残業代の未払を労基署に告発されたらどうする?企業側の対処法を解説
この記事の内容を動画で解説しております。あわせてご視聴いただければと思います。
「残業代の未払を告発されたら何が起こる?」
「労働基準監督署からの是正勧告にはどのように対応したらよい?」
残業代の未払があると、従業員は労働基準監督署(労基署)に告発(申告)をすることができます。
申告を受けた労基署は、企業に対して立入調査や是正勧告などの措置を行うことができます。
本記事では、残業代未払に関して労基署から受ける可能性のある措置の内容、そのほかのリスク、企業側がとるべき対処法についてご説明します。
この記事が、残業代未払に関する労基署の監督への対応策を知る助けになれば幸いです。
1.残業代未払で企業側が受ける可能性のある措置とは
(1)労働基準監督署の役割、権限
労基署は、労働基準法などの労働関係法規の実効性を確保するために設けられたもので、次のような行為を行う権限があります。
#1:立入調査
立入調査は「臨検」ともいい、労基署から派遣される労働基準監督官(監督官)による調査のことをいいます。
調査の日時について事前に予告されることもあれば、ありのままの状況を調査するために予告なく抜き打ちで行われることもあります。
調査においては、事業所の状況の把握・確認、関係帳簿の確認、事業主・従業員等関係者からの聞き取りが行われます。
調査の結果、問題があれば、次の是正勧告書の発行などが行われます。
この調査には、従業員からの申告があった場合や(申告監督)、各年度の監督計画に基づいて行われるもの(定期監督)、一定規模の労働災害が起きた際に行われるもの(災害時監督)、監督によって是正勧告を受けたあとに再度行われるもの(再監督)があります。
なお、臨検ではなく、事業主を労基署に呼び出す形で行われる調査もあります。
#2:是正勧告書の発行
調査の結果、法違反が発見された場合、監督官から是正勧告書が発行されることになります。
是正勧告書には、違反している法律の該当条項、具体的な違反事項、是正をするまでの期限(是正期日)が記載されています。
発行を受けた事業所では、是正期日までに改善措置を講じ、労基署に是正報告書を提出する必要があります。
是正勧告が行われたということは法違反があるということですから、是正を行わないと書類送検されてしまい、刑事罰を受ける可能性も出てきてしまいます。
したがって、是正勧告書が発行された場合には、その内容をよく確認し、是正期日までに問題を改善すべき、ということになります。
#3:指導票の発行
法違反というわけではないものの、改善した方が好ましいという事項が発見された場合に発行されるのが指導票です。
そのまま放置すると法違反になりかねない、という事項がある場合にも発行されます。
指導票の発行を受けた場合は、直ちに法違反があるというわけではありません。
しかし、指摘を受けた問題点をそのまま放置することはコンプライアンス上の問題がありますし、労基署の印象も悪くなります。
そのため、指導票に対しても改善措置をとり、改善報告書を提出すべきです。
#4:使用停止等命令書の発行
調査の結果、安全衛生上の問題がある場合には、使用停止等命令書の発行が行われます。
これに従わなかった場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則を受けることがある点が、是正勧告書、指導票の発行と異なる点です。
(2)残業代未払に対する措置について
企業等(使用者)は、法律上、残業をした従業員(労働者)に対して残業代(時間外手当)を支払う義務があります。
残業代未払いがある場合、この義務を怠ったことになり、次のような措置、罰則が適用されてしまう可能性があります。
#1:労基署の立入調査
先に述べたとおり、労基署は立入調査(臨検)を行うことができます。
残業代の未払がある場合、従業員が労基署にそのことを申告したために、申告監督が行われる可能性があります。
調査の結果、残業代の未払があることが発覚すれば、法違反に対する是正勧告書の発行が行われます。
残業代の未払は法違反ですから、企業側は未払を解消して、これを是正する必要があります。
#2:刑事罰の適用
残業代の未払に対しても、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が設けられています。
是正勧告書の発行を受けても改善しない場合、送検され、上記の刑事処分を受ける可能性があります。
2.残業代未払について労基署の措置以外に被るリスク
残業代未払を放置すると、上記の罰則のほかにも以下のようなリスクが発生してしまいます。
(1)労働審判・訴訟へ発展する可能性がある
未払が続くと労働者側が労働審判・訴訟という手段に踏み切ることも考えられます。
これらの手続に進むとその対応に時間、手間がかかり、通常の業務に支障が出る事にもなってしまいます。
裁判所を通したやりとりを行わなければいけない、という事実による心労も決して無視できません。
(2)企業イメージ・信頼度が低下する
労働者との争いが長くなると、その事実が関係者に知られる可能性が高まります。
そうなると、理由を知らない関係者に、残業代を支払えないような経営状態なのではないか、といった不安を抱かせることになります。
そうはならないとしても、労働者との間で長く争っているということは、企業のイメージを悪化させます。
(3)遅延損害金・付加金を支払わなければならなくなる
法的手続となった場合には、労働者は、その残業代の支払義務が発生した時からの遅延損害金を加えた金額で請求してくることになります。
また、法的手続のうち、訴訟において裁判官が労働者の請求を認めると、未払残業代と同額までの金額を上限とした「付加金」の支払まで認められてしまうことがあります。
つまり、未払の残業代そのものだけでなく、それ以上の金額を支払わなければならなくなるケースも想定する必要があるということです。
3.残業代未払を労基署に指摘された場合の対処
以上のように、残業代の未払により労基署の調査が行われ、是正勧告等が行われたにもかかわらず、これを放置していると様々なリスクを負うことになります。
これに対処する方法は以下のようなものがあります。
(1)弁護士への相談
残業代の未払といっても、単純な見落としで支払っていないこともあれば、企業側から見れば労働者が残業を行っていないはずなのに請求を受けている、という場合も考えられます。
この場合、企業側が、急いで未払を解消すべきなのか、それとも労働者側と争っていくべきなのか判断がつかないこともあるでしょう。
このような状況に置かれてしまった場合は、その後どのように対処すべきかについて、まず、弁護士に相談すべきでしょう。
調査に対してどのような準備を行うべきかも含めて、対処方法を弁護士に相談しながら進めていくのがよいでしょう。
(2)是正勧告書・指導票に対する意見書の提出等
是正勧告書等による指摘が適当なものである場合、企業側は指摘された問題点である未払残業代を早く支払うほかありません。
一方、労働者が企業側で認識していない残業代を請求しているなど、指摘が適切とは考えられない場合は、まずは監督官から指摘の根拠等について十分に説明してもらうことが考えられます。
説明を受けても納得がいかない場合は、報告書を作成し、企業側の意見を伝えることも検討することになります。
(3)指摘を受けた未払残業代の計算・支払
未払残業代を支払わなければならないとの指摘を受けた場合は、是正期日までに支払を行うことになります。
そのため、その未払い残業代の金額の計算が必要です。
この計算に誤りがあり、未払が残ってしまうと再度の調査や是正勧告を受ける事にもなってしまいます。
したがって、未払残業代の計算は慎重に行わなければなりません。
(4)再発防止策の検討、是正報告書の提出
是正勧告書等においては、未払残業代発生のほか、未払残業代が発生した原因についての改善を求められることもあります。
このような場合、未払残業代の支払に合わせ、再発防止策の検討も改善措置として行うことになります。
これらの改善措置を行ったことについては、労基署に対して是正報告書を提出することになります。
この報告書の内容に問題があると、これも再調査の原因となってしまいます。
是正勧告書等の内容に応じ、未払残業代の支払をしたこと、再発防止策について、簡潔に報告する必要があります。
まとめ
本記事では、労基署から残業代未払についての調査や是正勧告が行われる可能性、それによって企業側が被るリスク、対処法についてご説明しました。
立入調査が行われたとしてもすぐに刑事処分を受けることにはならず、適切に対処すれば大きな問題となることはありません。
ただし、事情によってはリスクを負ってでも労働者と争わなければならない場合もあります。
どのように対処すべきかについては、弁護士に相談されることをおすすめします。
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