裁判例
Precedent
事案の概要
A(加盟店)は、「Y」の名称による中古車買取店のフランチャイズを展開していたBとフランチャイズ契約を締結した。
フランチャイズ契約の内容には、「Bが定めた商号、商標、マーク等を使用することを許可する」旨の規定があった。
その後、Bは、Cに対して上記中古車買取事業を譲渡した。Cの商号は、「株式会社Y」であった。
Xは、所持していた中古車を100万円でAに売却する契約を締結し、同時に、XがAに対して57万円を交付することにより、上記売買代金100万円と交付された57万円の計157万円をもって、Aが上記中古車のローン債務をXに代わり一括弁済する事務を引き受けた。
しかし、Aは、上記ローン債務の弁済を怠った。
そこで、Xは、Cに対し、CがAに対してCの商号を使用して中古車買取業を営むことを許諾していたことを理由に、上記ローン債務相当の損害賠償を求めた。
<判決の内容>
(1)加盟店の外観について
Aが「Y」または「Y尼崎店」の名称を使用するに至った経緯についてみると、Aが使用していた名刺(「Y尼崎店」との記載あり)は、Cが作成したものであり、また、Aが使用していた看板(「Y尼崎店」との記載あり)についても、AとCとの間に引き継がれたAB間のフランチャイズ契約の内容や、他の加盟店においても同様の看板が設置されていたこと、AとCとのフランチャイズ契約解除後、Xの従業員がAの看板を撤去したことに照らせば、Cの指導に基づいて設置されたものと認められる。
以上からすれば、CはAが「Y」あるいは「Y尼崎店」の名称を使用して中古車店を営むことを許諾していたものと認められる。
そして、Cの商号は「株式会社Y」であるところ、Aが使用していた「Y」は、Cの商号の固有名称の部分であり、また、「Y尼崎店」という名称は、この固有名称の営業の一部門であることを示す店舗名を付加したに過ぎないから、CがAに対し、これらの名称を使用して営業することを許諾していたということは、Cの商号を使用して営業することを許諾していたことに他ならない。
(2)Xの誤認について
名刺や看板に「Y」あるいは「Y尼崎店」の名称を使用していた点からすれば、本件店舗を訪れた一般の顧客は、Aの店舗がYという営業主体のうち、尼崎の地区を担当する一部門であると考えるのが自然である。
このようなAの店舗に関する上記諸事情に加え、看板にはAの名称が記載されていた形跡がないこと、一般の顧客が店舗の営業主体を識別するもっとも有力な情報源は看板に表示された名称であること、契約書の作成手続も比較的短時間で終了した(=営業主体がAであることをうかがい知る機会が少なかった)ことが窺われることからすると、A店舗の営業主体がCであると誤認したというXの供述の信用性を否定するのは困難である。
(3)Xの重過失の有無
A店舗の外観に関する上記諸事情からすると、A店舗の営業主体がCではないことを識別するのが容易であったとは認められず、Xにおいて、A店舗の営業主体がCであると誤認したことについて重大な過失があったとは認められない。
まとめ
自己の商号を他人が使用することについて許諾したことに伴って第三者に損害が生じた場合、商号の使用を許諾した者が、この他人と共に負う責任を名板貸責任といいます。
名板貸責任が成立する要件として、①名板貸人(本部)が営業主であるかのような外観の存在、②かかる外観作出について名板貸人に責任があること、③取引の相手が、営業主体は名板貸人であると誤認すること、④前記③のように誤認したことについて取引の相手方に重大な過失がないこと、が認められる必要があります。
上記要件のうち、②は、自己の商号を使用する許諾をしていることや、フランチャイズにおいては、加盟店の外観を本部の指示、指定どおりに実施しなければならないことが根拠になります。