職場で取り組むべきコンプライアンス対策とは?ハラスメント対策の防止法を解説

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

この記事の内容を動画で解説しております。あわせてご視聴いただければと思います。

「コンプライアンスって何?」
「ハラスメントとの関係は?」
「コーポレートガバナンスとどう違うの?」

コンプライアンス、コンプラ違反、そのような言葉を耳にする機会は多いです。

本記事では、コンプライアンスとは何なのか、職場で取り組むべきコンプライアンス対策とはどういうものなのか、そしてハラスメント対策の重要性を高めた労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の改正についてもご紹介します。

会社にとってコンプライアンスは事業活動を継続するための大前提となります。

そのため、よく知らないと思っていても今更きけないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事を参考に足がかりに知識を深めていただければ幸いです。

1.コンプライアンス対策の重要性

自己破産の手続中に制限されること

コンプライアンスとは和訳すると「法令遵守」、定められた法令や規則を守ることです。

一般的にコンプライアンスというと、法規範だけでなく、就業規則などの社内規範、倫理規範を遵守する意味も含まれています。

そしてコンプライアンスを維持する仕組みをコーポレートガバナンス(企業統治)といいます。

近年、インターネットやSNSの普及によって、会社の不祥事は、発覚しやすく、且つ広まりやすくなりました。

マイナスイメージはひとたび広まってしまうと会社生命を脅かしかねません。

ひとつのコンプライアンス違反から社会的信用が低下、そこから業績悪化、最終的には倒産という会社も少なくないというのが実情です。

そのため、コンプライアンス対策は会社の規模を問わず課題となっています。

2.職場で起こる主なコンプライアンス違反

職場で起こるコンプライアンス違反には次のようなものがあります。

  • 個人情報漏えい
  • データの持ち出し
  • 顧客情報流出
  • SNSの不適切な発信
  • ハラスメント
  • 不適切な時間外労働
  • 不正会計
  • 横領
  • 偽装事件
  • 景品表示法違反
  • 著作権侵害

いずれも会社の社会的信用を失墜させるものばかりです。

では、未然に防止する、リスクを最小限にするためには、どのような対策を講じる必要があるのでしょうか。

3.職場でとるべきコンプライアンス対策

コンプライアンス対策に画一的なものはありません。

たとえば、ハラスメントは生じにくいけれども個人情報漏洩は生じやすい、個人情報漏洩は生じにくいけれども労基法違反は生じやすいなど、企業体質によって対策すべき内容は異なります。

それぞれの会社に適した措置を講ずるためには、コンプライアンス違反が生じる原因に目を向ける必要があります。

(1)職場でコンプライアンス違反が起きる原因

それではコンプライアンス違反が起きる原因とはどのようなものあがるのでしょうか。

#1:不正が発覚しにくい業務管理体制

違法残業があった職場では残業の申請や時間を管理する仕組みが整っていない、個人情報漏洩が起きた職場では各従業員が自前のUSBによって自由にデータを持ち出せる状態であったなど、管理体制の不備は気付かぬコンプライアンス違反を誘発しやすいです。

#2:法律に関する知識が浸透していない

不適切な内容をSNSで発信してしまった、自分の行為がパワハラにあたると認識していなかったなど、どんなに管理体制を整備しても、従事する人が規範とそれを遵守して働くことを正しく認識していない場合は、違反を完全に防ぐことはできません。

#3:コンプライアンス違反を是正する仕組みがない

  • コンプライアンス違反が生じた場合に原因を調査し是正する仕組みがない
  • 違反に発展する可能性があるとの問題意識をもった従業員が相談する先がない

このような会社はコンプライアンス違反のリスクを抱えています。

加えて、管理体制の構築が遅れやすい、働く人の意識も育ちにくい環境といえます。

#4:従業員がプレッシャーを感じやすい環境にある

ノルマを達成するために書類を偽造した、経費を抑えるために賞味期限を偽装した、顧客対応に不満がありそれを飲食店で愚痴ってしまったなど、従業員がプレッシャーを感じやすい職場は思い余ってコンプライアンス違反に走る従業員が生じる可能性があります。

(2)職場でコンプライアンス違反のリスクとなるものに対応する仕組みを取り入れる

コンプライアンス違反の原因となるものを洗い出せたら、それに適応する仕組みを取り入れていきます。

#1:コンプライアンス規定の作成と社内周知

まず企業としてコンプライアンスを推進し、調査・是正する姿勢があるということを示す必要があります。

コンプライアンス規定を作成し、社内全員へ周知する必要があります。

#2:コンプライアンス研修を定期的に行う

コンプライアンス規定を作成したとしても、業務に従事している中で触れる機会がないと意味がありません。

そのため、トラブル事例や法改正の共有など、定期的な研修を行い各従業員を啓発していくことが大切となります。

#3:管理監督体制の確立

コンプライアンス違反が生じないよう管理する体制や、コンプライアンス違反が実際に生じた場合にそれを上部へ共有する体制が必要となります。

たとえば、労務管理システムを導入する、相談を受け付ける担当者を設けるなどです。

また、相談を受け付ける担当者を設けた場合は、コンプライアンス違反が生じた際に是正に協力した従業員の情報などの秘密が守られるよう、その人材を啓発することも大切です。

(3)公益通報者保護法にみるコンプライアンス対策

コンプライアンス対策に関連する法律として「公益通報者保護法」という法律があります。

この法律は、会社の不正を内部から通報した従業員等に対して、会社が解雇や不利益な取扱いをすることを禁止し、通報者を保護することによって、会社における不正リスクの早期発見・是正・被害の防止を図ることを目的としています。

公益通報者保護法は2006年に施行されましたが、通報者の保護が十分に機能していないとして、2022年6月に以下の点が改正されました。

詳しい改正内容についてはこちら(消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律 令和2年法律第51号

#1:従業員数301人以上の会社の公益通報体制整備の義務化

従業員数301人以上の会社に対し、公益通報窓口の設置、通報があった際は調査を行い、必要な是正措置等をとることが義務付けられました。

なお、従業員数300人以下の中小企業については努力義務とされています。

#2:担当者に守秘義務と守秘義務違反時の刑事罰の導入

通報受付や調査等に従事する担当者に対して、通報者を特定する情報を漏らしてはならないという守秘義務が定められました。

守秘義務に違反した場合は、30万円以下の罰金が科されます。

#3:公益通報者の範囲の拡大

改正前は労働者とのみ定められていましたが、退職者と役員が新たに加わりました。

公益通報者保護制度は中小企業には関係のないものと思われがちです。

しかし、通報体制を整えておくことは会社と労働者の両方を守ることにも繋がるため、会社のコンプライアンス対策の一環として、中小企業もそのエッセンスを取り入れるべきだといえます。

3.コンプライアンス対策の一環としてパワーハラスメント対策

これまで、ハラスメントは法規制がなかったため、コンプライアンス対策とは一線を引いていました。

しかし、社会全体でハラスメントのトラブル事例が生じたことをきっかけに、次々と法律による義務化が進んでいます。

男女雇用機会均等法や育児介護休業法等においてセクハラやマタハラの予防や対処措置が義務化され、さらに、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)により、2022年4月以降すべての会社は職場におけるパワハラ防止のために必要な措置を講じることが義務となりました。

そのため、会社としては法令に則り必要な措置を講じる必要が生じています。

ここでは、職場でやっておくべきハラスメント対策についてご紹介します。

(1)ハラスメントとは

ハラスメントは、「いじめ」「いやがらせ」です。

ハラスメントには複数の種類があります。

代表的なのは、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなどがあります。

(2)職場におけるパワハラの定義とは?

パワーハラスメントとは、職場の力関係にもとづくいやがらせです。

法的には、

「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当の範囲を超えた者により、その雇用する労働者の就業環境が害されるもの」

と定められています。

パワハラの態様は、以下のとおり分類されます。

  1. 暴行・傷害(身体的な攻撃)
  2. 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
  3. 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
  4. 業務上明らかに不必要なことや遂行不可能なことの強制(過大な要求)
  5. 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる(過小な要求)
  6. 私的なことに過度に立ち入る(個の侵害)

(3)パワハラ防止法によって義務化された内容

雇用管理上必要な措置の具体的内容としては、

  • 会社としてパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
  • 相談、苦情への対応体制の整備(相談窓口、調査、是正)
  • 関係者のプライバシー保護と解雇その他不利益取扱いの禁止

が挙げられます。

罰則規定はないものの、改善が見られない会社は会社名が公表されることが決定しています。

ハラスメントについて事業主の講じるべき対策と弁護士の活用法についての詳細はこちらの記事もご一読ください。

ハラスメントについて事業主の講じるべき対策と弁護士の活用法

4.弁護士を外部相談窓口にするのがおすすめ

ここまで、コンプライアンス対策の一環として、発生したトラブルが上部へ共有されるよう相談窓口を設けること、そして、適切な調査や是正がなされるよう体制を整える必要性についてご紹介しました。

昨今、コンプライアンス違反、ハラスメントが生じた際の対処や、この管理監督体制を外部の弁護士に依頼する会社が増えてきています。

もちろん、相談窓口を社内の人員によって構成することはできます。

その場合、相談窓口である以上、相談を受けられる体制と能力を有している必要があるため、社内担当者を据える場合はその人材を育成しなければなりません。

しかし、せっかく育成した人材でも、人数の少ない職場ではその従業員も当事者となってしまう可能性があります。

さらに、会社の上層部も関与してのトラブルであった場合、公平な視点による調査・是正を行ったとしても、恣意的な判断がなされたのではないかとの目で見られてしまうという可能性があります。

そうすると、せっかく体制を整えたとしても形骸化してしまう可能性が出てきます。

これらのお悩みは、外部の弁護士を相談窓口として活用することで解消することができます。

当事務所では、人数の少ない職場の外部の相談窓口としての対応や、社内管理監督体制の整備のサポートなど、幅広く対応しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本記事では、コンプライアンスとは何なのか、コンプライアンス対策とはどのように構築していくものなのか、そして昨今義務化が進み必要性が高まったハラスメント対策についてご紹介しました。

コンプライアンスは会社が健全に活動・成長していくうえでの大前提となります。

本記事を読んで、コンプライアンス対策に踏み切りたいとお考えの経営者の方は、是非一度当事務所へご相談いただければと思います。

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。