残業代未払いによる罰則や影響について|企業側が回避するために確認する項目
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「従業員から未払い残業代の請求をされたもののどういった罰則があるか心配」
「労基署から監督官が来るみたいだけど、何をされるのかが不安」
従業員に対する残業代に未払いがある会社の中には、従業員から未払いの残業代を請求され、罰則があることは知っているけれども内容は知らないという企業や、労働基準監督署からの立入検査について全く知らない企業の方も少なくないと思います。
本記事では、未払い残業代による罰則や注意するべきリスク、残業代請求を回避するために企業側が確認すべき点について、ご説明します。
この記事を読んで、残業代のトラブルを早急に解決するための対策を知っていただければ幸いです。
1.残業代未払いによる罰則
(1)残業代未払いによる罰則の内容
残業代を支払わない場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法119条1号)という罰則が定められています。
直ちに罰則が科されることは少ないですが、注意が必要です。
(2)労働基準監督署による立入検査
従業員が労働基準監督署に労働基準法違反があるという相談に行くというケースも増えています。
そこで、以下では、労働基準監督署による調査について、少し詳しく見ていきましょう。
労働基準監督署による立入検査は、「臨検(りんけん)」といいます。
臨検には、いくつかの種類があり、例えば、内部告発等に基づく「申告監督」や、地域別・業種別など、毎年決められた重点対象に対して行われる「定期監督」、等があります。
次に、臨検の流れについて見ていきましょう。
臨検では、事業所に、労働基準監督署から労働基準監督官(「監督官」)が来ることになります。地域差があるようですが、(特に申告監督の場合は)突然来ることもあり注意が必要です。
まず、監督官から、書類の確認を求められます。
代表的なものとしては、例えば、会社案内・組織図、労働条件通知書・雇用契約書、労働者名簿、タイムカード等労働時間を集計したもの、賃金台帳、就業規則、時間外・休日労働に関する協定届等です。
監督官は、これらの書類をチェックしつつ、現場を回ります。場合によっては、働いている人を呼んで話を聞くこともあります。
臨検の結果、法律違反が認められなかった場合、監督官による調査は終了することとなります。
他方で、労働基準法違反があった場合、是正勧告が行われ、「是正勧告書」が交付されます。
是正勧告書には、「貴事業所における下記労働基準法については、所定期日までに是正の上、遅滞なく報告するよう勧告します」「事案の内容に応じては送検手続きを取ることがあります」等と記載されています。
是正の期日(1か月くらい先)までに対応を終えなければなりません。
2.残業代未払いの場合に起こりうる影響
では、会社が従業員から残業代請求をされた場合、罰則や監督官による臨検のほか、会社にはどのような影響があるでしょうか。
代表的な影響としては、次の3つが挙げられます。
(1)従業員に対する支払義務が発生する
当然のことですが、支払うべき残業代を支払っていなかった場合、従業員に対して、未払い残業代を支払う必要があります。
特に、中小企業等で、新型コロナウイルス感染症の影響等により資金繰りに窮している場合、未払い残業代の支払いはかなりの負担となり、場合によっては、破産、民事再生等の法的整理に直結してしまうリスクもあるでしょう。
(2)他の従業員からも残業代請求を受ける可能性がある
残業代請求をされ、かつ、支払わなければならないとされた場合、他の従業員との関係でも、未払いの残業代が生じていることが通常だと思われます。
また、当該従業員に対し、支払わなければならない残業代がなかったとしても、当該従業員から他の従業員へ残業代請求を行った事実が広まった結果、他の従業員からの残業代請求を誘発する可能性があります。
このように、会社が従業員から残業代請求を受けた場合、当該従業員だけでなく、他の従業員へ波及するおそれがあり、会社側としては、適切に対応する必要があります(会社としては、争うべきものは争うべきであり、安易に対処してはいけません。)。
(3)外部からの評判が低下する
また、従業員から残業代請求がされていることが、何らかの理由によって会社外にも流出するおそれがあります。大企業の場合、週刊誌等にリークされる可能性もあるかもしれません。
そうすると、会社としては、外部からの評判が低下するおそれもあるといえます。
(これは、仮に、会社として支払うべき残業代を支払っていたとしても、従業員からレピュテーションリスクは避けられず、非常に難しい問題であるといえるでしょう。)
3.残業代請求を回避する際に企業側が確認すべき5点
ここまでに述べたことで、残業代が発生することには、複数の大きなリスクがあることをご理解いただけたと思います。
以下では、残業代請求を回避するために企業側が確認すべき点について解説します。
(1)管理監督者に該当しないかどうか
まず、従業員が管理監督者(労働基準法41条2号)に該当しないかどうかも確認すべきでしょう。
管理監督者に該当すれば、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外される(ただし、深夜労働に関する規定〔労働基準法37条4項〕や年次有給休暇の規定〔労働基準法39条〕の適用は除外されていません。)ため、時間外労働に係る残業代及び休日労働に係る残業代を請求することができなくなるからです。
管理監督者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
管理監督者に該当するか否かは、名称や肩書には捉えられずに、実態に即して判断されます。
具体的には、(ア)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること(経営者との一体性)、(イ)自己の労働時間(例えば、自己の出勤・退勤)についての裁量を有していること(労働時間の裁量)、及び(ウ)一般の従業員と比べその地位と権限にふさわしい賃金等の待遇を与えられていること(賃金等の待遇)の3つの判断基準を満たすか否かで判断されています。
実務上は、管理監督者に該当するとの反論は中々認められにくくはあるのですが、管理監督者に該当した場合の効果はとても強力です。
そのため、当該従業員が管理監督者に該当しないかどうかは、まず確認すべきでしょう。
(2)労働時間に該当するかどうか
また、従業員が時間外労働等を行った労働時間が、労働時間に該当するかどうかも確認すべきです。
労働時間とは、一般的に、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことをいいます。
特に争われるものとしては、労働時間の始期・終期がいつなのか(通勤時間は?朝礼の時間は?清掃や着替えの時間は?等)、仮眠時間、手待ち時間等の不活動時間がどうなのか等があり、個別具体的な判断が必要となる場合が少なくありません。
従業員から上記のような労働時間を主張されている場合は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
(3)従業員が労働を行ったのかどうか
例えば、従業員が会社に残っていたものの、ネットサーフィン等をするのみで、何ら仕事をしていないような場合は、労働時間とはいえないでしょう。
(4)固定残業代として支払っていないかどうか
例えば、「基本給30万円のうち10万円を残業代とする」というような形で、固定残業代(「定額残業代」ともいいます。)を定めている会社も少なくないと思います。
このような固定残業代は、給与計算事務の負担を軽減すること、また、手取り額を多めに見せることができ、採用時の訴求力を高められること(もっとも、職業安定法や青少年雇用促進法等による規制があります。)等の理由から、導入されるものですが、従業員から請求される未払い残業代が固定残業代として支払われていれば、支払うべき未払い残業代がない又は一部は支払済みであるという反論ができることになります。
また、固定残業代部分は、残業代の算定基礎賃金には算入されないことにもなり、残業代の全体額を抑えることにもつながります。
判例上、固定残業代により支払済みであるとの反論をするためには、(ア)通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とが判別できること(「明確区分性」といいます。)及び(イ)固定残業代(定額残業代)が割増賃金の対価として支払われていること(「対価性」といいます。)が必要とされています。
具体的にこの反論ができるかどうかは、弁護士にご相談ください。
(5)消滅時効期間が成立しているかどうか
残業代を請求する権利(「残業代請求権」)についても、消滅時効が完成し、時効の援用をすれば、会社は支払義務を免れます。
そのため、会社としては、消滅時効が完成しているものが含まれていないかどうかも確認すべきでしょう(安易に支払ってしまうと、承認したものとされてしまい、消滅時効の援用をすることができなくなってしまうためです。)。
なお、残業代請求権の消滅時効期間は、近時、法改正がありました。
令和2年3月31日までに発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から2年間でしたが、令和2年4月1日以降に発生した残業代請求権についての消滅時効期間は、賃金支払日から5年間(当面の間3年)となりました。
まとめ
本記事では、従業員から残業代が未払いであることによる罰則や注意するべきリスクをご紹介しました。
従業員からの残業代未払い請求は、放置しておくと企業側のリスクに繋がってしまいます。
ですので、早急に専門家である弁護士に相談して解決を目指すことを推奨します。
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