受任通知を出すタイミング
破産をする状態にあるということに気づいた債権者は、少しでも多額の債権を回収しようとして強引な取立を行なう可能性があります。
その結果、一部の債権者にだけ弁済したり、担保として提供したり(偏頗(へんぱ)弁済といいます)、財産を隠すということ(財産隠匿行為といいます)も起こりえます。
このような行為をすると、結局、破産手続の中で資産を元に戻さなくてはいけなくなったり、借金が帳消しにならない(免責を受けられない)ことが起こりえます。
そこで、偏頗弁済や財産の隠匿行為を防ぐため、通常、破産者から依頼を受けた弁護士である申立代理人は、債権者に対して、債務整理の依頼を受けた旨の通知(「受任通知」といいます。)を送付することになります。
ただ、闇雲に受任通知を出すことによって、かえって偏頗弁済等を助長することもありますのでタイミングを見計らう必要があります。
以下では、個人破産の場合と、法人破産の場合とに分けて、受任通知を出すタイミングをどうすべきかについて説明していくことにします。
1.個人破産の場合
個人破産の場合、受任直後に受任通知を出すことになります。
受任通知を出す理由は、債権の種類・内容、額を調査するといった債権調査をするといった点にもありますが、一番大きいのは債権者からの取立て行為を防止する点にあります。
通知を受け取った業者は、法律上、債務者に直接請求をすることができなくなるのです。
これにより、債権者からの強引な取立を回避し偏頗弁済を防止するとともに、申立人としては、今まで続いていた取立から解放され、精神的に落ち着くことができます。
2.法人破産の場合
法人破産についても、受任直後に受任通知を出すべきなのでしょうか。
法人破産の場合は、消費者とは異なり、少なくとも債権調査のためだけにする受任通知の送付は不要と考えられています。
債権者の追加は後日でも可能ですし、申立後の手続内で債権額は確定することが可能です。法人破産の場合は、財産散逸や混乱防止の要請が強いため、早期に申立をし、開始決定を受けるべきであると考えられているのです。
そのため、受任通知を出すタイミングを検討するにあたっては、下記受任通知を出すメリット・デメリットを念頭に置く必要があります。
(1)法人破産の場合に、受任通知を出すメリット
受任通知を出すことによって、個別の取立て行為を差し控えさせるということが場合によってはあります。
また、法人が破産状態に陥っていることを知らせることにより、債権者からの相殺を制限することができます。
具体的には、金融機関に受任通知を送付することで受任通知送付後に預金口座に入金された売掛金等の相殺を法律上禁止させ、売掛金等の回収を行なうことを可能にすることができます。
受任時点では、弁護士に対する報酬や裁判所に納める費用を確保できていないことが多いですが、債権者はもとより債務者に対しても受任通知を出すことでスムーズに資産の換価・回収を行ない、早期の申立を実現することが可能となります。
(2)法人破産の場合に、受任通知を出すデメリット
個人の場合と異なり法律上の取立て規制はありません。取り立てをすることができてしまうので、かえって、債権者に対して、法人が破産状態にあることを知らせてしまうことにより、債権者からの強引な取立て行為を誘引し、偏頗弁済が起きてしまうことにもなりかねません。
また、債権調査を詳細にしなければならなくなり、かえって破産の申立が遅れるということにもなりかねません。
従業員の給料といった労働債権が手続の中で最も優先される(財団債権として取り扱われる)のは、破産手続の開始決定前の3か月に限定されています。
また、未払賃金立替払制度という給料などの未払い分を労働者福祉機構から支給をうける制度を利用できるものも、破産申立日前6か月以内に解雇されている者に限定されています。
申立が遅れてしまうと、従業員がこれらの優遇措置を受けられないことにもなりかねないのです。
さらに、税金に滞納がある場合、公租公課庁に受任通知を出してしまうと 滞納処分という処分を受けることで、財産を差押されてしまい、破産に必要な費用を確保できずに、申立がその分遅れてしまうことにもなりかねません。
そのため、公租公課庁には、受任通知を発送しない等の工夫をすることが必要です。
まとめ
個人の破産の場合は、受任直後に受任通知を出すことになります。
法人の破産の場合は、上記の受任通知を出すことによるデメリット・メリットを念頭に、法人の営業状況、破産申立費用の確保の状況、破産申立事務作業が滞りなく行なえるかどうかを考慮して、ケースバイケースで受任通知を出すタイミングを検討していく必要があります。
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