保険の取り扱い
破産をした場合、原則として、破産者の財産は全て破産の費用や債権者への配当に充てられるとされています。
破産手続きは、破産者の財産を債権者に平等に与える手続きだからです。
保険についてみると、破産者が保険に入っている場合、解約するとお金(「解約返戻金」といいます)が戻ってくることがあり、この場合財産的価値があります。
このように財産的価値がある保険は、破産をした場合どのように扱われるのでしょうか。
1.破産者の財産として取り扱われるのかどうか
(1)「契約者」の名義で判断される
まず、破産者の財産であるかどうかという問題があります。
破産者の財産として取り扱われるかどうかは、原則として「契約者」が破産者かどうかで判断されることになっています。
「受取人」「被保険者」で判断するわけではありません。
なぜなら、保険を解約した場合に解約返戻金を受け取ることができるのは、「契約者」であり、「契約者」に財産があるといえるからです。
「被保険者」「受取人」欄に名前があっても、解約返戻金を受け取ることができるわけではないため、「被保険者」「受取人」は財産を有しているとはいえません。
破産者の財産であるかどうかは
原則として「契約者」が破産者かどうかで判断される。 |
(2)契約者は破産者だが保険料を第三者が支払っている場合
破産者が保険の「契約者」となっていながら、保険料を両親が支払っているというケースがあります。
このように、破産者を「契約者」にしているような場合は、形式上、破産者の財産といえます。
また、あえて破産者を「契約者」にしていることから、両親が保険(解約返戻金)を自分のものとするという意思ではなく、破産者(息子、娘)に対して、贈与(プレゼント)する意思でやっていると推測されてしまうため、この点からも破産者の財産と判断されるのが通常です。
しかし、例外も勿論あります。破産者の財産として解約しなくてよいと判断されることがあるのです。
最高裁の判例はなく、実務上明確な基準はありませんが、基本的には破産者の財産を管理する管財人と裁判所とが、実質的には破産者の財産ではなく第三者の財産であると判断できるかで決まることになるでしょう。
最終的には、保険契約をした事情、契約者を破産者とした理由、破産者の関与の程度、保険料を誰がどのような財産から負担したのか等の事情を検討の上、具体的なケース毎に妥当な解決が図られることになります。
例えば、破産者が保険料を全く支払っておらず、保険料を支払っていたのは親であり、破産者がこのような保険の存在を全く知らなかったといえる場合には、贈与の意思はなかったことになり、両親が無断で破産者の名義を借りただけですので、この保険は親の財産であると判断される可能性があります。
他方で、保険料を破産者の口座から支払ったり、年末調整の生命保険料控除の対象となっている場合には、保険契約の事実を全く知らなかったとはいえなくなるため、この保険は破産者の財産であると判断されることになるでしょう。
契約者が破産であるため、通常破産者の財産と判断される。
具体的事情により実質的に破産者の財産ではなく第三者の財産と判断されれば、第三者の財産と判断されることもある。 |
2.保険契約を解約しなければいけないのか
(1)個人の場合
#1:掛け捨て型の場合
掛け捨て型の保険であれば、通常は解約してもお金が戻ってこないため、財産として評価されません。
そのため、保険を解約する必要なく、契約を継続できます。
#2:積立型の場合
積立型の場合は、解約した場合に返戻金が返ってくるため、財産といえます。
東京地裁の場合は、解約返戻金の額が20万円を超えると、原則として、解約されることになります。
20万円までは、破産者の生活を保護するため、自由に処分してよい財産ということになっているからです。
なお、複数の保険があって、その解約返戻金の合計が20万円以を超えることになった場合でも、通常、保険は解約されることになりますので注意が必要です。
破産者が解約を希望しない場合には、解約返戻金相当額を破産財団(債権者に対する配当等に充てられる財産)に入れる必要があるのが通常です。
掛け捨て型の保険は、通常保険契約を継続できる。 積み立て型の保険は、解約返戻金の額が20万円を超えると通常契約を解約することになる。 |
(2)法人の場合
法人の場合は、解約返戻金の額が20万円を超えるかどうかにかかわりなく、通常は解約されることになります。
なぜなら、法人が消滅するため、保険契約を継続する必要はないためです。
例外として、小規模企業共済の共済金・解約手当金、中小企業退職金共済の定職金・解約手当金などは法律上解約できないとされています。
掛け捨て型、積み立て型を問わず、通常解約される。 |
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