交通事故で怪我の治療のために通院した際の慰謝料の計算方法について

交通事故の5年後まで後遺症が残ることはある

執筆者 野沢 大樹 弁護士

所属 栃木県弁護士会

私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。

「交通事故に遭った場合、通院日数が少ないと受け取れる慰謝料も少なくなるの?」
「交通事故で通院したときの慰謝料の計算方法が知りたい」

交通事故に遭って怪我をし、通院して治療を受けた場合、治療費とは別に慰謝料を受け取れるのかどうか、受け取れるとすればどのくらいの金額になるのか、気になっている方も多いと思います。

交通事故が原因で怪我をした場合、これによって受けた精神的苦痛に対する慰謝料(入通院慰謝料)を受け取れます。

この慰謝料の額は、算定に使用する基準や実際の入通院の日数が影響し、これによって大きく変動します。

本記事では、交通事故における入通院慰謝料の計算方法や使用する基準による算定結果の違い、通院のみの場合にもらえる慰謝料の金額の具体例、より多くの慰謝料を受け取るためのポイントなどをご説明します。

この記事を読んで、ご自身が受け取れる慰謝料の金額や、慰謝料を増額するにはどうしたらいいのかを考える際のご参考にしていただければ幸いです。

1.慰謝料の算出基準と通院日数を基にした計算方法

休業損害の自賠責基準での計算方法

交通事故の入通院慰謝料の計算方法は、3つの基準があります。

ひとつは「自賠責基準」、2つ目は「任意保険基準」、そして3つ目が「裁判所基準」です。

多くのケースで自賠責基準がもっとも低額、裁判所基準が最も高額になる傾向にあります。

それぞれの基準を用いた際の計算方法について、順にご説明します。

(1)自賠責基準

自賠責保険は、交通事故の被害者の迅速な救済のため、事故後に必要な最低限の補償を行うものです。

そのため、自賠責基準で計算される慰謝料は、3つの基準の中では最も低額となる傾向があります。

#1:自賠責基準の入通院慰謝料の計算方法

自賠責基準では、入通院慰謝料を一日あたり4,300円と定めています。

これに、「入通院期間」と「実際の入通院日数の2倍」とのうち、いずれか少ない方の日数をかけて慰謝料を計算します。

(計算式)4,300円×「入通院期間」か「実入通院日数×2」のいずれか短い方

なお、2020年3月31日以前の事故の場合、金額の部分は4,200円となります。

#2:自賠責保険には上限がある

自賠責保険の入通院慰謝料の計算で、注意しなければならない点があります。

それは、自賠責保険には上限があることです。

自賠責保険の上限は、慰謝料、休業損害、治療費等を合わせて120万円です。

そのため、治療費等の金額が大きくなると慰謝料の金額も低くならざるを得ません。

(2)任意保険基準

任意保険基準は、具体的な計算方法が公開されていません。

各任意保険会社によっても基準が異なりますが、多くの場合自賠責基準と同程度か、それより少し高い程度になります。

(3)裁判所基準(弁護士基準)

裁判所基準は、過去裁判例をもとに作られた基準です。

弁護士が使うことから別名「弁護士基準」といわれたりもします。

裁判所基準における入通院慰謝料の計算方法は、原則として入通院期間をもとに計算します。

計算の際は、「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行)という通称「赤い本」と呼ばれている冊子にある基準表を用います。

赤い本に載っている基準表は2つあります。

それぞれ、怪我の程度に応じて、骨折・脱臼などの重傷の場合は別表Ⅰ、むち打ち・打撲などの軽傷の場合は別表Ⅱを用います。

別表Ⅱ(むち打ち・打撲等の軽傷の場合)

別表Ⅰ(骨折・脱臼等の重傷の場合)

入院と通院の両方がある場合は、それぞれの期間の月数が交差する欄を参照します。

たとえば、骨折で1か月入院、1か月通院の場合は、77万円が入通院慰謝料となります。

また、1か月に満たない部分については、1月を30日として日割計算を行います。

2.交通事故の慰謝料と通院日数の関係

これまでご説明してきたように、交通事故によって怪我を負い、通院した場合の慰謝料は、使用する算定基準だけでなく、通院期間や実通院日数によって変動します。

ここでは計算基準が明らかな自賠責基準と裁判所基準について、例をもとに、どのように金額が変動するのか見ていきましょう。

(1)実通院日数と通院期間

既にご説明したように、自賠責基準で計算する際は、通院期間と実通院日数の2倍のいずれか少ない方が算定の基礎になります。

一方、裁判所基準の場合は、原則として通院期間が基準となります。

それでは、実際に慰謝料がいくらになるのか、ケース別の具体例を見ていきましょう。

(2)ケース別の慰謝料計算方法

以下の例では、交通事故によって頸椎捻挫(軽傷)を受傷し、通院頻度は1か月に10日とします。

#1:通院期間1日の場合

①自賠責基準
自賠責基準の計算方法は、既にご説明したとおり、1日あたり4300円の日額と、通院期間と実通院日数×2のいずれか少ない方を根拠に計算します。
通院1日の場合、通院期間=1日<実通院日数×2=2日ですので、慰謝料の金額は、4,300円×1日=4,300円となります。

②裁判所基準
裁判所基準では、前記の表の金額に基づいて計算します。
通院が1日の場合、日割計算となるため、計算式は以下のようになります。
19万円(別表Ⅱ、通院1か月)÷30日×1日=6,333円

#2:通院期間1か月(実通院日数10日)の場合

①自賠責基準
通院期間=30日>実通院日数10日×2=20日ですので、慰謝料の金額は、4,300円×20日=8万6,000円となります。

②裁判所基準
赤本別表Ⅱ、通院期間1か月の基準額より、19万円(別表Ⅱ、通院1か月)となります。

#3:通院期間3か月(実通院日数30日)の場合

①自賠責基準
通院期間=90日>実通院日数30日×2=60日ですので、慰謝料の金額は、4,300円×60日=25万8,000円となります。

②裁判所基準
赤本別表Ⅱ、通院期間3か月の基準額より、53万円となります。

#4:通院期間6か月(実通院日数60日)の場合

①自賠責基準
通院期間=180日>実通院日数60日×2=120日ですので、慰謝料の金額は、4,300円×120日=51万6,000円となります。

②裁判所基準
赤本別表Ⅱ、通院期間6か月の基準額より、89万円となります。

それぞれの具体例を見ると、自賠責基準を用いた場合より、裁判所基準を用いた方が高額になっていることがわかります。

しかし、だからといって、被害者が直接相手方の保険会社に対し、裁判所基準を用いた金額を請求しても、まず認めてもらえません。

裁判所基準を用いて相手方に請求を行うためには、原則として弁護士に交渉を依頼する必要があります。

したがって、なるべく多くの慰謝料を受け取りたい場合は、弁護士に相談した方がよいといえるでしょう。

慰謝料の増額を希望されている方は、症状、通院日数、通院期間等から慰謝料額がどれくらいの金額になるかを確認するためにも、一度交通案件の経験豊富な弁護士へご相談してみることをおすすめします。

3.交通事故の慰謝料の種類

弁護士法人みずきの交通事故に関する5つの強み

ここまでは、交通事故に遭ったときに受け取れる慰謝料のうち、入通院慰謝料について説明してきました。

交通事故の被害者として受け取れる慰謝料は、入通院慰謝料のほかに、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料があります。

どの慰謝料も、これまでご説明してきた3つの基準(自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準)を使用して計算されます。

ここでは各慰謝料とそれぞれの自賠責基準、裁判所基準の金額について簡単にご説明します。

各基準におけるそれぞれの慰謝料額の相場や算定方法の詳細については、以下の記事をご覧ください。

記事リンク:https://www.mizukilaw.com/personal/traffic-accident/traffic-accident-compensation-calculation/

(1)入通院慰謝料

入通院慰謝料は、交通事故が原因で怪我を負ったことによる精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金です。

傷害慰謝料と呼ばれることもあります。

これまでご説明してきたとおり、基本的には算定に使用する基準と、入通院期間によって受け取れる額が変わります。

(2)後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。

交通事故によって怪我を負った場合、治療を継続しても治療効果が上がらない、回復が見込めないという状態(「症状固定」といいます。)になることがあります。

この症状固定の際に残った症状を「後遺症」といいます。

後遺症が、自動車賠償損害保障法上の後遺障害等級に該当するとの認定を受けると、等級に応じた慰謝料を受け取ることができます。

等級は重い1級から14級まであり、自賠責基準、裁判所基準における後遺障害慰謝料の金額は以下の範囲で決められています。

自賠責基準 32万円(14級)~1650万円(1級)
裁判所基準 110万円(14級)~2800万円(1級)

後遺障害慰謝料についても、裁判所基準の方が高い金額を定めています。

(3)死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故により被害者が死亡したときに受け取れる慰謝料です。

これについては、被害者本人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料と、被害者の死亡により遺族が受けた精神的苦痛に対する慰謝料があります。

家族構成や被害者の年齢等によっても変動しますが、金額の目安は以下のとおりです。

自賠責基準 死亡した本人に対して400万円(2020年3月31日以前の事故の場合350万円)

遺族に対する慰謝料は、請求者(被害者の父母、配偶者及び子)1名のとき550万円、2名のとき650万円、3名以上のとき750万円(被害者に被扶養者がいる場合はさらに200万円が加算)

裁判所基準 被害者本人と遺族の分を合わせておおむね2000万円~3100万円の範囲

4.交通事故の慰謝料に関するご相談は弁護士へ

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これまでご説明してきたように、慰謝料の額は3つの基準のどれを使って計算するかによって変わり、裁判所基準で計算した場合が最も高額になることが多いです。

相手方に裁判所基準で慰謝料を請求するためには、弁護士に依頼する必要があります。

したがって、なるべく多くの慰謝料を受け取るためには、弁護士に依頼することが重要なポイントとなります。

また、弁護士に依頼すれば、相手方の任意保険会社などとのやりとりを含めた示談の交渉を任せることができ、治療に専念することが可能です。

慰謝料を増額したい場合はもちろん、慰謝料について不安や疑問があるときも、早期に弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

本記事では、交通事故における怪我などの治療のため通院をした場合の慰謝料についてご説明しました。

また交通事故の慰謝料には、入通院慰謝料の他に後遺障害慰謝料や死亡慰謝料などがあります。

さらに、交通事故の慰謝料には3つの算出基準があり、それぞれ計算方法や相場が異なります。

慰謝料についてわからないことがあったり、交渉を有利に進めたりしたい場合は、専門家である弁護士に相談するのがよいでしょう。

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私は、法律とは、人と人との間の紛争、個人に生じた問題を解決するために作られたツールの一つだと考えます。法律を使って紛争や問題を解決するお手伝いをさせていただければと思いますので、ぜひご相談ください。