保証会社が住宅ローンを代わって返済した場合でも、債務者は住宅を手放さずに済むのか

1.住宅資金特別条項とは

個人再生をする場合のメリットとしては、住宅資金特別条項というものを利用することによって債務者がマイホームを手放さずにすむということがあります。

住宅資金特別条項は、個人再生をする場合に個人の債務者が、生活の本拠である「住宅」を手放さずに経済的再生ができるようにするため特別に認められたものです。

具体的には、住宅資金特別条項を利用することで、住宅ローン等の住宅資金貸付債権については従来どおり(又はリスケして)支払うことによって自宅・マイホームだけは手放さずに,その他の借金だけを個人再生によって減額・分割払いとすることができるようになります。

住宅ローン契約時に保証会社とも契約をしているかと思います。

住宅ローンが滞ってしまった場合などには、保証会社が債務者に代わって返済することになります。

このように保証会社が債務者に代わって住宅ローンを返済した場合であっても、債務者は、この住宅資金特別条項を利用することで、住宅を手放さずに済むのでしょうか。

2.保証会社が代位弁済した後も住宅資金特別条項は利用できるのか

保証会社が債務者に代わって住宅ローンを返済した場合(これを「代位弁済」といいます。)、保証会社は住宅ローン債権者から住宅ローン債権を取得することになります。

そして、その取得した債権額を一括で即時に債務者に対して求める権利を有します。

そうすると、個人再生手続の住宅資金特別条項で、長期の分割弁済を認めることになると、保証会社としては不利益が大きいことになります。

そのため、法律上、保証人(保証会社)が保証債務を履行することによりもともとの住宅ローン債権者から取得した債権(これを「求償権」といいます。)を対象としては、住宅資金特別条項を利用することはできないとされているのです。

もっとも、住宅ローンの実務上、保証会社による保証を受けることは一般的であります。

また、保証会社による保証の場合に、すべて住宅資金特別条項が定められないとすると、代位弁済がなされれば、ほとんどの住宅ローンの場合に住宅資金特別条項を定めることが不可能となってしまいます。

そこで、保証会社による住宅ローンの代位弁済後6か月以内に再生手続開始の申立がなされたときに限って、もともとの住宅ローン債権を対象として住宅資金特別条項を定めることを可能にしました。

この場合、住宅資金特別条項を含んだ再生計画の認可決定が裁判所からなされると、保証債務の履行はなかったとものとみなされることになります。

保証会社による代位弁済がなされる前の法律状態に戻すことになります。

そのため、この取り扱いは一般的に「巻戻し」と呼ばれています。

なお、この巻戻しが認められるためには、代位弁済をしたものが保証会社であることが必要です。

保証会社とは、保証を業とするものです。

そのため、債務者の親類・知人が保証人で代位弁済をしたような場合には、住宅資金特別条項を利用することはできないことになります。

3.巻戻しが行なわれるとどうなるのか

それでは、巻戻しが行なわれた場合、債務者、住宅ローン債権者、保証会社の当事者間の法律関係はどのようになるのでしょうか。

(1)住宅ローン債権者と保証会社の関係

住宅ローン債権者と保証会社との関係では、保証債務が履行されたことによって消滅していた当該保証債務が復活することになります。

(2)保証会社と債務者との関係

保証会社と債務者との間では、保証債務が履行されたことによって、保証会社が取得した求償権が消滅します。

その結果、保証会社は従前の委託を受けた保証人としての地位に戻ることになります。

(3)住宅ローン債権者と債務者の関係

住宅ローン債権者と債務者との関係では、保証会社の代位弁済により一度消滅したはずの、住宅ローン債権が復活します。

そして、同時に、この住宅ローン債権は、住宅ローン資金特別条項の権利変更を受けることになります。

4.巻戻しを行なった場合に、手続上注意すべき点

(1)債務者や保証人が保証会社に一部支払をしている場合

再生債務者が保証会社の求償権に対して弁済していたときは、そのお金は保証会社から住宅ローン債権者に直接交付されることになっています。

他方、保証会社による代位弁済後、債務者の保証人が保証会社に一部支払っていた場合には、保証会社は、保証人に対して、その金額を返済しなければなりません。

(2)事前協議の必要性

住宅資金特別条項を利用する場合には、住宅ローン債権者と十分な協議を行なわなければならないですが、「巻戻し」を伴う場合も、第一に協議しなければならない相手は元の住宅ローン債権者になります。

一般に「巻戻し」が行なわれる場合には、既に住宅ローン債権に遅延損害金が発生していることが多く、金利計算等が複雑になる可能性があります。

そのため、「巻戻し」が行なわれる場合には、住宅ローン債権者との事前協議を一層綿密に行なう必要があるでしょう。

また、保証会社にも「巻戻し」による影響が多大ですから、保証会社との事前の調整が不要となるわけではありません。

そのため、保証会社に対して、十分な事情の説明、協議を行っておくのがよいでしょう。

(3)競売手続の関係

再生手続開始の申立てをした時点で、住宅について競売手続が開始されていることもあります。

再生計画の認可決定の確定までに住宅が競落されてしまうと、住宅資金特別条項を利用することができなくなってしまいますので、このような場合は当該抵当権実行手続(競売手続)の中止命令の申立てをすることを検討する必要があります。

なお、競売の費用については、当事者の合意がない限り、債務者の負担とすることはできませんが、実務上は、債務者の負担とする旨の合意がされることが多いようです。

まとめ

今回は、すでに住宅ローンについて保証会社から代位弁済が行なわれた場合について住宅資金特別条項を利用できるかどうかについて、簡単に説明を行ないました。

住宅を手放さずに済むのかについて不安な方は、お早めに弁護士に相談されることをおすすめします。