裁判例

Precedent

交通事故
外貌醜状
12級
逸失利益
過失割合
ロードバイクの特殊性を過失割合に反映しなかった事例【後遺障害12級14号】(東京地判平成28年7月8日)

事案の概要

X(24歳男性)は、ロードバイクで車道を直進していたところ、道路外に出ようと左折する被告の車に、巻き込まれるように衝突した。

Xは転倒し、下顎部挫創等の傷害を負い、下顎部の醜状痕は後遺障害等級12級14号と認定された。

<争点>

① 過失割合
② 外貌醜状の逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 6万7220円 5万4610円
通院交通費 2万3020円 2万3020円
休業損害 3万9545円 3万9545円
逸失利益 1278万4098円 100万円
傷害慰謝料 90万円 70万円
後遺障害慰謝料 300万円 290万円
過失相殺 0% 5%
既払金 ▲250万6285円 ▲250万6285円
弁護士費用 160万円 20万円
合計 1590万7598円 217万5031円

<判断のポイント>

<ロードバイクの特徴と過失割合>
近年、ロードバイクは競技のみならず、日常の足として使われています。

ヘルメットをかぶっていたり、目立つ色のウェアを着用したりしていれば、通常の自転車と異なり、高速度で走行しているものと一見してわかりますが、交通事故となると、そのようなケースはあまり多くありません。

過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。

ロードバイクの特殊性は、双方の車両の種類、速度に大きく関わります。

<X及びYの主張>

Xは、「Yの車は、左折の際合図を出していなかった。」と主張しました。

これに対し、Yは、「Xの自転車はBianchi社製のスポーツタイプであり、本件事故当時、高速度で、なおかつ、不適切なブレーキ操作、前方不注視及び無灯火の過失があった。」と主張しました。

<裁判所の判断>

Xのロードバイクが、時速20kmの速度で走行し、かつ、ブレーキ操作を適切に行っていれば、Xは転倒せずに、Yの車の手前で停止できたと認められる。

ところが、Xは、急ブレーキによって転倒しているのであるから、Xには、道路の状況に応じた速度で走行する義務又はブレーキを確実に操作する義務(道路交通法70条)に違反した過失があったと認められる。

一方で、Yがいつその合図を出したかは不明である。

このように本件事故の発生についてはXにも過失があるが、本件事故の主たる原因は、Yが左後方の安全を十分確認することなく左折したことにあり、Xの過失は、Yの過失と比べると軽微であるから、Xの過失は5%とするのが相当である。

<外貌醜状のポイント>

外貌醜状は、対面する人に着目されるなどして、コミュニケーションに支障をきたすことあり得るものの、労働能力を直接的に減少させる要因にはならないと考えられています。

そのため、外貌醜状の後遺障害が残ってしまった場合には、逸失利益を主張するよりも、後遺障害慰謝料の増額を図ることを念頭に置く例が多いです。

<Xの主張>

Xは、舞台俳優になることを目指し、アルバイト等で生活費を稼ぎながら歌や踊りの練習をしたり舞台に出演したりする活動をしており、外貌醜状による労働能力の喪失は認められるべきとして、逸失利益1278万4098円を主張しました。

<裁判所の判断>

Xは、本件事故後も舞台活動を続けているものの、本件事故による下顎の挫創治癒痕を友人や知人に度々指摘され、舞台に立っているときも下顎の挫創治癒痕が気になって演技に集中できなくなることがあることなどを総合すれば、下顎の挫創治癒痕はXの労働能力に影響を及ぼすおそれがある。

もっとも、下顎の挫創治癒痕は化粧をすれば目立たなくなること、下顎の挫創治癒痕を理由に役を外されたりしたことはなく、本件事故前と同様に舞台活動を続けられていることに照らすと、下顎の挫創治癒痕が原告の労働能力に及ぼす影響は限定的といわざるを得ない。以上の事情を勘案すると、逸失利益は100万円と認めるのが相当である。

まとめ

外貌醜状の点は、他の参考判例解説に譲ることにしますが、本件で、舞台俳優を目指している方であっても、労働能力の喪失は限定的にしか認められないとした点は特徴的といえます。

ロードバイクは、自動二輪車に匹敵する高速度で走行することが可能であり、近年ではその利便性から、都市部で多く見かけます。

ロードバイクの事故に関するご依頼を多くいただくようになりましたが、自動二輪車と同等に取り扱われる例は少ないです。

本件のように、ロードバイクの特殊性よりも、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情が重視されることが多いです。

ご自身がロードバイクに乗っていた場合、相手方がロードバイクに乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

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