個人再生の最低弁済額

執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。

個人再生手続きを聞いたことがあったり、ご検討の方の中には、「自分の借金はいくらまで圧縮されるのか」「借金の圧縮額はどのように決められるのか」など疑問に思う方もいらっしゃると思います。

本記事では個人再生行った場合に圧縮されて支払うことになる最低弁済額を決める基準とその基準で最低弁済額を支払えない場合の方法についてもご紹介します。

この記事を読んで、個人再生手続きを取った後に支払う最低弁済額の算出基準について正しく理解し、個人再生手続きを進めていただければと思います。

1.個人再生の最低弁済額を決める基準

預貯金が差し押さえられるまでの流れ

(1)個人再生の返済総額の決め方

#1:個人再生では圧縮した債務を分割で返済する

個人再生とは、債務の返済が難しい場合に、債務を5分の1程度に圧縮し、圧縮された債務を債権者に分割して返済する手続きです。

個人再生手続きは、利用できるのは個人の方のみに限られ、かつ債務のもともとの総額が5000万円以下の場合に利用できる手続きになります。

また、個人再生手続きには「住宅資金特別条項」という制度があります。

住宅を残したまま個人再生手続きを行いたい方は、定められた条件を満たした場合に、住宅ローンの返済は継続し、住宅ローン以外の債務のみ圧縮して返済していくという制度を利用することができます。

このような特徴をもつ個人再生手続きでは、「最低弁済額」という債務の圧縮後に支払わなければいけない額が決まっております。

(2)最低弁済額

最低弁済額とは、法律で定められたもともとの債務が圧縮された後に支払いをする額になります。

個人再生の場合の最低弁済額は、以下のとおり定められています。

元々の債務総額 支払うことになる最低弁済額
100万円未満 債務総額と同額
100万円以上500万円未満 100万円
500万円以上1500万円未満 債務総額の5分の1
1500万円以上 300万円
3000万円以上5000万円以下

(全額が異議のない債権である場合)

債務総額の10分の1

なお、住宅資金特別条項を利用する場合、住宅ローンの金額は、最低弁済額を決める際の債務総額に含めませんのでご注意ください。

個人再生手続きでは、上記の最低弁済額の基準で圧縮した債務額を、分割して返済します。

(3)清算価値保障原則

もっとも、個人再生手続きでは、最低弁済額のほかに、清算価値保障原則という守らなければならないルールがあります。

もし清算価値の金額が最低弁済額を上回った場合には、個人再生によって圧縮した後の支払わなければいけない金額は最低弁済額ではなく、清算価値の金額になります。

そのため、個人再生手続きで返済する総額は、清算価値保障原則を守るために、最低弁済額ではなく、清算価値の総額となるケースがあります。

ここでは、清算価値と清算価値保障原則についてご説明します。

#1:清算価値とは保有する資産の合計

清算価値とは、個人再生の申立人が保有する資産の合計額です。

清算価値に計上する資産は、申立人が保有する99万円以上の現金、預貯金残高、保険の解約返戻金見込額、退職金見込額の8分の1相当額(退職予定の場合は4分の1相当額)、有価証券、車、不動産などの資産が該当します。

清算価値に計上する資産額の基準は、管轄の裁判所の運用によって異なる場合がありますので、申立の前に確認が必要です。

#2:清算価値保障原則とは債権者の利益を確保するためのルール

清算価値保障原則とは、最低弁済額が清算価値の総額を下回らないようにするというルールです。

なぜこのようなルールがあるのかというと、自己破産手続きと個人再生手続きで資産の取り扱いに違いがあるためです。

自己破産手続きでは、生活に必要な最低限の資産以外は手放して、債権者に配当する手続きがあります。

しかし、個人再生手続きでは、資産を手放さなくとも手続きを進めることができます。

資産をたくさん持っているのにも関わらず債務だけを圧縮してしまうと、個人再生手続きが債権者にとって不利益な制度となってしまいます。

そこで、清算価値保障原則を定めることで、個人再生で債権者に返済する金額が、自己破産で債権者に配当される金額よりも少なくならないようになっているのです。

清算価値保障原則を守るためには、最低弁済額より清算価値の総額の方が大きい場合に、清算価値の総額を返済総額とする必要があります。

清算価値保障原則が守られていない再生計画は、裁判所から不認可とされてしまいますのでご注意ください。

#3:資産以外に清算価値に含まれるもの

清算価値に計上する必要があるのは、保有する資産額だけではない場合があります。

例えば一部の債権者に優先的に返済をしてしまう偏波弁済や、債権者以外へ金銭を渡してしまう無償行為などが対象となります。

もし、偏波弁済や無償行為があった場合には、その行為に使った金額を清算価値に計上する必要があります。

(4)個人再生手続きで返済する総額の具体的な決め方

このように個人再生手続きでは返済する総額を決める基準に「最低弁済額」と「清算価値」があり、2つの基準のどちらか高い金額の方が個人再生手続き後に返済総額となります。

では、この基準を使ってどのように個人再生手続きで返済する総額が決まるのかについて、具体例でご説明いたします。

#1:最低弁済額を返済総額とするケース

Aさんが個人再生の申立を行う場合

・圧縮前の債務総額  1000万円
→最低弁済額は1000万円の5分の1=200万円

・清算価値の総額    100万円
⇒最低弁済額の方が大きいため、返済総額は最低弁済額である200万円

#2:清算価値を返済総額とするケース

Bさんが個人再生の申立を行う場合

圧縮前の債務総額  1000万
→最低弁済額は1000万円の5分の1=200万円

清算価値の総額    300万
⇒清算価値の総額の方が大きいため、返済総額は清算価値の総額である300万円

(5)可処分所得額(給与所得者等再生の場合)

ここまでに説明した返済額の決め方は、個人再生の中の「小規模個人再生」での返済額の決め方です。

個人再生手続きの中には「小規模個人再生」のほかに「給与所得者等再生」という手続き方法があります。

給与所得者等再生では、返済額を決める際に、これまでにご説明した最低弁済額、清算価値に加えて、「可処分所得」という基準が加わり、この3つのうちで最も高い金額が手続き後に支払う債務総額になります。

ここでは、可処分所得についてご説明します。

#1:可処分所得とは収入から必要経費を差し引いた所得

可処分所得とは、収入から税金や社会保険料などを指す公租公課や、生活費を差し引いた金額です。

給与所得者等再生を利用する場合、この可処分所得額の2年分の金額、最低弁済額及び清算価値の金額と比較して一番高い金額を返済総額とする必要があります。

#2:可処分所得の計算方法

可処分所得の2年分の金額の計算方法は、原則下記の通りです。

(((2年間の収入の合計額-所得税-住民税-社会保険料)/2)-1年分の最低生活費の額)×2

上記の式で可処分所得を計算するために必要な項目である、2年間の収入合計額、所得税、住民税、社会保険料については、直近2年間の実際の金額を調べる必要があります。

これらの金額を調べるには直近2年分の源泉徴収票と、住所地の役所で取得ができる課税証明書を取得して確認します。

1年分の最低生活費の額は、民事再生法第241条3項で定められた政令があり、その基準に沿って算出する必要があります。

1年分の最低生活費の金額は、住んでいる地域、年齢や扶養している家族の人数などによって変化しますので、記入要領などを確認しながら作成します。

給与所得者等再生を申し立てする場合、この可処分所得が正しく計算されていることが分かるように、可処分所得算出シートという書面を作成して、申立書に添付します。

#3:給与所得者等再生で返済する総額の具体的な決め方

では、給与所得者等再生の場合は、どのように返済する総額が決まるのかについて、具体例でご説明します。

Cさんが給与所得者等再生の申立を行う場合

圧縮前の債務総額     1000万円
→最低弁済額は1000万円の5分の1=200万円

清算価値の総額      100万円
可処分所得2年分の金額  300万円
⇒可処分所得2年分の金額が一番大きいため、返済総額は可処分所得2年分の金額である300万円

2.個人再生で返済額を支払う期間

交通事故の裁判はどのくらいの期間がかかるの?手続の流れは?

個人再生手続きを行った後に支払う返済額を決める方法についてご説明しました。

では、決められた返済額は、いつまでに返し終わらなければならないのでしょうか。

返済期間についても決められたルールがありますので、ご説明します。

(1)原則3年

個人再生手続きでは、決められた返済額を原則3年で返済し終える必要があります。

例えば返済総額が200万円の方の場合、毎月約5万5000円の返済が必要です。

(2)5年に伸長できる場合もある

個人再生手続きの返済期間は原則3年です。

しかし、やむを得ない事情により、決められた返済総額を3年で返済し終えることが難しいという方もいらっしゃるかと思います。

その場合は、返済期間を最大で5年まで伸長できる可能性があります。

しかし誰でも返済期間を伸長することができるわけではありません。

返済期間を伸長するためには、裁判所の許可が必要ですのでご注意ください。

3.個人再生手続き後、弁済額を支払えない場合の対処法

借金の返済で困ったときの三つの解決手段

(1)弁護士へ相談する

個人再生の手続き後に弁済額を支払えなくなってしまった場合、まずは弁護士へ相談しましょう。

弁護士が、支払いができなくなってしまった事情などをお伺いし、対処法を検討します。

例えば今月だけ一時的に支払が厳しい、という場合には各債権者に対して返済を待ってもらえるかどうか交渉する方法も検討できます。

(2)再生計画の変更を申し立てる

個人再生の手続き後に弁済額を支払えなくなってしまった場合、裁判所に再生計画の変更を申し立てるという方法があります。

再生計画の変更とは、やむを得ない事情で現在の再生計画での返済が難しくなってしまった場合、返済期間を最大で2年延長することができるものです。

なお、変更ができるのは返済期間であり、返済総額は変更できませんのでご注意ください。

(3)ハードシップ免責を受ける

個人再生の手続き後に弁済額を支払えなくなってしまった場合、裁判所のハードシップ免責という制度を利用できることがあります。

ハードシップ免責とは、個人再生手続で圧縮された債務のうち4分の3以上を返済し終わっている方が、やむを得ない事情で返済継続ができなくなった場合に、残りの返済義務を免除するという制度です。

ハードシップ免責を使えるかは、いくつかの条件があり、そのすべてを満たす必要がありますので弁護士と相談しながら慎重に進めていくとよいでしょう。

(4)自己破産手続きを申し立てる

個人再生の手続き後に支払えなく、ハードシップ免責の条件にも合致しないという場合でも、債務を整理する方法がないわけではありません。

その場合は、自己破産という手続きがあります。

自己破産手続きは裁判所に債務の支払義務を免除してもらうという手続きです。

一定の資産価値のある財産は手放さなければならないことになりますが、生活に必要な資産は手元に残すことができるため、生活再建のためには有効な手段です。

まとめ

今回は個人再生における最低弁済額の算出基準や弁済額を支払えない場合の対処法についてご紹介しました。

個人再生手続きは、返済総額を決める基準や返済期間を正しく理解して、再生計画を作成することが必要になるなど、複雑な部分もあります。

個人再生手続きをご検討される方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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執筆者 花吉 直幸 弁護士

所属 第二東京弁護士会

社会に支持される法律事務所であることを目指し、各弁護士一人ひとりが、そしてチームワークで良質な法的支援の提供に努めています。