安易な解雇のリスクとは?退職勧奨を行うポイントや注意点について
日本の労働法は、解雇について、非常に厳しい規制をしています。
安易な解雇のリスクや適切な解雇を行う方法を見ていきましょう。
1.安易な解雇のリスク
会社の業績が苦しい。問題社員がいる。
従業員を解雇したい理由は様々です。
しかし、簡単に解雇してしまっていいのでしょうか。
毎日1時間遅刻してくる社員Aさんがいました。
部長が「明日から来なくていい。クビだ。」と言って解雇した場合、問題はないでしょうか。
上記のケースでは、経営者や管理職から見れば、Aさんをクビにしたくなる部長の気持ちもわかるでしょう。
しかし、そういった一時の感情で解雇をすることには、様々なリスクがあります。
その中でも、特に大きいのが、以下のものです。
- バックペイ
- 自社の名前がついた事件が世に残る
裁判で不当解雇だったと判断された場合、従業員に対して、解雇後の給料分の金額をバックペイとして支払わなければなりません。
たとえば、年収500万円の社員を解雇して、2年間裁判を行った結果、敗訴した場合、バックペイとして、1000万円の出費が必要になります。
また、有名な労働裁判では、当事者となった会社の名前を冠した「○○工業事件」などという呼ばれ方がされます。
1度でも事件名がついてしまえば、消えることはありません。
自社名をインターネットで検索した場合に、労働事件の裁判例が出てくるようであれば、会社の社会的信用にかかわるでしょう。
会社側から一方的に行う解雇にはリスクがあります。
できれば、解雇という形はとらず、「合意退職」という形をとるのが望ましいです。
また、従業員に退職を促す「退職勧奨」という形の解雇方法があります。
3.退職勧奨とは
退職勧奨とは、会社側から従業員に対して退職を求めることです。
ただし、従業員が任意に退職するのを望むあまり働きかけすぎることも危険です。
やり方によっては、会社が従業員に慰謝料を支払う必要が発生します。
(1)退職勧奨を行う際のポイント
#1: 会社の総意で行う
単に個人的な好き嫌いで退職勧奨を行うべきではありません。
上司や幹部を含めて同じ意向であることが必要です。
#2: 事前準備は周到に
退職勧奨は、行う側にも相応の心理的な負担があります。
迷いのある態度で退職勧奨をすることがないよう、退職勧奨に際して伝えることはまとめておきましょう。
#3: 人選が重要
退職勧奨は、従業員の人生に関わることです。
従業員からの質問に十分に答えられる能力・権限がある人が行なわなければなりません。
会社からの以降を一方的に伝えるにもかかわらず、従業員が質問をしても核心的な部分は全て持ち帰りとするのでは、従業員にかえって不信感を持たれてしまいます。
#4:会社の努力も伝える
会社が社員の退職を避けるための努力を伝えることも大事です。
たとえ問題社員であっても、熱心に教育したことを話していけば、納得を得やすいでしょう。
#5: 従業員の話をしっかり聞く
認識のずれがないよう、従業員からの質問は十分に聞いておきましょう。
#6:回答期限、条件面を明確にする
従業員が中途半端な状態にならないよう、回答期限は明確にしましょう。
ただし、回答をすぐに求めることは退職勧奨の域を超えてしまいますので、避けましょう。
特に家族がいる従業員は、家族で十分に話合いをする時間を確保する必要があります。
条件によっては退職勧奨に応じる従業員もいる可能性があるので、退職時期、退職金の時期も明確にしましょう。
#7: 退職届を提出させる
従業員が退職勧奨に応じたことを証拠として残すことは重要です。
必ず退職届を提出させましょう。
(2)退職勧奨の注意点
#1:適切な方法、回数で行う
長時間の面談を頻繁に行う退職勧奨は違法となる可能性があります。
約4ヶ月に30回以上の面談を行い、何時間にも及ぶこともありました。
その面談では、大声を出したり、机をたたいたりという不適切な言動もありました。
裁判所は、慰謝料90万円の支払を命じました。
#2:配置転換にも配慮をする
従業員を辞めさせる目的で、特定の部署に異動させることは違法となる可能性があります。
また従業員を辞めさせる目的がなくても、誤解されることのないよう、従業員に対するケアが必要です。
従業員に退職をさせるために、追い出し部屋で1人業務を行わせた事案です。
裁判所は、およそまともな処遇であるとはいい難いとして、慰謝料150万円の支払を命じました。
4.解雇の種類とは
慎重に退職勧奨を行っても、残念ながら必ずしも従業員が退職してくれるわけではありません。
しかし、解雇しなければいけない会社の都合もあるでしょう。
では、どういった場合に解雇ができるのでしょうか。
(1)懲戒解雇
懲戒解雇は、就業規則で定められた一定のルールに違反した場合にできる解雇です。
たとえば、
- 横領などの不正行為
- セクハラ、パワハラ
- 経歴詐称
などです。
しかし、通常は、訓告→減給→出勤停止→解雇といった段階を踏んでいきますので、いきなり懲戒解雇とする場合のハードルは非常に高いものです。
重大な犯罪を犯した場合などに限られるでしょう。
(2)普通解雇
普通解雇は、能力不足や体調が原因で行われる解雇です。
種類としては、
- 身体または精神の障害により、業務に耐えられないと認められる場合
- 就業状況または職務能力が著しく不良のため、就業に適さないと認められる場合
- 休職期間が満了した時点で、なお休職事由が継続し、復職出来ない場合
などがあります。
(3)整理解雇
整理解雇は、経営者側の従業員削減の必要性に基づいて行われる解雇です。
整理解雇の条件は、
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力義務
- 人選の合理性
- 手続の合理性
が必要です。
裁判所がよく見ているのは、②解雇回避努力義務です。
「整理解雇をする前に、どれだけの代替手段をとったか」がポイントです。
たとえば、
- 役員報酬削減
- 広告費、交通費、交際費等の経費削減
- 新規採用の停止、縮小
- 中途採用、再雇用の停止
- 残業の禁止、昇給停止
- 配点、出向、一事帰休
- 希望退職者の募集
などが考えられます。
では、会社としては、どれを行うべきでしょうか。
正解は「全部」です。
これだけで足りない場合もあります。
ありとあらゆる手段を講じたうえでようやく適法な整理解雇となるのです。
5.弁護士に相談するタイミング
解雇をする前であれば、
- 解雇によるリスクの軽減方法
- 押さえておく証拠
- とっておくべき手続
を事前に知ることができ、万全な対策がとれます。
高額なバックペイの支払や会社名が世に残ることも避けられます。
まとめ
対応が遅れるほどに支払うバックペイは膨らんでいきます
何もしないことで従業員1名分の給料を支出し続けることは大きな負担です。
仮にトラブルになることが避けられなくても、早期に解決することで、バックペイの支払も最小限に抑えることができます。
裁判にならなければ、自社の名前のついた事件も出てこないでしょう。
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