裁判例
Precedent
事案の概要
Xは、飲食店及び社員食堂等を運営する会社に勤務し給食事業料理長(給食事業部門の管理職)に就いていた。
そんな中、部下から、売上金を盗んだり、他の従業員に指示して勤務先の関連会社から酒を盗ませたりした等の虚偽に基づく中傷を受けた。
勤務先会社は、関連会社との関係悪化を懸念し、Xに対して糾問的な事情聴取を行った。これにより、Xはうつ病を発症した。
<争点>
業務起因性の有無。
具体的には、Xが業務により受けた心理的負荷の強度、ならびに、業務とうつ病の発症及び自殺との因果関係の有無。
<判決の内容>
判決は、業務起因性の判断基準について、以下のとおり示した。
まず、最高裁判例に基づき、業務と死亡との間に相当因果関係の認められることが必要である。
その有無は、死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきであるとした。
内在する危険が現実化したかの判断基準については、以下のとおりとした。
業務の危険性の判断は当該労働者と同種の平均的な労働者を基準とすべきであるとする。
また、相当因果関係を判断するに当たっては、旧労働省によって策定された「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」が基礎とする「ストレス―ぜい弱性」理論による医学的知見に基づいた判断指針を踏まえつつ、複数の出来事による心理的負荷を総合的に判断して修正を行うのが相当であるとした。
本判決は、うつ病発症の前後の業務に着目した。
・[うつ病発症前]
会社で起きた事件について糾問されたことは、心理的負荷の強度が指針のいうⅢに当たる。
そして、給食事業部門を外されるという仕事の質の変化が客観的に予想される事態となっていたことと、この出来事を要因とする上記部下による嫌がらせ行為や勤務先会社と関連会社との関係悪化も一体となってXに心理的負荷を与えたと認定した。
結果、Xの心理的負荷の総合評価は指針のいう「強」であるとした。
・[うつ病発症後]
心理的負荷は「中」であって、すでに罹患していたうつ病を軽減させるものではなかった。
他にうつ病発症の要因となる自体はXに生じていなかった。以上から、Aの業務とうつ病の発症及び死亡との間に相当因果関係の存在を肯定した。
まとめ
本判決は、精神疾患を発症して死亡した事例について、①判断指針をも考慮していること、②うつ病発症前の業務だけでなくうつ病発症後の業務も検討対象としていることに特徴があります。②については、脳心疾患の事例についての最高裁判例(最判平8年1月23、平8.3.5参照)を参考としたと考えられます。
判断指針は、現在、新たに「心理的負荷による精神障害の認定基準」として運用されています。
この認定基準は、心理的負荷について詳細な評価表とともに認定基準が定められています。
もっとも、認定基準も複雑ですので、罹患中のうつ病その他精神疾患が、業務災害に当たるのかお悩みの方はまずご相談下さい。