退職した従業員から労働審判を申し立てられたらどうすれば良い?
「退職した従業員と労働局であっせんを行っていたが、上手くいかず労働審判が申し立てられてしまった」
「退職した従業員から突然労働審判の申立てが行われ対処に困っている」
退職した従業員から裁判所を通じて労働審判を申し立てられた場合、対応に悩まれる企業の担当者の方も少なくないと思います。
結論から申し上げますと、従業員から労働審判を申し立てられた場合は、「直ちに」弁護士にご相談するのが良いと思います。
この記事では、何故、直ちに弁護士に相談する必要があるのかについて、労働審判の流れや、企業側の対応のポイントを踏まえてご説明します。
1.労働審判とは
労働審判手続とは、解雇、残業代請求等の企業と労働者個人との間の紛争について、裁判官である労働審判官1名と、労使団体から推薦され任命された労働審判員2名の合計3名で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で集中審理を行い、調停の成立による解決(すなわち話し合いでの解決)の見込みがある場合にはこれを試み、調停によって紛争が解決できない場合には、事案の実情に即して解決するための審判を下すという手続をいいます。
労働者・企業側双方が裁判所へ出頭し、労働審判官(裁判官)及び労使から推薦された労働審判員の下で、法律上の争点及び事実認定上の争点を迅速に整理・判断し、その結果を前提として話し合いが試みられる(話し合いがうまくいかなければ審判という形で裁判所から判断が下される)ことになります。
統計によれば、労働審判手続での平均審理期間は、申立後約70日間であり、約70%が話し合いでの調停で解決し、審判での解決と合わせると、約80%が労働審判で解決しています。
2.労働審判手続の流れ
労働審判手続の大まかな流れは以下のとおりです。
- 労働審判の申立て・期日指定
- 答弁書・証拠の提出
- 労働審判手続期日
- 調停成立or審判成立or訴訟以降
以下、詳しく説明していきます。
(1)労働審判の申立て・期日指定
多くの労働審判は、労働者側から申し立てられます。
第1回労働審判期日は、申立て後、40日以内に指定されることになります。
(2)答弁書・証拠の提出
労働者側からは、申立書、書証の提出が行われますから、企業側は、労働者側から提出された申立書、書証を検討し、指定された期限までに答弁書・証拠を提出しなければなりません。
そして、下記のとおり、労働審判では、第1回労働審判期日において結論が決められると言っても過言ではありません。
企業側は、通常、答弁書提出までに短いと1週間から10日程度しか時間の猶予がありません。
労働者側と事前の任意の交渉や労働局でのあっせんが行われており、それまでに弁護士に相談されていた場合なら、まだ時間に余裕がある場合もあるかもしれません。
しかし、突然、労働審判の申立てがされ、事前に弁護士に相談がされていなかった場合は、答弁書の提出までに余裕がないことを認識し、直ちに弁護士に相談をするようにしてください。
(3)労働審判手続期日
労働審判手続は、原則として3回以内で審理・調停・審判を行います。
#1:第1回労働審判手続期日(約2時間)
第1回労働審判手続期日では、申立書・答弁書・それぞれの証拠を踏まえ、まずは、争点整理が行われます。
例えば、労働審判手続における法律上の争点が何なのか(例えば、普通解雇が無効なのかどうか等。)、また、事実認定上の争点が何なのか(例えば、申立人の非違行為があったのか等。)ということの確認が行われます。
この確認には、時間がかからず、ごく簡単に行われることが一般的です。
次に、争点整理の結果を前提として、労働者側又は企業側が主張する事実が認められるか、法律上の主張が認められるか、証拠調べが行われます。
証拠調べは、審尋という形で、労働審判官である裁判官から、当事者または企業の担当者に対し、主に事実を質問することとなります。
その後、労働審判員や代理人から質問が行われることとなります。
その後、争点整理及び証拠調べの結果を前提として、調停案を示した上で、調停が試みられることになります。
第1回労働審判手続期日においても調停が成立することが少なくないため、例えば、担当者限りで労働審判に出頭する場合であっても、当日、最終的な判断権者には連絡が取れるようにしておくべきでしょう。
#2:第2回以降の労働審判手続期日(約1時間)
第2回以降の労働審判手続期日では、通常、再度争点整理及び証拠調べは行われず、主に調停の成立に向けた調整が行われることとなります。
労働審判委員会も、訴訟となったらどうなりそうか、ということを前提に調停を試みます。
つまり、労働審判委員会が調停を試みるため、また審判をするために最も重要な証拠調べ(審尋)は、専ら第1回期日のみ行うこととなるのが通常なため、第1回期日とそのための準備が大変重要なものだといえます。
(4)調停成立or審判成立or訴訟移行
調停が成立すれば、労働審判手続は終了となります。
調停が成立しない場合は、労働審判委員会が労働審判を行うこととなります。
この労働審判は、労働審判委員会が調停案として示していた内容と同様になることが多いでしょう。
労働審判は、労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議申立てをすることができます。
労働審判は、異議が申し立てられなかった場合は確定し、異議が申し立てられた場合は効力を失い、自動的に訴訟に移行することとなります。
上記のとおり、労働審判手続全体のうち、約70%が調停成立により解決し、約10%が異議の申立てがされず労働審判で解決していることになります。
3.企業側の対応のポイント
労働審判は、「第1回期日が勝負である」「第1回期日が正念場」だと言われています。
その理由は、これまでに説明したことでお分かりいただけたことと思います。
労働審判手続期日は、申立て後、40日以内に指定されますが、企業側は、答弁書の作成等、第1回期日に備える必要があります。
以下、労働審判を申し立てられた場合の企業側の対応のポイントを説明します。
(1)弁護士に相談する
まずは、何をするよりも前に、弁護士に相談の予約を入れましょう。
実際に弁護士に代理人を依頼しなかったとしても、労働審判の手続きや対応の方針についての知見を得ることができると思います。
(2)時系列表・人物相関図の作成
簡単な時系列表を作成されると、弁護士としても労働事件のイメージがつきやすくなりますので有益でしょう。
また、関係者が多数になる場合は、人物相関図も作成されておくこともお勧めです。
(3)証拠の整理
就業規則や賃金規程、解雇通知書や解雇理由証明書等、基本的な証拠については早急に準備しましょう。
また、録音データやメール・LINEのやり取り等、その他の証拠についてもできる限り準備されると良いと思います。
まとめ
今回は、退職した従業員から労働審判が申し立てられた場合について、労働審判手続の詳細や企業側の対応について説明しました。
本稿でも何度もご説明したとおり、企業側は、まず申立書が届いたら直ちに弁護士に相談することが有益です。
労働審判が申し立てられた場合に限らず、申し立てられそうな場合でも、ご心配なことがあれば、弁護士法人みずきまでご相談ください。
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