裁判例
Precedent
事案の概要
A(原告:71歳女性)は、信号のない交差点の横断歩道上を自転車で進行中、Y運転の普通乗用車に衝突され死亡した。
Aの相続人Xらは既払金357万9,288円を控除した4,757万4,326円の支払いを求めて訴えを提起した。
<争点>
過失割合
<判断のポイント>
(1) 過失割合
交通事故は、当事者双方またはいずれか一方の過失によって生じるものですが、当事者間における過失の割合のことを「過失割合」といいます。
過失割合は、過去の裁判例を基準とし、当該事故の具体的事情に応じた修正を加えながら決定されます。
(2) Xら及びYの主張
1審において、Xらは、事故当時Aが71歳と高齢であったこと、本件事故が横断歩道上で発生したものであること、Aの運転する自転車が先に交差点に進入していたことなどから、AとYの過失割合は0対10であると主張しました。
これに対し、Yは、Aにおいても、車道を走行する車両の有無及びその存在を確認すべき注意義務があったのにこれを怠り、漫然と本件道路を横断した過失があるとして、AとYの過失割合は3.5対6.5であると主張しました。
(3) 裁判所の判断
1審裁判所は、AとYの過失割合を3対7と認定しました。
その理由として、1審裁判所は、Yに「前方及び右方の注視義務違反」が認められる一方で、本件交差点が見通しのきく交差点であることから、Aにも「本件歩道の横断を開始する際の左方への注視義務違反」が認められることを挙げています。
そして、本件事故が信号機による交通整理が行われていない交差点で発生したこと、Y車両の進行していた道路が優先道路であったこと、本件事故発生当時、Aは71歳であったことから、「自転車が横断歩道上を通行する際は、車両等が他の歩行者と同様に注意を向けてくれるものと期待することが通常であることを総合考慮すれば、AとYの過失割合を3対7と認めるのが相当である」と認定しました。
2審裁判所も、1審判決を支持してAとYの過失割合を3対7と認定し、控訴を棄却しました。
その理由として、2審裁判所は、「道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、自転車を押して歩いている者は、歩行者とみなして歩行者と同様の保護を与えているのに対し、自転車の運転者に対しては歩行者に準ずるような特別な扱いはしておらず、同法が自転車に乗って横断歩道を通行することを禁止しているとまでは解せないものの、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは道路交通法上の要保護性には明らかな差がある」ことなどを挙げています。
まとめ
道路交通法は歩行者と軽車両である自転車を明確に区別しており、横断歩道を自転車に乗って横断する場合と自転車を押して徒歩で横断する場合とでは、必要とされる保護の程度に大きな差を認めています。
今回ご紹介した裁判例では、自転車側に3割の過失が認められました。自転車と自動車の間で事故が発生した場合、思いもよらない結果が生じて大きな不安を感じることもあるかもしれません。
お困りの際には、お気軽にご相談ください。