労働審判の勝率を上げるためにできる対応とは?会社側ができる対策
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「従業員を解雇しようと思っているが、後で労働審判を申し立てられないか不安だ」
「しっかりと残業代を支払っているつもりだが、退職した従業員から労働審判で残業代の請求をされて困っている」
既に解雇した従業員から労働審判を申し立てられないか不安に思っている、あるいは既に労働審判を申し立てられて困っている会社も少なくないのではないでしょうか。
労働審判を申し立てられた場合、使用者である会社側としては、労働審判に「勝ちたい」と思うはずです。
もっとも、労働審判は、統計上、約7割が和解(調停)で終了しており、その内容も様々だと考えられます。
また、労働審判で「勝つ」ということの意味も会社によって違う(例えば、よほど理由のない労働審判でない限り、会社側にいくらかの解決金の支払いが求められる労働審判も少なくないと思われます。)でしょう。
そこで、本記事では、従業員から労働審判を申し立てられた際、会社にとって納得のいく解決ができるために使用者である会社側がすべきことを解説したいと思います。
1.労働審判で争われることが多い2つの論点
労働審判では、特に「残業代請求がされるもの」と「解雇の有効性が争われるもの」が特に多いと思われます(これらが同時に争われることも少なくありません。)。
労働審判に発展する場合、それまでの労使間の運用が証拠として争われるため、会社側の労務の仕組みが整っていないと労働者側の主張が認められ、会社側に一定金額の支払を要求されることが少なくありません。
そのため、万が一労働審判に発展したとしても、未然に防げるような仕組みを作っておくことが重要になります。
本記事では、労働審判でこれらが争われた場合のリスクを下げるための方法として会社側ができることを解説します。
労働審判が行われることになり、会社側の対応を知りたい場合は、合わせて以下の記事をご参照ください。
2.残業代請求に対して企業側ができること
(1)残業代請求がされることとは?
企業を解雇又は辞職により退職した従業員は、法的に支払うべき残業代が支払われていないとして、残業代請求を求める労働審判を申し立ててくることがしばしばあります。
会社側としては、残業代請求をされないようにするために、またされた場合、どのように対処すべきでしょうか。
(2)労働基準法上の規制
まず、残業代とは、労働時間外の労働に対して支払われる対価のことをいいますから、前提として、どのような場合に残業代が発生するか、法律上の規制を見ていきましょう。
労働基準法上、使用者(企業側)が労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合、又は午後10時から午前5時までの間に労働させた場合、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条)。
そして、その割増率は、①1か月の合計が60時間までの時間外労働及び深夜労働については、2割5分以上の率、②1か月の合計が60時間を超える時間外労働が行われた場合の60時間を超える時間外労働にいついては5割以上の率、③休日労働については3割5分以上の率、とされています。
何故、このような割増賃金を支払わなければならないとされているのかというと、会社に対する制裁、すなわち、通常の労働時間又は労働日に付加された特別な労働であるため、それに対しては一定額の補償をさせ、一定額の補償をさせることで特別な労働を抑制するためだと考えられています。
(3)残業代請求をされないようにするために会社側ができること
残業代紛争をされないようにするために会社側ができることとしては、①残業代を発生させる時間外労働をさせない又は最小限に抑えること、又は②支払義務を負う残業代は全額支払うことが挙げられます。
以下、詳しく見ていきましょう。
#1:残業代を発生させる時間外労働をさせない又は最小限に抑えること
例えば、従業員に対し、残業禁止命令をする、また、制度としての残業承認制を設けておくことが考えられます。
ただし、いずれにしても、命令をしただけ、また残業承認制を設けただけでは、不十分であり、これらに反した残業を黙認せずに、労働者に対し業務をさせないよう命じること等の具体的な措置を行うことが必要だと考えられます。
不十分な対応にとどまる場合、残業として認められてしまう可能性もありますから、具体的な対応については、弁護士に相談されることをお勧めします。
#2:支払義務を負う残業代は全額支払うこと
使用者側は、労働時間を把握する義務を負っており、労働時間を正確に把握することが必要不可欠です。
使用者として、従業員の労働時間を把握する方法として参考となるものが、厚生労働省が出している「労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。
同ガイドラインの「4 労働時間の適切な把握のために使用者が講ずべき措置」によれば、①使用者は、従業員の勤務日ごとの始業時刻・終業時刻を確認し、これを記録すること、②始業・終業時刻を確認・記録する方法としては、原則として使用者自らの現認によるか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によることが記載されています。
同ガイドラインを参考にしつつ、正確に把握した残業代を支払っていれば、残業代請求を恐れる必要はなくなるでしょう。
(4)残業代請求がされた場合の対応
残業代請求がされた場合、どのように対応をすべきでしょうか。
まず、残業代請求にも、法的に残業代として認められると考えられるものもあれば、そうでないものもあるでしょう。
そのため、残業代請求がされた場合には、その見極めが重要です。
そして、法的に認められるものと考えられるものについては、下手に争うことはせずに、適切な金額を早期に支払うことが良い場合もあります。
何故なら、残業代については、訴訟となった場合、付加金という形で、未払いとなっている残業代と同額の支払いが認められる可能性がある(つまり、およそ2倍支払わなければならなくなる)からです。
3.解雇の有効性が争われるものに対して会社側ができること
これまで残業代請求に関する会社側の対応について述べてきました。
次に労働審判で争われることが多い、解雇の有効性についても見ていきます。
(1)解雇が無効となった場合のリスクとは?
雇用している従業員の成績が非常に悪い、又は勤務態度が悪い等により、安易に解雇をする企業が少なくありません。
しかし、現在の裁判実務上、解雇の有効性というのは、非常に厳密に判断されています。
安易に解雇をしてしまうと、後に労働審判等により企業にとって不利な調停又は審判がされることになりかねません。
そして、後に解雇が無効と判断された場合、解雇が無効となるまでの期間の未払い賃金(いわゆる「バックペイ」)を支払わなければならない、というリスクがあります(例えば、解雇から1年後に解雇無効の判決が出た場合、企業側は、従業員の1年分の給与(バックペイ)の支払いをするとともに、当該従業員を企業に戻さなければならなくなります。)。
(2)従業員を解雇する際のポイント
したがって、例えば、従業員が企業の資産を横領したというような誰が見ても解雇が有効だというもの以外は、企業としては、解雇をすることに慎重になる必要があるでしょう。
会社の対応としては、まず、従業員を解雇する前に、当該従業員の問題点を明確に指摘しつつ指導する(それも、一回ではなく、何度も繰り返す)ことが重要だといえます。
そして、かかる指導は、口頭でのみならず、書面又はメール等、証拠として残る形で行っておくのがなお良いと言えるでしょう。
また、解雇の前に、戒告等の懲戒処分を行い、問題点の改善を促す場合を与えることや、従業員に対して弁明の機会を与えること等が、解雇の有効にする事情になることがあります。
(3)解雇する際のポイント
従業員を実際に解雇することとなった場合、まず、事実関係をよく確認することが必要です。
また、就業規則に解雇事由が定められている場合、就業規則のどの事由に該当するか、よく確認することが重要だといえます。
就業規則のどの事由に該当するとして従業員を解雇するかは、弁護士と相談した上で行うべきでしょう。
したがって、解雇することを考えている従業員がいる場合は、まず、解雇をするのではなく、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
労働審判の「勝率」を上げるためには、労働問題が発生してからではなく、問題が発生する前の対応が重要です。
また、労働問題が発生してからであっても、弁護士が介入することで上手くリカバリーできる場合もあります。
労働審判等で、困っている方がいれば、是非、弁護士法人みずきまでご相談ください。
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