旅館、ホテル経営会社の再建手続
旅館、ホテルを経営している会社(以下、「旅館等経営会社」)の場合、開業時やリニューアル時の金融機関からの借入が膨大です。
1990年代までは、企業などでの団体旅行・宴会旅行がピークの時代であり、売上が落ちることなく、金融機関からの借入に対する返済も問題なくできていたところも多いでしょう。
しかし、バブルが崩壊し、以前のように団体旅行・宴会旅行をする会社が減少した近年では、何らかの専門性をもっていない旅館等経営会社ですと、売上は大幅に減少し、最終的には金融機関に対する返済等が困難になってしまいます。
このように、旅館等経営会社に再建をする必要性の高い会社が増加していることを踏まえて、今回は、旅館等経営会社の特殊性を把握した上で、旅館等経営会社の再建策について説明していくことにしましょう。
1.旅館、ホテル経営会社の特殊性
(1)「倒産」というイメージがつくことを避ける必要があること
祝い事にも利用されるホテルにとって、「倒産」という負のイメージがついてしまうと、客足が遠のき、再建の可能性が閉ざされてしまう可能性もあります。
そのため、再建を考える場合には、「倒産」というイメージのつく手続をとることを極力避ける必要があるといえるでしょう。
(2)経営ノウハウが不十分であること
一般的な温泉旅館に代表されるように、日本の旅館の場合は家族で経営しているところが多いです。
ある程度大規模な旅館であっても、世襲での同族経営をされているところが殆どであると言えます。
そうすると、経営に対する知識が素人に近いまま、経営を行なっている会社も多いといえます。
(3)財務面の把握が不十分で経営していること
上記のとおりですから、資金繰りなどの財務面についての把握も不十分なまま、その場しのぎの経営をしている可能性があります。
(4)マーケティングが不十分であること
また、マーケティングも不十分であるため、昨今の旅館を利用する客の現在のトレンドや細かいニーズを捉えることができていないという特徴があると言えます。
2.再建策について
再建をするための手続としては、裁判所が関与しない「私的整理」と、裁判所が関与して行なう「法的整理」とに分かれます。
(1)私的整理
私的整理というものは、今後の返済について、債権者と個別に和解をする手続です。
法的整理と比較すると、必要な書類も多くありませんし、必要な準備も多くなく、裁判所も関与しません。
そのため、私的な整理手続では、時間と費用を大幅に節約することができます。また、「倒産」というイメージも、つきにくいでしょう。
そのため、債権者の同意が得られる場合には、私的整理を選択することになるでしょう。
債権者の同意を得るためには、もちろん今後返済していくことが可能でなければなりません。
そのためには、しっかりとした再建計画を作成し、場合によっては金融機関に示す必要があります。
なぜなら、この再建計画に基づいて、金融債権者との間で返済金額の一部免除や毎月返済する金額を減少するように合意を取り付けることになるからです。
最近では、再生アドバイザーやコンサルタント業を行なっているところも、かなり増えているようです。
そのため、各債権者の和解交渉に関しては、弁護士に依頼しつつ、コンサルタントなどに事業、財務を改善するために再建計画を作成してもらうことも考えるべきでしょう。
(2)法的整理
再建型の法的整理としては、民事再生と会社更生というものがあります。
大まかにいうと、経営を維持したまま再建をする場合は、民事再生の申立をするのが通常です。
経営を維持しない場合には、会社更生も検討することになります。
再生計画としては、負債を予測される収益の範囲内に圧縮をして、10年間で返済をするなどの内容です。
法的整理には、手続が複雑で時間と費用が相当程度かかるなどのデメリットがありますが、一部の債権者の反対があったとしても、負債額を圧縮できるというメリットも大きいです。
法的整理を取らなければならない場合には、たとえ民事再生手続とはいえ、上述したとおり、「倒産」という響きから企業イメージが棄損され、場合によっては再建をする可能性が閉ざされることになってしまいます。
そのため、法的整理手続をとる場合でも、なるべく早期かつ円滑に手続が進められるように配慮する必要があります。
したがって、申立の前に、各債権者から事前の承諾をとっておくなどの工夫をする必要もあるでしょう。
まとめ
今回は、旅館等経営会社の特殊性及び再建策について説明をしました。
旅館等経営会社が再建や破産を行なう場合には、上記の点以外にも問題になる点があります。
早期かつ適切に対処をすることで、円滑に再建を行なうことができます。
場合によっては、破産手続の検討も必要になることもあります。
旅館等経営会社の再建を検討されている経営者の方は、お早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。
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