医療費の回収
医療費は、医療機関にとって、収入の大部分を占めるものです。
したがって、医療費の未払いが生じると、医療機関の経営に大きな打撃となります。
近年、この医療費の未払いについて、悩みを抱える医療機関が多くなっています。
これは、健康保険の自己負担額の引き上げや不況により、そもそも支払いが困難であるという患者さんがいることに加え、モンスターペイシェントと言われる、モラルに問題がある患者さんが増えつつあることも要因となっています。
医療費を適切に回収し、健全な経営を続けていくことが、医療機関としても大切となります。
1.医療費回収の流れ
医療費の回収に、「こうしなければいけない」という法的なルールはありません。
もっとも、通常は、『迅速・安価であり強制力は低い方法』から行い、『煩雑・費用はかかるが強制力は高い方法』へ移っていくこととなります。
以下は、その一例となります。
(1)口頭・電話・郵送等による督促
まずは、直接口頭によって督促することが考えられます。
通院が継続中なのであれば、通院の際などに、いつになったら支払えるのか等を具体的に督促することができるでしょう。
これが難しい場合には、督促の電話や手紙の送付をすることとなります。
放置してしまうと、相手方に「支払わなくてもいいだろう」と思われてしまうので、院内で一定のルールを定めてこまめに督促することが大切です。
また、医療機関と患者の住所が近所である場合には、訪問による督促も大きなコストをかけずに行うことができます。
(2)内容証明の送付
電話や通常の郵送による督促を行っても効果がない場合には、内容証明郵便による督促が考えられます。
内容証明郵便は、その郵便自体に支払いを強制する法的効果はありません。
しかし、内容証明郵便は、その郵便の内容を郵便局が証明してくれるものですから、後に訴訟等の法的手続になった際に、適切に督促をしていた事実を立証することができます。
また、通常の郵便と異なる形式で届きますから、相手方にも威圧感を与えることができ、事実上の強制力を及ぼすことができます。
デメリットとしては、通常の郵便よりも多額の費用がかかるため、回収すべき未払いの金額によって行うべきか否かを検討する必要があります。
(3)法的手続
内容証明を送付しても支払いを受けるにいたれない場合には、法的手続を行わざるを得ないことになります。
法的手続も、状況に応じていくつか方法があります。
#1:民事調停
調停は、裁判所を利用した話合いになります。
そのため、法的に厳格な主張・立証などは要せず、比較的安価かつ気楽に利用できる手続です。
たとえば、「話合いはできているのだが、うまく合意まで至れない」などの状況では有効な手段となります。
#2:支払督促
支払督促とは、相手方が異議を出さない場合には、書類審査のみによって判決と同様の効果を得ることができる手続です。
証拠が明確である場合には利用できるため、未払いの証拠を提出することができる場合には有効な手段となります。
もっとも、相手方が異議を出した場合には通常訴訟に移行することとなるため、相手が争ってくることが明らかである場合にはあまり効果を発揮しません。
#3:通常訴訟
裁判所において、主張および立証をすることで、判決や裁判上の和解をもらうことが目的の手続です。
もっとも費用と労力、そして専門知識を要する手続なので、弁護士が代理人になる必要が高いです。
その代わり、紛争を終局的に解決する力がありますので、最終手段となります。
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