腰の後遺障害
腰は、足と胴体をつなぐ部位です。腰には、「骨盤骨」と「脊椎」という体幹を形成する骨(体幹骨)があります。
脊椎には脳からの指令を伝達する役目を果たしている「脊髄」という中枢神経が通っていて、腰の部分の脊椎には「腰椎」、脊髄には「腰髄」という名称がそれぞれついています。
腰髄が損傷すると、腰から下に重篤な神経症状や麻痺が生じることもあり、大変重要な部分です。
また、骨盤骨と足の大腿骨を繋ぐ関節を、「股関節」と呼びます。股関節は二つの大腿骨頭を寛骨臼で包み、その周りを多くの強い筋肉で覆っています。股関節は人が歩いたり走ったりするうえで、重要な役割を担う関節です。自賠法施行令に定められた後遺障害等級認定基準上で、「下肢の3大関節」という言葉が出てきますが、股関節はこの3大関節のうちの1つです。
交通事故によって生じる主な腰の傷害としては腰椎捻挫(腰のむちうち)や椎間板ヘルニアがあります。この他に、脊髄損傷、また股関節脱臼や股関節を形成する骨の骨折などが考えられます。
自賠法施行令の後遺障害認定基準上で、腰の後遺障害は、捻挫・むちうち、脊髄損傷等の「神経系統の機能障害」、股関節の可動域角度に制限が生じる等の「下肢の欠損又は機能障害」、骨盤骨や腰椎に変形等が生じる「脊柱及びその他の体幹骨の変形及び運動障害」があり、それぞれの程度に応じて各等級に認定されることになります。
1.腰のむちうち(腰椎捻挫)
交通事故による怪我の中で最も代表的なのが腰のむちうち(腰椎捻挫)です。
自賠法施行令に定められている後遺障害認定基準において、むちうちは「神経系統の機能又は精神障害」という系列に該当します。
なお、むちうちというのは正式な名称ではなく、医師からの主な診断名としては「腰椎捻挫」と診断されることが多いです。
腰のむちうちの後遺障害認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
腰のむちうちの後遺障害認定のポイント
<12級の局部に頑固な神経症状を残すもの>
<14級の局部に神経症状を残すもの>
事故の状況、診療経過からわかる症状に連続性・一貫性があり、事故による症状として説明可能であり、医学的に推定できる場合をいいます。
12級と14級の違いは、説明可能か、証明可能かの違いになります。
被害者の自覚症状が事故を原因とするものであることが「医学的に証明できる」場合は12級に該当し、自覚症状が事故の態様などから「説明できる」範囲に留まる場合は14級が該当し、それ以外の場合、つまりは医学的に説明することも証明することもできない場合が非該当となります。
なお、医学的に証明できる場合というのは、レントゲンやMRI等の画像所見や、神経学的所見等の他覚的所見をもとに障害が判断できる場合をいいます。
そして、14級9号が認められない場合には「非該当」とされてしまう可能性も検討する必要があります。腰椎捻挫はむち打ちなどと同じようにレントゲンやMRI検査などの画像所見に原因が現れないことが多い上に、腰痛に関しては「既往症」と判断されてしまうことも多いためです。後遺障害申請の際には、要点を押さえた後遺症診断書の作成を依頼して、不当な判断をされないようにすることが大切です。
<椎間板ヘルニア>
「椎間板」というのは、脊柱を構成する椎骨という骨と骨の間にある衝撃を吸収するためのものです。この椎間板が何らかの拍子に飛び出てしまうことを椎間板ヘルニアといいます。
椎間板ヘルニアが生じた場合、それが原因となって脊髄(神経)が圧迫され、四肢に痺れや疼痛(痛み)が生じることがあり、腰椎の椎間板ヘルニアの場合、下肢(足)に疼痛や痺れが生じることになります。自賠法施行令に定められた後遺障害認定基準上で、椎間板ヘルニアは腰椎捻挫等と同じく「神経系統の機能障害」として判断されます。このため、認定される等級は、12級13号か、14級9号のいずれかとなります。
なお、椎間板ヘルニアは、椎骨と椎骨の間から椎間板が突出してしまうことなので、通常MRIの画像上で認識することができます。
しかし、椎間板ヘルニアは、年齢を重ねることによって生じることや、仕事で重いものを持つことが多い人が患うことも多いため、MRI画像上で椎間板ヘルニアが確認できたとしても、それが交通事故以外の要因を原因としているとして、既往症と判断されてしまうことがあります。
自賠責保険に後遺障害認定申請を行う場合は、その椎間板ヘルニアが交通事故によって生じたものであるということがわかるように後遺障害診断書等の申請書類に十分に注意する必要があります。
2.脊柱及びその他の体幹骨の後遺障害
腰椎の圧迫骨折等により、脊柱に変形障害や運動障害が生じた場合は、この認定基準により後遺障害が認められる場合があります。
脊柱の変形及び運動障害の後遺障害認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第6級5号 | 脊柱に著しい変形または運動障害を残すもの |
第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
第11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
脊柱の変形及び運動障害の後遺障害認定のポイント
<変形障害>
なお、脊椎には横突起や棘突起がついていますが、これらの局部的な欠損や変形は変形障害としては考慮されません。あくまで脊柱自体に変形障害が残ることが必要となります。
<運動障害>
その他の体幹骨の後遺障害認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第12級5号 | 鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
その他の体幹骨の後遺障害判断基準
「著しい変形を残すもの」とは、裸体になったときに変形や欠損が明らかにわかる程度のものを指します。X線写真でみてはじめて発見わかる程度のものは該当しません。
3. 脊髄損傷(腰髄損傷)
腰椎は脊椎の一部であり、その中には脊髄(腰髄)が通っています。腰髄に損傷が生じた場合、腰から下について重篤な神経症状や麻痺が発生します。下肢の運動、感覚機能が消失する場合や、完全に麻痺してしまう場合があります。
脊髄損傷の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に簡易な労務以外の労務に服することができないもの |
第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、簡易な労務以外の労務に服することができないもの |
第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
脊髄損傷は、身体的所見及びMRI、CT画像等によって他覚的に裏付けられる麻痺の範囲と程度に則って後遺障害等級が幅広く定められています。
たとえば、片方の足が麻痺している場合には9級から5級の間で等級が認められる可能性があり、四肢麻痺が認められる場合は、3級以上の等級が認められる可能性が高いです。
このように脊髄損傷について等級が幅広く設定されているということは、脊髄損傷の中でも何等級が認定されるかで、賠償額に大きな差が出てくるということです。自身の症状に見合った適切な後遺障害等級の認定を受けるためには、早期に資料収集を開始して後遺障害等級の神聖に備えることが重要となります。
4. 下肢の機能障害
股関節は、大腿骨頭を寛骨臼で深く覆うように収納しているため、もともと自然には脱臼や骨折が生じにくい構造をしています。
しかし、交通事故で大きな衝撃が外部から加わった際は、脱臼や骨折などを生じることがあります。
自賠法施行令に定められた後遺障害等級認定基準上で、「下肢の3大関節」という言葉が出てきますが、股関節はこの3大関節のうちの1つです。
股関節は人間の体を支える上で重要な部分なので、脱臼や骨折がうまく治癒しない場合には機能障害が生じることがあります。
下肢の機能障害の後遺障害等級認定基準
等級 | 後遺障害 |
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第1級9号 | 両下肢の用を全廃したもの |
第5級5号 | 1下肢の用を全廃したもの |
第6級7号 | 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
機能障害の等級は、どこの関節がどの程度制限されているかによって判断されます。
股関節は通常、屈曲・伸展、内転・外転と多様に大きく可動します。そこで、これらの動きがどの程度制限されているかということが後遺障害の等級認定に当たっては問題となります。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
比較の結果と認定は以下のようになります。
用を廃したもの | 全く可動しない又は10%以下しか動かない場合 |
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著しい障害を残すもの | 1/2以下に制限されている場合 |
機能に障害を残すもの | 3/4以下に制限されている場合 |
このように、医師による検査の結果で等級がはっきり分かれるため、診断の際には慎重を期す必要があります。 また、可動域に制限が出ていても、交通事故によって生じた器質的損傷を原因とすることが医学的に証明されなければなりません。そのためには、レントゲンやMRI画像を準備し、既往症と診断されないように後遺障害診断書の作成にも注意を払うことが大切です。