によって、終結することになります。
2.飲食店における破産手続の注意点
飲食店では、仕入業者などの取引先の他、リース品を用いている等の特徴があります。
また、他の業種でも共通する、意外と知られていない破産手続の注意点もありますので、以下では、これらもあわせて破産手続の注意点をご説明します。
(1)飲食店特有の注意点
飲食店の破産手続は、破産申立準備の段階が特に重要です。
破産申立準備の段階で注意すべきことを、解説いたします。
#1:リース品の整理と引上業者との対応
キッチン設備や空調設備など、リース品を利用しているケースが多いと思います。
長年利用していてリース契約がどのようになっているかわからない場合は、契約書を確認しましょう。
リース品を返却しなければいけない場合は、リース会社、引上業者と調整していくことになります。
#2:賃借している店舗の賃貸人又は管理会社と原状回復作業に関する打合せと敷金の回収交渉
店舗物件は賃借していることが多いと思います。
速やかに解除通知を出して、解約予告期間分の賃料の発生を抑えることと、明渡しのため原状回復作業を行うことが重要です。
もしスケルトンではなく居抜きで賃貸借契約を引き継いでくれる新賃貸人がいて賃貸人が承諾していれば、原状回復費用を節約できます。
預けている敷金もそのまま返還を受けられる可能性がありますので、その方法は検討するべきです。
#3:大型冷蔵庫やキッチン設備、照明、テーブルと椅子、調理器具等の所有する什器備品
什器備品については、その一覧と写真、売却代金や処分費用に関する査定が必須となります。
同業者から安く譲ってほしいなどと声をかけられても、安易に応じてはいけません。
客観的な査定に裏付けられた適正額で売却して、売却代金を弁護士に預けたり、破産管財人へ引き継いだり、そのまま財団に入れることになります。
#4:飲料品や食材等の在庫
什器備品と同じように、その一覧と写真、売却代金や処分費用に関する査定が必須となります。
特に、飲料品や食材等の在庫については、劣化を防ぐため、速やかに適正額で売却する、電気の供給契約のみ継続して冷蔵庫に保管する等、放置して価値を下げてしまうことのないよう対応することになります。
#5:レジに残った現金など
レジに残った現金も散逸させないように注意します。
きちんと破産時に持っている現金として申告をする必要があります。
入出金伝票があれば、これも確保して、弁護士に引継ぐようにしましょう。
#6:看板の権利関係解消など
店舗の賃借物件のみならず、看板を出す契約を結んでいることもあるでしょう。
閉店後に広告費が嵩まないように、解約処理や看板の撤去を検討する必要があります。
(2)偏頗弁済に注意する
取引先業者や親族など、一部の債権者にのみ弁済してしまうと(偏波弁済といいます。)、債権者を平等に扱わなければならないという原則に反するため、破産管財人から否認されて弁済額を回収されてしまうことになります。
個人飲食店であれば、免責許可を得られなくなってしまうおそれがありますので、偏波弁済は行わないよう注意しましょう。
(3)破産申立時期を見据えてスケジュールを組む
負債を弁済していくほどの売上、営業利益が見込めない場合は、支払不能に陥り、借入金や買掛金の返済ができずに期限の利益を失い、債権者から一括弁済を迫られる事態となってしまいます。
そうなってしまう前に予め弁護士に相談をして破産手続申立てに向けたスケジュールを組んでおく必要があります。
(4)従業員や取引先に対して一定の説明が必要
飲食店の場合、従業員や、売掛債権を有する仕入先などの取引先業者、リース品の債権者などが閉店を聞きつけて債権の回収を図ろうとお店にきてしまう可能性があります。
速やかに弁護士に依頼して、各債権者へ通知して、必要に応じた事情を説明しながら、閉店時の混乱を最小限に留めるようにしましょう。
3.破産手続を弁護士に依頼するメリット
これまで見てきたように破産手続は、すべての債権者へ受任通知を出して債務を把握したり、リース物件の権利関係を整理したり、適正な価格で什器備品の処分を行わなければならなかったりと複雑な処理も多く、破産手続を十分に理解したうえで、債権者や裁判所、破産管財人への適切な説明が必要になります。
これらの複雑な処理や債権者や破産管財人への説明を、弁護士に任せることにより次のようなメリットがあります。
(1)従業員や取引先などの債権者対応を任せられる
上記のとおり、閉店時は各債権者の取立行為などが考えられ、混乱を生じてしまうことがあります。
受任通知を送付した後は、弁護士が一括して窓口となりますので、弁護士を通じて負債の状況や今後の手続などを説明して、状況を落ち着かせながら破産手続きを進められることは弁護士へ依頼する大きなメリットといえます。
(2)申立に必要な資料の収集や申立書の作成を任せることができる
破産申立に当たっては裁判所に対して必要な資料をそろえて申立書を提出する必要があります。
提出するべき必要書類を適切に選別して収集することや複雑な申立書類の作成を弁護士に任せられるということは、大きなメリットといえます。
(3)裁判所や破産管財人とのやりとりを任せられる
破産申立時には、裁判所や破産管財人へ破産申立に関する説明が必要になります。
この説明では、どのような原因で債務が増大して債務超過・支払不能に至ったか、換価が必要な資産はないか、事業停止(閉店時期)に債権者からどのような請求があったかなど、破産管財人が調査を行ううえで必要な事項を、十分に説明する必要があります。
また申立て後も裁判所や破産管財人から尋ねられることや資料の提出を求められることは多くあります。
このような裁判所や破産管財人との対応についても破産手続きを十分に理解し、事情を把握して的確に行う必要があります。
そのため、これらの説明を弁護士に任せられることは申立人ご本人にとってメリットがあります。
(4)予納金が低くなる傾向がある
予納金とは、破産手続きを申立てするにあたって裁判所に支払いが必要な費用のことです。これは後に破産管財人の報酬などになります。
破産申立を弁護士に依頼することによって、事案の整理が図られ、破産管財人の負担が軽減されます。
そのため、裁判所から要求される予納金の金額も弁護士が代理人となって事案を整理して申立てを行うことで低減される傾向があります。
まとめ
本記事では、法人飲食店と個人飲食店の破産手続における流れをご説明しました。
それぞれの手続によって流れは異なりますが、同じ注意点に気をつけながら手続を進めることが重要です。
また、飲食店が破産する際には従業員や取引先などの債権者への対応が必要となりますので、弁護士へ依頼することで迅速かつ的確に手続を進められるでしょう。
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