債務整理をすると今住んでいる賃貸物件に住めなくなる?

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「債務整理をすると、いま住んでいる賃貸物件から追い出される?」
「債務整理をすると新しい賃貸物件に引っ越せなくなる?」

このように、借金返済に悩み債務整理を考えているものの、賃貸契約への影響を不安に感じておられることはないでしょうか?

実は、債務整理を行っても今住んでいる賃貸物件を追い出されることはほとんどありません。

この記事では、債務整理と賃貸契約の仕組みや、債務整理の前後で賃貸の契約がどうなるのかについて解説します。

債務整理が賃貸契約に及ぼす影響を知ったうえで、ご自身に合わせた適切な行動を取るようにしましょう。

1.債務整理と賃貸借契約の関係

債務整理を行うことにより、現在の賃貸契約を解約されることはあるのでしょうか。

結論から言うと、債務整理によって、必ずしも賃貸物件を急に追い出されたり、解約を言い渡されるということはありません。

では、どのような場合に解約されることがあるのか、解説していきます。

(1)債務整理を理由とした賃貸借契約の解約リスク

債務整理を行うと信用情報機関に事故情報が登録されますが、大家さんや不動産会社がこの情報を把握することはありません。

なぜなら大家さんや不動産会社は信用情報機関に照会し、入居者の個人情報を調べることはできないからです。

自己破産や個人再生といった裁判所を通して行う債務整理の場合、官報に事件番号や氏名が公開されるので、情報が知られる可能性はゼロではありません。

しかし、入居者の債務整理を知った大家さんや不動産会社が、債務整理をしたことを理由に賃貸契約の解約を強制したり、入居者を家から追い出したりする法的根拠はありません。

ただし、次に紹介するケースの場合、賃貸契約の解約について注意が必要です。

(2)賃貸借契約を解約される可能性

債務整理をされる方の多くは生活がひっ迫している状態で、家賃を滞納していることも考えられます。

家賃の滞納が続いている場合、債務整理を行ったことを知らなくても大家さんや不動産会社から、家賃滞納を理由とした契約解除や明渡請求をされるリスクがあります。

目安として家賃の滞納が3か月以上続くと、リスクが高まりますので早めに支払うようにしましょう。

暮らしの状況によっては、住宅資金貸付制度の活用や生活保護の申請、ご親族へ相談することを検討しなければなりません。

以下では、それぞれの場合に応じて解約されるリスクについてご説明します。

#1:自己破産をした場合

債務整理の方法の中で自己破産を選択する際には、滞納している家賃に関しても破産債権として扱い、免責にすることができます。

免責とは、借金などの債務についてその支払義務を免れることができるという意味です。

逆に言うと、大家さんや不動産会社側からすると、自己破産によって滞納分の家賃が支払われないことが確定してしまうことになります。

裁判所からは債権者に破産開始の通知が届くので、自己破産を行ったこともわかります。

この場合、免責となった滞納家賃が1~2か月分程度にとどまり、その後は滞りなく家賃を支払っているのであれば、賃貸契約を強制的に解除されることは多くありません。

ところが長期間家賃を滞納し、すでに紛争化していた上で自己破産を申し立てると、賃料不払いを理由にした解除および明渡しの請求が認められることになりかねません。

何か月も家賃を滞納した状態で破産を申し立てる場合は、その物件に住み続けることができなくなるリスクが高いといえるでしょう。

#2:クレジットカードで家賃を支払っている場合

クレジットカードで家賃の支払いを行っている場合、債務整理によりクレジットカード会社との間の契約を解約されてしまう可能性もあります。

また債務整理を行うと、信用情報機関に事故情報が登録されるため、更新等のタイミングで現在使用しているクレジットカードが使用できなくなります。

使用できなくなったクレジットカードで家賃の支払いを行っていた場合、気付かないうちに家賃の滞納が発生してしまうケースがあります。

現在お住まいの賃貸物件の家賃をクレジットカードで支払っている場合には、銀行口座からの引落しや現金での支払いへの切替えが必要になります。

債務整理を弁護士に依頼するタイミングで支払方法の変更を行いましょう。

(3)自己破産をした場合の注意点

上記のうち、自己破産した場合に注意が必要なのが、免責の対象となるのは、あくまでも開始決定前までの滞納分に限られるという点です。

裁判所に自己破産の申立てを行うと、裁判所で必要書類の確認や申立てが適法なものかどうかを確認します。

裁判所が申立ての内容を確認し、申立人が債務超過や支払不能であると認めると、破産手続開始決定を受けられます。

滞納家賃がこの「開始決定」以後に発生したものである場合は、自己破産の免責対象に含まれないので、きちんと支払う必要があります。

自己破産の開始決定後は新たな家賃の滞納が発生しないように、生活の再建が必要です。

2.債務整理を行った後に賃貸物件を契約する方法

債務整理を行った後に、賃貸物件を契約する場合の注意点はどのようなものでしょうか。

現在お住まいの賃貸物件を債務整理後に「更新」する場合、家賃の滞納が無ければ基本的には更新できます。

しかし、「新規」で契約をする場合、家賃保証会社が信用情報機関に照会を行うため、契約を断られる場合があります。

債務整理後の賃貸契約に悩んだ場合には、次の3つのポイントをおさえましょう。

(1)保証会社が不要の賃貸契約を探す

保証会社が必要な物件の場合、保証会社は審査のために信用機関に照会をしますので、そこで事故情報が確認されると保証契約を断られ、賃貸契約を締結できなくなる可能性があります。

保証会社が不要な賃貸契約であればそのような可能性はありません。

保証会社が不要な賃貸契約の場合、基本的に連帯保証人が必要ですので、依頼できる人を探しておきましょう。

まれに保証会社も連帯保証人も不要の賃貸契約もありますが、敷金・礼金が高額だったり築年数が古いことも多いため、そのデメリットを許容できるのであれば選択肢の一つになります。

(2)公営住宅の入居審査を受けてみる

債務整理後の賃貸物件の契約に悩んだ場合には、「公営住宅」の入居審査を受けてみることも考えられます。

「公営住宅法」という法律に基づいて自治体が運営している公営住宅は、入居審査の際に信用情報機関への照会を行うことはありません。

公営住宅は収入が低い方向けに運営されており、家賃が安く、立地が良い物件もあります。

しかし、入居には厳しい要件が設けられています。

公営住宅には、収入が一定の条件以下であることのほか、住宅に困っている事情がないと入居できません。

また、住民税の滞納があると基本的に入居を認めていません。

さらに、入居できるかどうかは抽選制となっているため要件を満たしていても、必ずしも入居できるわけではありません。

公営住宅への入居を考える場合、まずは審査条件を確認してみるところから始めましょう。

(3)入居に困ったら、不動産管理会社と交渉を

賃貸契約の審査に困ったら、不動産管理会社と交渉をすることも手段の一つです。

敷金・礼金を十分に用意する、家賃をある程度まとめて前払いする、などの対応策で入居できたケースもあります。

債務整理を行うと、借金が減ったり免責になったりと、生活が再建しやすくなります。

過去の債務整理を経て生活がしっかり立ち直ったことを伝え、「今後新たな借金や家賃の滞納は生じさせない」と交渉をしてみると良いでしょう。

不動産管理会社には個人情報の守秘義務があるので、他社に債務整理の情報が洩れる心配もありません。

複数の不動産管理会社と交渉し、提示される入居条件を比べ、お得な条件の賃貸契約を探すこともおすすめです。

まとめ

債務整理を行った後でも基本的には賃貸物件から追い出されることはありません。

しかし、すでに家賃の滞納がある場合には明渡請求を受けることも考えられ、次の契約の更新や新たな物件の契約時には、審査に落ちるケースもあります。

新たな審査に悩んだら、保証会社が不要の賃貸物件を探す、公営住宅の入居審査を受ける、不動産管理会社と交渉するなど対処法はあります。

また、賃貸契約時の審査に悩んでも、債務整理後一定期間が経過すれば、信用情報機関に登録された事故情報も削除されます。

「賃貸契約が出来なくなったらどうしよう」と悩んでいる方は、弁護士へご相談ください。

弁護士にお話しいただくことにより、賃貸物件も含めた状況に応じ、最適な方法をご提案することができますので、早めのご相談をおすすめします。

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執筆者 野沢 大樹 弁護士

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私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。