保険医に対する指導・監査
保険診療は、保険医療機関、保険者(全国健康保険協会など)、被保険者(患者)の三面契約によって成り立っています。
この点が、医療機関と患者のみの契約である自由診療と異なります。
保険者が存在することによって、医療機関と患者の双方が自由に契約内容を決めてしまうと、混乱が生じてしまいます。
そのため、保険診療を行うためには健康保険法や療養担当規則、診療報酬点数表を遵守する必要があります。
これらのルールが遵守されているかどうかは、行政がチェックするという構造になっています。
このチェックの役割を担うのが、「指導」「監査」と呼ばれるものです。
1.指導とは
指導とは、「保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について、周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う」こととされている行政指導の一種です。
指導には、いくつかの種類があります。
(1)集団指導
方式:保険医療機関等を会場に招集して、説明会のように指導を行う。
対象:新規開業時や、診療報酬が改定された際
(2)集団的個別指導
方式:保険医療機関等を会場に招集し、説明会形式で行われるが、合わせて簡易な個別面談が行われることがある。
対象:診療報酬の平均点数が高い医療機関(平均点数の1.2倍かつ上位8%)
(3)新規個別指導
方式:1時間程度の個別面談
対象:新規開業及び管理者の交代から約1年後の医療機関
(4)個別指導
方式:2時間以上の個別面談
対象:患者や内部告発による情報提供があった医療機関,診療報酬の平均点数が高い医療機関,集団的個別指導を拒否した医療機関など
指導は、上記のとおり行政指導の一環ですので、本来強制力はありません。
しかし、指導に協力しないと、その後に大きな不利益をこうむる監査が待ち受けているため、指導の時点からおざなりにはできません。
2.指導の結果
指導がなされた後、その結果から以下の4種類の区分に分けられます。
(1)概ね妥当
診療内容や診療報酬について、特段問題がないとされる場合。
(2)経過観察
診療内容や診療報酬について、不適正な部分が存在するが、指導の結果改善が見込まれる場合。
(3)再指導
診療内容や診療報酬について、不適正な部分が認められ、指導を継続しなければ改善ができないとされる場合。
(4)要監査
指導の結果、監査要件に該当すると認められる場合。
上記のとおり、経過観察までであれば、自主的な改善が見込まれ、一応手続が終了します。
しかし、再指導となってしまった場合、次年度にも持ち越されてしまい、これが延々と継続する可能性がでてきます。
また、要監査の場合には、下記の監査手続に移行することとなります。
監査手続は、その後、不利益処分もあり得るものなので、可能な限り避けたいところです。
3.監査とは
監査とは、健康保険法78条1項に基づく手続です。
行政は、療養の給付に関して必要があると認めるとき、報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出・提示を命じ、出頭を求め、関係者に対して質問、診療録・帳簿書類その他を検査することができます。
監査は、上記の指導と異なり、法律に基づく手続なので、監査への出頭や協力を拒否し続けると、不利益処分を受けることとなります。
4.監査の結果
監査の結果としては、以下の4種類の措置がなされます。
- 措置なし
- 注意
- 戒告
- 取消処分
これらのうち、取消処分が何よりも重い処分となります。
取消処分となると、保険医療機関の指定や、保険医の登録が取り消されてしまいます。
そうすると、5年間は再指定を受けられず、その結果当該医療機関や医師は5年間保険診療を行うことができなくなります。
まとめ
上記で見てきたとおり、取消処分は監査の結果となっています。
そして、多くの場合は、個別指導を経てから、監査手続に移りますので、監査となってからきちんと対応すれば大丈夫、と感じる方もいるかもしれません。
しかし、監査は、一定程度不正や不当が疑われることからなされるものなので、監査まで進んだ場合には、そこから覆すのは相当な困難を生じることが多いです。
このことは、監査後に取消処分となる割合が4~5割程度あることにも現れています。
取消処分の効果を争う訴訟の統計上の敗訴率は、さらに高くなっています。
したがって、大切なのは、いかに監査に持ち込ませないかという点です。
これは個別指導において適切に対処することを意味します。
通知が届いた医療機関の方は、是非お早めにご相談ください。
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