非器質性精神障害
「器質性精神障害」は脳外傷を伴う精神障害のことをいい、「非器質性精神障害」は脳の器質的損傷が客観的に証明できない場合の精神障害をいいます。交通事故で外傷を伴って脳のどこかに器質的損傷が生じていたとしても、X線やMRI等の画像によって客観的にその器質的損傷を証明することができない場合には「非器質性精神障害」となるわけです。
交通事故によって非器質性精神障害が生じた場合、自賠法施行令上認められる可能性のある後遺障害等級は、「第9級10号」、「第12級13号」、「第14級9号」の3つがあります。
非器質性精神障害の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することのできる労務が相当な程度に制限されるもの |
第12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの |
第14級9号 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの |
非器質性精神障害の後遺障害等級判断基準
自賠法施行令によって定められている後遺障害等級認定基準は、基本的に労災保険の基準に準拠しています。労災保険の基準上で非器質性精神障害は、以下の「Ⅰ 精神症状」の内1つ以上の精神症状があり、かつ、「Ⅱ 能力に関する判断項目」の内1つ以上の能力について障害が認められる場合、その程度によって等級の認定を受けることができると定められています。
Ⅰ 精神症状 | Ⅱ 能力に関する判断項目 |
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①抑うつ状態 ②不安の状態 ③意欲低下の状態 ④慢性化した幻覚・妄想性の状態 ⑤記憶又は知的能力の障害 ⑥その他の障害 (衝動性の障害、不定愁訴 等) |
①身辺日常生活 ②仕事・生活に積極性・関心をもつこと ③通勤・通勤時間の厳守 ④普通に作業を持続すること ⑤他人との意思伝達 ⑥対人関係・協調性 ⑦身辺の安全保持・危機の回避 ⑧困難・失敗への対応 |
<第9級10号>
- Ⅱの②~⑧のいずれかひとつの能力が失われているもの
- Ⅱの4つ以上について、しばしば助言・援助が必要とされる障害を残しているもの
<第12級13号>
① 就労しているもの又は就労意欲のあるものについては、2の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
② 就労意欲の低下又は欠落により就労していないものについては、身辺日常生活を適切又は概ねできるもの
<第14級9号>
交通事故に遭ったことによって非器質性精神障害が生じた場合、自賠責保険に申請して、後遺障害の等級認定を受ける必要があります。
しかし、非器質性精神障害で後遺障害等級の認定を受けるためには超えなければいけないハードルがいくつかあり、なかなか容易ではありません。
自賠責保険の運用として、非器質性精神障害の可能性のある案件については、審査する側にも専門的な知識を要するため、一般の事案が審査される自賠責調査事務所ではなく、専門部会のある自賠責の最上位審査機関である自賠責保険審査会が審査します。
自賠責保険に非器質性精神障害で後遺障害認定申請をする際は、以下のような事柄に注意しながら準備を進めていく必要があります。
① 因果関係の立証について
非器質性精神障害は、交通事故に起因する障害だということを、MRIやCTの画像を使って客観的に証明することができません。こういった場合、因果関係を主張するためは、事故状況、受傷内容、精神症状の発症時期、精神科等専門医への受診状況、を元に、交通事故により発症した障害であることを判断します。たとえば、事故直後に精神症状は見られなかったが、職場に復帰した後に抑うつ状態に陥るようになったというケースの場合、発症は職場環境に起因するものであるとして、因果関係が認められない可能性が出てきます。
したがって、非器質性精神障害で因果関係を立証する際は、その精神障害が交通事故を原因として発症したという点についての立証だけでなく、交通事故の他には発症の要因が存在しなかったということの主張立証が必要となります。
また、仮に因果関係が認められた場合でも、保険会社より、本人の生来の性格や家庭環境等、他の要因も影響しているとして減額(素因減額)の主張が出される場合も少なくありません。
② 症状の認定
非器質性精神障害の程度は、画像所見等により客観的に認定することができません。そのため、「非器質性精神障害の後遺障害の状態に関する意見書」や「日常生活状況報告表」を専門医に作成してもらい、そこに書いてある内容を元に症状の程度を判断することになります。
③ 症状固定の時期
非器質性精神障害の多くは、心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば1年半から2年ほどで完治すると一般的には考えられています。一時的に症状に大きな改善が認められない状態に達した場合でも、一定期間治療を継続し、それでもなお回復が見込めない状態となった場合に、症状固定をすることになります。
もっとも、上記のとおり、非器質性精神障害の症状が客観的に判断できない以上、症状固定の時期の判断も難しい問題となるといえます。