裁判例
Precedent
事案の概要
Y(フランチャイザー)とフランチャイズ契約を締結したX(フランチャイジー)が、その営業を開始する前に、契約継続の意思を失ったため、Yに対して加盟金の返還を求めた事案。
なお、XとYとの間で締結されたフランチャイズ契約には、加盟金はいかなる事由によっても返還しない旨の条項が定められていた(加盟金不返還特約)。
<争点>
加盟金不返還特約は有効か
<判決の内容>
(1)加盟金不返還特約の有効性
加盟金不返還特約は、YがXに対する有利な地位、立場を利用してXに一方的に不利益を強いるものとはいえない。
もっとも、加盟金が、フランチャイジーに与えられる商号・商標の使用権やノウハウの提供等と比較して著しく対価性を欠く場合には、その対価性を欠く部分について返還を求めることができる。
(2)加盟金が著しく対価性を欠くかどうか
XからYに支払われた加盟金は、営業許諾料、Yの商号・商標の使用許諾料等としての性質を持つ。
まず、営業許諾料としての対価と考えることができるかどうかについては、Xは、Yに対して、加盟金とは別途、毎月の月売上高の5%(金額にして年額756万円)のロイヤリティを支払うことが予想される。
ロイヤリティは、YからXに提供される経営ノウハウの対価であるが、このような高額のロイヤリティの支払いが予定されている以上、これとは別に、営業許諾料の対価がそれほど高額になるとは考えられない。
また、Yの商号・商標の使用許諾料も、フランチャイズ契約当時に商標登録されていないこと、Yはメディアによる広告宣伝をしておらず、全国的な知名度が高いものではなく、むしろYは、各店舗の商圏に適した新聞折込広告等による広告活動を重視しており、商号・商標による宣伝効果よりも、各加盟店の経営努力による宣伝効果が強いことから、Yの商号・商標の使用許諾料もそれほど高額になるとは考えられない。
以上のとおり、営業許諾料及びYの商号・商標の使用許諾料を合わせても800万円に相当する価値があるとは到底認められないこと等から、これに対する加盟金800万円は著しく対価性を欠く。
(3)対価性を欠く部分はどの部分か(返還を求めることができる金額はいくらか)
Yの商号・商標に周知性・集客力が認められないこと、純然たる営業許諾料以外に、年間数百万円のロイヤリティが支払われることを考慮すると、これらの対価は、いかに高く見積もっても200万円を上回ることはないと推認される。
したがって、YはXに対し、支払われた加盟金800万円のうち、600万円を返還すべきである。
まとめ
(1)加盟金について
加盟金とは、フランチャイズ契約締結の前後に、フランチャイザーからフランチャイジーに提供されるノウハウや商号・商標の使用権等(以下、「ノウハウ等」といいます。)の対価です。
加盟金がノウハウ等の提供の対価である以上、素直に考えると、ノウハウ等の提供があった場合には、加盟金は返還をすることはできないと考えられます。
そのため、フランチャイズ契約の多くは、加盟金はいかなる場合も返還しない旨の規定(いわゆる不返還特約)が設けられています。
(2)加盟金不返還特約の有効性
上述のように、加盟金はノウハウ等の提供の対価ですから、これが提供された場合には加盟金の返還を求めることができず、したがって、原則として加盟金不返還特約は有効と考えられています。
本裁判例も、加盟金不返還特約のみをもって、これを無効とはできないとしています。
本裁判例は、XがYに支払った加盟金の性質を具体的に検討し、その対価としてのノウハウ等が提供されていない場合には、著しく対価性を欠く部分については返還を認めるべきとの立場に立っています。
本裁判例と同様に、加盟金不返還特約が公序良俗に反して無効になる場合があるとする裁判例は散見されます(大阪地方裁判所平成7年8月25日判決、東京地方裁判所平成18年6月8日判決等)。
もっとも、加盟金が、提供されたノウハウ等と比較して著しく対価性を欠くとして、加盟金の(一部)返還を認めた事例は多くありません。
他の裁判例は、対価性といった客観的事情のみならず、フランチャイザーがフランチャイジーの無知に乗じて契約を締結したとはいえない、フランチャイジーが加盟金不返還特約を十分理解して契約を締結しているといった主観的事情も併せて、公序良俗に反するとまでは言えないとしていますが、本裁判例は、主観的事情に関しては、Yが契約上有利な地位を利用してフランチャイズ契約をXと締結したとまではいえないとしつつ、対価性といった客観的事情をもって、公序良俗に反して(一部)無効であるとした点に特徴があります。