足(下肢)の後遺障害
私達の足は、医学的には「下肢」(かし)といいます。下肢は、腰の部分(下肢帯)とその下の「自由下肢」で構成されていて、自由下肢には、「大腿」、「膝」、「下腿」、「足」の四部位があります。
大腿には「大腿骨」という長管骨、下腿には内側に「脛骨」、外側に「腓骨」という二つの長管骨がそれぞれあり、それらの骨を繋ぐ形で「膝蓋骨」がはまって膝関節を形成しています。自賠法施行令の後遺障害等級認定基準の中に、「下肢の3大関節」という言葉が使われていますが、「膝関節」は下肢の3大関節のうちのひとつです。
この「膝関節」は大腿骨と脛骨で構成される「脛骨大腿関節」と、膝蓋骨と大腿骨で構成される「膝蓋大腿関節」の2つで成っています。
脛骨大腿関節の左右には、「半月板」というクッションの役割を果たす軟骨組織があり、この中を交叉するように「前十字靱帯」と「後十字靱帯」、外側を覆う形で「外側側副靱帯」と「内側側副靱帯」という靱帯組織が通っていて、これらの靱帯組織によって大腿骨と脛骨は繋がっています。
交通事故によって生じる下肢の怪我としては、膝関節を形成する骨の骨折や脱臼、半月板損傷や靱帯損傷などがあり、これらの怪我を原因とした疼痛(痛み)、可動域に制限が生じることが主な後遺障害となります。
自賠法施行令に定められた後遺障害等級認定基準の上で、下肢の後遺障害は、疼痛等の「神経系統の機能障害」のほか、「欠損障害」、「機能障害」、「変形障害」、「短縮障害」があります。
1. 神経系統の機能障害の後遺障害認定基準
神経系統の機能障害の後遺障害認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
神経系統の機能障害の後遺障害判断基準
-
<12級の局部に頑固な神経症状を残すもの>
- 自賠責保険の実務上では、神経系統の障害が他覚的に証明できる場合がこれに該当すると考えられています。
「他覚的に証明」とは、XP線、CTやMRI等の画像所見や、神経学的所見により障害が証明できることを指します。 -
<14級の局部に神経症状を残すもの>
- 事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による障害であることが説明可能であり、医学的に推定できる場合がこれに該当すると考えられています。
12級と14級の違いは、説明可能か、証明可能かの違いになります。
被害者の自覚症状が事故を原因とするものであることが「医学的に証明できる」場合は12級に該当し、自覚症状が事故の態様などから「説明できる」範囲に留まる場合は14級が該当し、それ以外の場合、つまりは医学的に説明することも証明することもできない場合が非該当となります。
そのためにはレントゲンやMRI検査、各種生理学的検査の結果が重要になります。
2.足(下肢)の機能障害
足(下肢)の機能障害の後遺障害認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第1級6号 | 両下肢の用を全廃したもの |
第5級7号 | 1下肢の用を全廃したもの |
第6級7号 | 1下肢の3大関節の2関節の用を廃したもの |
第8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
足(下肢)の機能障害の後遺障害等級判断基準
機能障害の等級は、関節の可動域の角度がどの程度制限されているかによって判断されます。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
膝関節の主要運動(日常動作において最も重要なもの)は「屈曲・伸展」があります。
膝関節の主要運動と参考可動域角度(正常値)は以下のとおりになります。
なお、可動域の測定は5度刻みで行います。端数が生じた場合は、5の倍数に切り上げます。
主要運動 | 正常値 | |
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屈曲 | 130° | 膝を折るように曲げる動作です。 |
伸展 | 0° | 膝を足の甲側に曲げる動作です。 |
機能障害の等級は、関節の可動域がどの程度制限されているかによって判断されます。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較します。
交通事故の影響による症状が両方に出てしまった場合は、上記の参考可動域角度と比較することになります。
比較の結果と認定は以下のようになります。
用を廃したもの | 全く可動しない又は10%以下しか動かない場合 |
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著しい障害を残すもの | 1/2以下に制限されている場合 |
機能に障害を残すもの | 3/4以下に制限されている場合 |
膝関節の機能障害は、医師による検査の結果で等級がはっきり分かれるため、正確に測定してもらう必要があります。
また、可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明されなければなりません。
レントゲンやMRI画像を準備し、既往症と診断されないように後遺障害診断書の作成にも注意を払うことも重要です。
3.足(下肢)の欠損障害
足(下肢)の欠損障害の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第1級5号 | 両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
第2級4号 | 両下肢を足関節以上で失ったもの |
第4級5号 | 1下肢のひざ関節以上で失ったもの |
第5級5号 | 1下肢を足関節以上で失ったもの |
足(下肢)の欠損障害の後遺障害等級判断基準
「ひざ関節以上で失ったもの」
以下のような場合を指します。
Ⅰ 股関節の「寛骨」と「大腿骨」を離断した場合
Ⅱ 股関節と膝関節の間で切断した場合
Ⅲ ひざ関節において、「大腿骨」と「脛骨」及び「腓骨」とを離断した場合
「足関節以上で失ったもの」
以下のような場合を指します。
Ⅰ 膝関節と足関節の間において離断したもの
Ⅱ 足関節において、「脛骨」及び「腓骨」と「距骨(足の甲の骨)」とを離断したもの
4.足(下肢)の変形障害
足(下肢)の変形障害の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第7級10号 | 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
第8級9号 | 1下肢に偽関節を残すもの |
第12級8号 | 長管骨に変形を残すもの ※ここにいう長管骨とは、大腿骨、脛骨のことを指します。 |
足(下肢)の変形障害の後遺障害等級判断基準
変形障害は偽関節の有無と骨の変形や欠損の有無により判断されます。
偽関節とは、骨折の後、骨がくっつかずに回復が止まってしまったものをいいます。
つまり、骨がくっつかずに止まってしまったか(偽関節)、骨はくっついたけれど変形が残っているか(変形や欠損)という点で差が生じます。
5.足(下肢)の短縮障害
足(下肢)の短縮障害の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第8級5号 | 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
第10級8号 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
第13級8号 | 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
足(下肢)の短縮障害の後遺障害等級認定基準
足の短縮障害は、「上前腸骨棘(じょうぜんちょうこつきょく)」という腰骨の一番高いところの骨から、足の内側のくるぶしの骨の下端(下腿内果下端)までの長さを測定し、健側(事故の影響による症状がない側)との比較によって認定します。