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雇用主への損害賠償請求4 ~保護具の不使用が招いた事故~ (名古屋高裁昭和58年12月26日判決)

事案の概要

Xは、鉄の溶解作業を担当していたところ、溶鉄の飛まつが左眼に入り、左眼角膜火傷及び深層角膜異物の傷害を負った(以下「本件事故」という。)。このとき、Xは保護具を装着していなかった。

Xは、雇用主Yに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>

Yの責任及びのX責任の有無とその程度。

<判決の内容>

(Yの責任)
飛沫発生は不可避な現象であり、事故を防止するには保護具の着用が唯一の方法である。

したがって、使用者は労働契約の附随義務として、労働者の安全を確保するため、同作業に従事する労働者に対し、作業の危険性を説明し、防護具を支給し、これを着用するよう教育する義務があつたと解する

それでは、Yに上記義務の履行が認められるか。

・危険性の説明
XはYに入社する以前、溶解工として働いていただけでなく、Yに入社後も、毎日の朝礼において一般的な安全面の注意を受けていた。

Xに対する本件作業の危険性説明のための教育は一応尽されており、Xもその危険性を一応理解していた。

・防護具の支給状況
Yは、溶解・炉前工全員に、希望や申請の有無に拘らず個人貸与していたことが認められる。

・保護具使用を徹底させる義務(着用するよう教育する義務)
Yは毎日の朝礼の際、安全面につき一般的注意を与え、また安全委員会を設け、現場パトロール、保護具の検討、係長会議の開催と結果伝達、スライドの映写等の活動を恒常的に行っていた。

しかし、保護具の交付は希望申出による。しかも、個人からの直接申請、個人に対する専用貸与方式を採用していなかつたことに照らすと、パトロール中に、仮に保護具を使用しない者を発見したとしても、保護具の交付を希望しなかつた者或いは希望を申出ても上司によって必要性を認められなかつた者である可能性もあつて、これら不使用者に対し例外なしにまた確実に注意を与えてはいなかった。

このように、Yは、Xに対し入社時の基礎的安全教育を行ない、保護具の支給もしていると認められる。しかし、仕事の慣れや保護具自体の不便さ等から、保護具の使用を怠っている労働者に対し、改めて危険性を説明し、保護具を確実に着用するよう指導するなどの経験者に対する再度の安全教育を確実に行ったことまでは認められない。

以上によると、YのXに対する安全確保義務の履行は不完全であつたというべきである。

(Xの責任)
Xは本件作業の危険性を一応理解しておりながら、しかもYから保護めがねの支給を受けながら、レンズが曇るという理由でこれを使用しなかったのは過失である。

(結論)
Xの過失と、Yの義務不履行の態様を対比して判断すると、Xの過失は3割と認める。

まとめ

本件では、被災者に3割の過失割合が認められています。

本件のような危険な労働に従事する際は、労働者自身にも事故の安全上の注意義務として、保護具使用などの自己安全義務があります。

本件でXは、保護具のめがねを支給されながらも、自らの判断で装着せず、結果、傷害を負ってしまいました。

これだけだと、Xの不注意や怠慢で全てが終わりそうな話です。もっとも、Xのみの責任に帰するには、使用者Y側がやるべきことをしっかりと行っていたことが前提となります。

そして、その要件とされたのが、労働者に対し、①作業の危険性を説明し、②防護具を支給し、③これを着用するよう教育する義務です。

これら3点のうち、③着用するよう教育する義務が不十分だったと認定されました。

これによって、双方の責任が認められ、その割合として、X3割、Y7割に落ち着きました。

保護具はつい面倒でわずらわしく、着用しないまま作業に従事する方も多いと思われます。

しかし、以上のとおり、被災者にも不注意があると、過失相殺が大きく認められる恐れがあります。

もっとも、すぐに自分の落ち度を認めて諦める前に、適切な賠償を受けるためにも、会社側の責任が本当にないのか、今一度検討することが重要です。

ぜひ一度、弁護士にご相談下さい。

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