後遺障害の併合等級が適用されない場合や慰謝料相場を解説
「交通事故で複数の場所に後遺障害が残った場合、併合されると聞いた。」
「併合って具体的にどういう扱いになる?」
複数の箇所に後遺障害が残り、しかもそれぞれに後遺障害等級が認められた場合、「併合」という扱いになります。
この併合は、一定のルールで行われ、認定された等級よりも高い等級に繰り上がることもあります。
本記事では、後遺障害等級の併合についての基本的なルール、例外的に併合が適用されない場合、後遺障害が残るような交通事故について弁護士に相談するメリットについてご説明します。
本記事が後遺障害等級の併合に関する知識を深める助けになれば幸いです。
1.後遺障害の併合について
後遺障害等級が系列の異なる複数の箇所にあるという場合、併合という扱いになることがあります。
以下では、併合に関する基本的な事項についてご説明します。
(1)後遺障害の併合とは
後遺障害の併合とは、系列の異なる後遺障害が2つ以上ある場合に、1つの等級にまとめることをいいます。
系列とは、後遺障害の分類のことです。
後遺障害は、まず10種類の部位(眼、耳、鼻、口、神経系統の機能または精神、頭部・顔面部・頸部、外生殖器を含む胸腹部臓器、体幹、上肢、下肢)に分かれます。
そして、その部位をさらに「欠損又は機能障害」や「変形障害」などの35種類にグループ分けしたものを系列といいます。
部位や障害の種類が異なる後遺障害があり、系列が異なるとされた場合に併合が行われることになります。
また、後遺障害等級は要介護(別表第一)の1級、2級と、介護不要(別表第二)の1~14級があります。
併合の処理にあたっては、重い等級にまとめる場合と、重い等級を繰り上げる場合などがあります。
どのような処理になるのか併合のルールについてみてみましょう。
(2)併合に関する基本的なルール
併合には、基本的なルールとして、以下の4点があります。
#1:別表第二第5級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合には、重い方の等級を3級繰り上げる
5級以上の等級の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級が3つ繰り上がります。
たとえば、4級に該当する後遺障害と5級に該当する後遺障害がそれぞれある場合、重い方の4級が3等級繰り上がり、併合1級と認定されます。
#2:別表第二第8級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合には、重い方の等級を2級繰り上げる
8級以上の等級の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級が2つ繰り上がります。
たとえば、6級に該当する後遺障害と8級に該当する後遺障害がそれぞれある場合、重い方の6級が2等級繰り上がり、併合4級と認定されます。
#3:別表第二第13級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合には、重い方の等級を1級繰り上げる
13級以上の等級の後遺障害が2つ以上ある場合、重い方の等級が1つ繰り上がります。
たとえば、11級に該当する後遺障害と12級に該当する後遺障害がそれぞれある場合、重い方の11級が1等級繰り上がり、併合10級と認定されます。
#4:#1〜#3以外の場合には、一番重い後遺障害の該当する等級を、2つ以上ある後遺障害の等級とする
#1〜#3に当てはまらない場合、複数の後遺障害があっても等級の繰り上げは行われません。
たとえば、14級に該当する後遺障害が複数ある場合、繰り上げは行われず、併合14級となります。
また、12級に該当する後遺障害と14級に該当する後遺障害がある場合も、繰り上げは行われず、併合12級と認定されることになります。
(3)併合に関する特殊ルール
原則は(2)のとおりですが、次にあてはまる場合は、さらに特殊な処理が行われます。
#1:序列を乱す場合
併合して後遺障害等級が繰り上げられた結果、後遺障害の序列を乱すことになる場合、障害の序列に従って等級が定められます。
(例)該当する後遺障害等級
- 右上肢を手関節以上で失ったもの(5級4号)
- 左上肢をひじ関節以上で失ったもの(4級4号)
これを後遺障害の原則にしたがって併合すると、重い方の4級4号が3等級繰り上がり1級となるはずです。
しかし、これらの後遺障害を合わせても「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」(1級3号)という障害の程度に達しません。
したがって、このケースでは、1級とはならず併合2級が認定されます。
#2:繰り上げ等級が1級を超える場合
併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が1級を超える場合、障害等級表に1級を超える障害等級は存在しないため、併合1級にとどまることになります。
2.後遺障害等級の併合が適用されない4つのケース
複数の後遺障害が残った場合でも、以下のように、併合の扱いがされないケースがあります。
(1)組み合わせの等級がある場合
組み合わせ等級が定められている場合はその等級によります。
(例)該当する後遺障害等級
- 右下肢をひざ関節以上で失ったもの(4級5号)
- 左下肢をひざ関節以上で失ったもの(同上)
この場合は、4級5号が2つあるものとして併合されるのではなく、「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」として1級5号が後遺障害の等級となります。
(2)1つの後遺障害が他の障害に含まれている場合
1つの障害が観察の方法によっては後遺障害等級表上の2つ以上の等級に該当するように見えるものの、実際には1つの後遺障害を複数の観点で評価しているにすぎない、という場合があります。
この場合、上位の等級を後遺障害の等級とします。
(例)該当する後遺障害等級
- 大腿骨に変形を残すもの(12級8号)
- 下肢を1センチメートル以上短縮したもの(13級8号)
下肢の短縮は、大腿骨の変形を別の観点で評価したものであるにすぎないため、この場合は、上位の等級である12級8号と認定されます。
(3)1つの後遺障害から他の後遺障害が派生している場合
1つの後遺障害に他の後遺障害が通常派生する関係にある場合は、上位の等級を後遺障害の等級とします。
(例)該当する後遺障害等級
- 1上肢に偽関節を残すもの(8級8号)
- 同じ箇所に頑固な神経症状を残すもの(12級13号)
頑固な神経症状は偽関節が残ったことから派生した後遺障害であるため、上位の等級である8級8号が後遺障害の等級となります。
(4)要介護の障害の場合
要介護の等級である別表1の後遺障害1級および2級については併合がされることはありません。
1級は「常に介護を要するもの」であり、2級は「随時介護を要するもの」であり、これらに同時に該当することはありませんから、どちらか一つの等級が認定されることになります。
3.後遺障害の慰謝料相場
ここまで、後遺障害等級の併合についてご説明してきました。
後遺障害等級の認定を受けた場合、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。
ここでは、後遺障害慰謝料について算出基準と相場をご説明します。
(1)3つの算出基準
慰謝料を算出するための基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準の3つがあり、弁護士基準が最も高額な慰謝料を定める基準となります。
それぞれ簡単にご説明します。
#1:自賠責保険基準
自賠責保険基準は、交通事故の被害者の迅速な救済という自動車損害賠償保障法の目的に沿って、必要最低限の金額を定めたものです。
そのため、3つの基準の中では最も低い金額が定められています。
#2:任意保険基準
任意保険基準は、各任意保険会社が独自に定めているものであり、外部に公開されていません。
そのため、具体的な基準額を知ることはできませんが、ほとんどの場合、自賠責保険基準と同等か、少し多いくらいの金額が算出されます。
#3:弁護士基準
弁護士基準は裁判所基準ともいわれ、過去の裁判例の積み重ねから金額を定めたものです。
3つの基準の中で最も高額な金額を定めるものになります。
しかし、被害者本人が直接任意保険会社に対して弁護士基準での金額で請求しても認められることはほとんどありません。
弁護士基準で請求するためには、弁護士が代理人として請求する必要があります。
(2)後遺障害慰謝料相場
後遺障害慰謝料について、自賠責保険基準と弁護士基準の金額を見てみましょう。
それぞれの金額は、以下の表のとおりです。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 | 金額差(倍) |
第1級 | 1150万円
(介護が必要な後遺障害の場合1650万円) |
2800万円 | 2.43 |
第2級 | 998万円
(介護が必要な後遺障害の場合1203万円) |
2370万円 | 2.37 |
第3級 | 861万円 | 1990万円 | 2.31 |
第4級 | 737万円 | 1670万円 | 2.27 |
第5級 | 618万円 | 1400万円 | 2.27 |
第6級 | 512万円 | 1180万円 | 2.30 |
第7級 | 419万円 | 1000万円 | 2.39 |
第8級 | 331万円 | 830万円 | 2.51 |
第9級 | 249万円 | 690万円 | 2.77 |
第10級 | 190万円 | 550万円 | 2.89 |
第11級 | 136万円 | 420万円 | 3.09 |
第12級 | 94万円 | 290万円 | 3.09 |
第13級 | 57万円 | 180万円 | 3.16 |
第14級 | 32万円 | 110万円 | 3.44 |
このように、自賠責保険基準と弁護士基準とでは、少なくとも2倍以上、多いときには3倍以上、金額に差があります。
後遺障害慰謝料を請求するのであれば、弁護士基準の金額を請求するべきでしょう。
4.後遺障害等級の併合については弁護士にご相談ください
併合等級の認定を受けた、あるいは、後遺症が複数の箇所に残り併合等級が認定されそうという方は、弁護士に相談することをお勧めします。
なぜかというと、上述のとおり併合が絡む後遺障害等級は複雑なものとなるからです。
以下に、併合等級が想定される後遺障害被害者の方が特に弁護士に相談した方が良い理由についてご説明します。
(1)後遺障害等級の併合で注意すべきは逸失利益
後遺障害等級が認定された場合、後遺障害慰謝料のほかに「逸失利益」というものを請求できます。
逸失利益とは、後遺障害が生じたことによって将来にわたって発生する減収に対する賠償のことです。
逸失利益は、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数という式を用いて計算することができます。
この「労働能力喪失率」が併合の場合に争点となることが非常に多いです。
労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに目安の割合が定められています。
併合の場合は、最終的に認定された等級や、併合される前の各症状に対応する等級など、複数の後遺障害等級が登場します。
これら複数ある後遺障害等級のうちどの等級の労働能力喪失率を用いるのか、はたまた複合的な要因を加味してさらに別の労働能力喪失率を用いるべきなのかは、被害者の個別具体的な状況によって異なります。
交通事故問題に精通していない被害者ご本人がこれらを精査して示談交渉をすることは非常に難しいことです。
(2)慰謝料を弁護士基準で請求できる
後遺障害慰謝料は、「自賠責基準」と「弁護士基準」とで大きな差があることをご説明しました。
自賠責基準や弁護士基準は、後遺障害慰謝料だけではなく、交通事故による怪我の治療のために入院や通院が必要になった精神的損害に対する慰謝料(傷害慰謝料)にもあります。
そのため、ご自身で示談交渉を進めるよりも弁護士基準で計算した方が高額となるケースがほとんどです。
(3)後遺障害等級認定の申請手続を任せられる
この記事をご覧の方の中には、医師に症状固定と言われたため、これから後遺障害の等級認定の申請を考えているという方もいるでしょう。
併合の可能性のある方の後遺障害等級認定申請は、後遺障害診断書に記載すべき後遺症も複数あることから、通常の後遺障害等級認定申請よりも後遺障害診断書に記載すべき項目が複雑になりがちです。
場合によっては、後遺障害診断書を2枚に分けて作成することも少なくありません。
そのため、弁護士に申請手続を任せた方が被害者の負担を大きく軽減することができます。
また、すでに後遺障害等級認定の手続を行ったものの、結果に納得できないので異議申立てを考えているという方もおられるかもしれません。
ここまでご説明したとおり、併合は各症状が該当する後遺障害等級が何であるかによって、最終的に認定される等級が異なります。
そのため、どれかひとつの症状の評価が変わるだけで認定等級が1~3つ変わってしまうこともあります。
適切な等級認定を受け、適切な賠償を獲得するためには、それぞれの後遺症が正しく評価されているかを後遺障害に精通した弁護士にみてもらい、示談交渉へ進むことをお勧めします。
まとめ
本記事では、後遺障害等級の併合に関して、基本的なルールや特殊なルール、場合、弁護士へ手続を依頼するメリットについてご説明しました。
後遺障害等級の併合については、正確にルールを把握していないと、正しい扱いがされているかどうかを判断することはできませんから、専門家の判断を仰ぐことが重要です。
また、後遺障害等級の認定を受けられた場合には、弁護士に依頼することで弁護士基準の慰謝料を請求することができます。
後遺障害等級の認定を受ける場面でも、弁護士に手続を任せることにより、認定の可能性を上げることが期待できます。
後遺障害等級の併合、申請について、わからないことがある場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。
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