TFCC損傷
TFCC損傷とは
TFCCとは、日本語では三角線維軟骨複合体(さんかくせんいなんこつふくごうたい)といいます。
TFCCは、手首の小指側付近、手首の尺側(くるぶし側)の先端と、手の骨との間にある、軟骨でできた三角形の組織のことです。尺骨三角骨靱帯、尺骨月状骨靱帯、掌側橈尺靱帯、背側橈尺靱帯、関節円板、尺側側副靱帯、三角靱帯で構成され、手首の外側の衝撃を吸収するクッションの役目を担っています。
TFCC損傷が起こるケースとして最も多いのはバイクや自転車の二輪の事故です。転倒してとっさに手をついた時など、手首に負荷がかかった時に損傷が生じます。
TFCC損傷の症状
TFCC損傷は、手首の専門医でなければ診断が難しく、初診では単なる手首の捻挫と診断されることも多いです。また、上記のとおり、TFCCは軟骨であるため、レントゲンでは確認できません。また、後述するように、TFCC損傷に対する補償を受けるためには、なるべく事故から間をおかずにTFCC損傷の診断を受けておいた方が良いため、TFCC損傷と思われる症状がみられる場合は、早期に専門医にかかり、MRIを撮影しておく必要があります。
以下のような症状がある方はTFCC損傷の可能性がありますので、早期に専門医にかかることをお勧めします。
- 雑巾を絞る動作、車のワイパーのように手首を動かす動作、ドアノブを回す動作をすると痛みがでる。
- 手関節の尺側に疼痛(痛み)や腫れがある。
- 手首の捻挫と診断されたが、何ヶ月も慢性的な痛みが続いている。
TFCC損傷は、手首の尺骨側(くるぶし側)の損傷のため、手首を曲げる動作よりも、ひねる動作をするときに痛みがでやすいです。
なお、TFCC損傷におけるMRI読影は、専門医でも分かりにくい場合があり、MRIで痛みの原因が特定できない場合は、アルトログラフィー(関節造影検査)を行うことによって損傷を明らかにすることができます。
医師によっては、レントゲンでの所見と被害者の訴える自覚症状を基に、TFCC損傷と診断される医師もいます。例えば、尺骨(前腕の小指側の骨)と橈骨(前腕の親指側の骨)との長さに差が生じ、TFCC部分に圧力が強くかかっている状態が窺え、かつ、上記のような典型的な自覚症状がある場合、TFCC損傷と診断されることもあります。
医学的には誤っていないのかもしれませんが、事故の賠償という面からすると、TFCC損傷が画像上明確に認められる必要があります。
(ただし、MRIを撮影せずにTFCC損傷との診断を受けた場合には、TFCC損傷という傷病名は認められなくても、別の要因(骨の変形等)を理由に、TFCC損傷が認められた場合と同様の補償が受けられる可能性があります。)
後記「<TFCC損傷の後遺障害判断基準>を参照。
アルトログラフィーとは
関節内に注射針を刺して造影剤や空気を入れ、レントゲンやCTの撮影を行い、靱帯損傷などによる造影剤の漏出等を調べる検査です。通常の撮影では写らない関節腔(関節が占めるスペース)の形状、拡がりを明らかにすることができます。
TFCC損傷の治療
1.固定療法
早期から固定療法を行って、手首を動かさないようにして炎症をおさえる必要があります。固定療法は損傷後、早いうちから行うべきです。固定を行う期間は、症状の程度によって異なりますが、だいたい3~4週間で症状の改善がみられます。固定の方法は、ギブス、サポーター、テーピングの3種類があります。
なお、固定中は手指の動作を維持できるように、握り動作、つまみ動作等、把握機能の改善を目的としたリハビリを行います。
2.関節内ステロイド注射
3.手術療法
切除手術及び縫合手術は、患部を切除もしくは縫合する手術療法です。
尺骨短縮術は、尺骨(前腕のくるぶし側の骨)を短くし、患部へかかる負荷を減らす手術療法です。
4.症状固定の時期
TFCC損傷の後遺障害認定基準
自賠責保険の後遺障害等級認定では以下の基準が設けられています。
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第6級6号 | 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
TFCC損傷の後遺障害判断基準
TFCC損傷によって、関節の可動域がどの程度制限されているかによって判断されます。
制限の有無については、健側(事故の影響による症状がない側)の可動域と比較することによって判断していくことになります。
手関節の主要運動(日常動作において最も重要なもの)は背屈(手首を反らせる動作)と掌屈(掌側へ倒す動作)です。この背屈と掌屈は、同一面にある運動であり、同一面にある運動については、両運動の角度を測定した結果の合計値をもって可動域の制限の値を判断します。
そして、健側の可動域である正常値を160度と仮定した場合、各等級が認定される合計値は以下のようになります。
正常値 | – |
---|---|
第8級6号 | 全く動かない又は10%以下 |
第10級10号 | 1/2以下に制限 |
第12級6号 | 3/4以下に制限 |
背屈 | 掌屈 | 合計値 |
---|---|---|
70度 | 90度 | 160度 |
10度 | 10度 | 20度 |
35度 | 45度 | 80度 |
55度 | 70度 | 120度 |
※背屈、掌屈の値のバランスはいずれでもよく、合計値がそれぞれ10%以下、2/1以下、3/4以下に制限されるかどうかで判断がなされます。例えば上記正常値の場合、背屈5度、掌屈15度でも合計値が20度となるため、8級6号に該当します。
※背屈、掌屈運動だけではなく、回内、回外運動の可動域も判断基準になります。回内運動は、肘を固定させて掌を外側に回転させる運動、回外運動は、肘を固定させて掌を内側に回転させる動きをいいます(手のひらを開いた状態でドアノブを回す運動)。
前述したように、レントゲン撮影のみでTFCC損傷と診断された場合には、レントゲン上、骨の変形等が見て取れることを根拠に、TFCC損傷と診断されている可能性があります。この場合、自賠責保険でTFCC損傷という傷病名が認められる可能性は低いですが、骨の変形を理由に、TFCC損傷と同様の補償が認められる可能性があります。なぜなら、骨の変形が理由となって、関節の可動域に制限が生じている可能性があるからです。ですから、MRIを撮影していなくとも、後遺障害等級認定をあきらめる必要はありません。
TFCC損傷で適正な賠償を受けるためのポイント
①因果関係の立証
事故から相当の期間が経過した時点で、MRI画像や医師の診断でTFCC損傷と診断されていた場合、TFCC損傷が事故によって発生したものかどうか(これを因果関係といいます)が問題になることがあります。交通事故によるものだということが証明できなければ、後遺障害の等級認定を受けることはできません。
ですから、手首に上述したような自覚症状がある場合には、早期に手の専門医を受診し、手首のMRIを撮影しておくのがベストです。もっとも、仮に事故から相当の期間が経過した後で、TFCC損傷と診断された場合であっても、事故の態様や事故直後にどのような自覚症状があったか(医師に訴えていたか)等の事情から、事故とTFCC損傷との因果関係を立証することは可能です。したがって、事故直後から定期的に通院し、どのような自覚症状があるか(どのような動作で痛みがでるか)を主治医に的確に伝え、カルテに記載しておいてもらうことが重要なポイントになります。
②素因減額
TFCC損傷は、交通事故以外にも、調理師や美容師などの手首に負荷がかかる職業の人や、スポーツ、加齢により生じることもあります。また、中には先天的な身体的特徴として尺骨(前腕の小指側の骨)が橈骨(親指側の骨)より長く、この影響によって、TFCC損傷が生じやすくなっている方もいます。
TFCC損傷で後遺障害の等級が認定された場合、相手方保険会社と交渉していく中で、保険会社から上記の要因があったことを理由に、「事故の前からTFCC損傷が生じやすい状態にあった(要因を備えていた)のだから、TFCC損傷が生じたのは事故だけが原因ではない」として、賠償金の減額が主張されることもあります(これを、素因減額といいます)。素因減額の主張がされることもあります。
たしかに、裁判所の判断としては、素因減額を認めた判例もありますが、素因減額を認めていない裁判例が多く存在しています。素因減額を認めた裁判例も、尺骨と橈骨との長さの差が病的といえるほどの身体的特徴を備えていた場合ですら1割の素因減額しかしていません。したがって、多くのケースは、素因減額がなされるべきでない事案と考えられます。もし、保険会社から素因減額の主張がされた際は、適切な裁判例を引用し、反論していく必要があります。
まとめ
TFCC損傷の方、またはその可能性がある方は、一度当事務所までご相談ください。