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労働災害
雇用主への損害賠償請求 ~工場の機械で右前腕切断~ (東京地裁平成12年8月29日判決)

事案の概要

工場にて造粒加工作業に従事していたXは、造粒機が作動中に手を差入れたことで、造粒機に付属するロータリーバルブ(以下、本件バルブという。)に右腕が巻き込まれ、右前腕を切断する傷害を負った。

Xは、労災保険から補償を受けた後、安全配慮義務違反又は不法行為責任に基づき、元勤務先会社Yに対して損害賠償請求訴訟を提起した。

<争点>

元勤務先会社Yの
①責任の有無及び
②過失相殺(過失割合)
その他、損害額及び損害の填補額

<判決の内容>

<争点①Yの責任の有無について>
・教育・訓練及び安全管理の塀怠
作業標準書の周知徹底が不十分であった。

工場全体に機械を止めずに作業する風潮があったことにより、Xも、本件バルブの危険性をよく認識できなかった。

Yとしては、このような作業の仕方を一掃するべきであったのであり、機械を作動しながら作業をすれば、本件のような事故に結びつくことは容易に予見できた。

・従業員配備上の不備
Yは、危険性を伴う業務の場合、慣れていない従業員をどのような勤務態勢(指導態勢)で作業に従事させるかは慎重に検討すべきであったのに、当時、原告よりも1年だけ先輩で、機械の構造等にもあまり詳しくない者を配置していたことが、本件事故に大きく影響している。

・危険防止装置の不備
本件バルブは、危険性を有する機械であるが、通常の用法に従っていれば、人体に傷害をもたらす危険を常に有しているとまでは認められない。

したがつて、本件バルブにつき、危険防止装置を付けないことが直接的に本件事故の原因であり、また、被告の過失であるとまでは言えない。

→Yには、安全配慮義務違反に基づく責任は認められる。

<争点②過失相殺(過失割合)について>
・本件バルブはその作動中に下から手を入れることは予定されていない機械であること、
・原告は、大学の材料工学科を卒業し、機械一般についてもそれなりの知識を有していたこと、
・本件バルブがその中に手を入れれば危険であることが明らかであるのに、原告は、意識的に右手を入れたこと、

などの諸事情によれば、原告の過失は相当重大であると言わざるを得ず、当時原告が時間に追われ焦っていたことをも勘酌しても、50パーセントの過失相殺をするのが相当である。
→過失割合は、50対50である。

まとめ

本訴訟では、自ら作動中の機械に手を入れてしまったことによる事故について、Yに責任があるのか、また、責任があるとして、過失相殺は生じないかが争われました。

Yの責任の有無については、上記の諸事情から、安全配慮義務違反がYに認められました。

このように、会社側は、従業員が危険な作業をしていることを放置して、きちんと指導して是正することを怠っていると、事故が生じた場合、責任を負うこととなります。

普段からの安全作業の研修や指導等の徹底が必要になります。

過失割合については、危険が予見できるのにXが意識的に手を入れていたことが重視され、Xの過失割合が大きく認められました。

適切な指導がなく、周りの先輩従業員も機械に手を差入れることが頻繁に行われていたと認められながらも、この点が重視されたのは、Xの特性にも関連します。

つまり、Xは大学の工学科を卒業しているため、機械に対する知識があることで、危険を回避できる可能性が高かったということです。

この考え方に従えば、まだ高校生程度の知識しか有さない工場作業員については、過失割合が低くなります。

もっとも、機械の危険性が、誰が見ても明らかな場合は、機械に詳しいかどうかは関係がなくなるため、学歴で過失割合が左右されることは無いでしょう。

以上のとおり、過失割合が50パーセントも認められたため、総損害額約4500万円の半分が過失相殺され、ここから労災保険等から填補された額を控除されることになりました。

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