交通事故被害者が破産する場合とは?損害賠償の処理について
1.交通事故被害者が破産する場合
交通事故に遭い、重いお怪我を負ってしまった場合には、長いことお仕事ができなくなってしまう場合もあります。
その場合、収入が途絶えて、経済的に逼迫してしまった結果、借金をしてしまうこともあり得ます。
無事に仕事に復帰し、バリバリと返済が可能になれば問題ないですが、もしも到底返せないほどの状況になってしまったら…のこされた手段は自己破産しかないかもしれません。
しかし、ちょっと待ってください。
交通事故被害者が自己破産をする場合、問題が出てくる可能性があるのです。
2.自己破産とは
そもそも、自己破産とはなんでしょうか。
漠然と「借金を踏み倒す」というようなイメージがあるかもしれませんが、正しくありません。
自己破産は、簡単に言えば、生活に必要な最低限度の財産だけを残して、それ以外の全財産を使って全債務を返済し、返しきれない部分はチャラにするという制度です。
これによって、多重債務者は、生活の再スタートを切ることができるのです。
3.問題となる「破産財団」への組入れ
上記のとおり、自己破産は、基本的にはまずはありったけの財産で可能な限り債務を減らすことが大前提となっています。
したがって、土地や不動産、車といった価値あるものは処分をして、その代金で借金を返していくことになるのです。
これらの、借金を返すためのお金のことをまとめて「破産財団」といいます。
そうすると、もしも交通事故の賠償金がこの破産財団に組み入れられてしまうとすると、せっかくの賠償金は被害者の手元に残らずに、債権者のもとにいってしまうことになります。
これでは、生活の再建どころではありません。
では、実際にどのような処理がされるのでしょうか。
4.各損害の項目の処理
ひとくちに交通事故損害賠償といっても、その損害の種類はさまざまです。
したがって、損害項目によって、処理の考え方が異なってきます。
(1)物損
自動車の修理費用や、時価相当額については、原則として全額破産財団に組入れられてしまいます。
これは、上記にもあるように、破産の際には自動車は財団に組入れられることになるためです。
すなわち、自動車の形のまま残っていれば、破産財団となるものであるため、この自動車が形を変えたものである、修理費用や時価相当額という金額は、自動車と同じ扱いをされることとなります。
もっとも、物損には自動車以外もあり得ます。
例えば、自動車で家財道具を運搬している最中に交通事故に遭ったような場合。
法律では、破産の際に必要最低限度の財産は残せることになっています。
例えば、洗濯機や冷蔵庫は生活必需品なので、最低でも1台は破産財団に入れることなく残すことができます。
したがって、運搬していた家財道具が、破産財団にもともと入らないはずの財産である場合には、これが形を変えた賠償金は破産財団に組み入れられずに、被害者の手元に残ることとなります。
(2)治療費
純粋に法律理論的に考えると、グレーです。
ただ、実際の運用からすれば、破産財団に入らず、もらえるものと思われます。
まず、加害者に任意保険が付いている場合には、基本的にひと月ごとに保険会社から直接医療機関へ治療費が支払われていることになります。
したがって、破産の開始時に、被害者が加害者に対して持っている債権が観念できないと思われます。
また、法律は、破産者の生活状況や財産の種類及び額などを考慮して、財産を破産財団に組み入れない処理をすることを認めています。
生命身体の維持回復にかかる費用である治療費は、上記の考慮の結果、破産財団に組み入れられない処理がされる可能性が極めて高いと思われます。
(3)休業補償
休業補償は、給与の代替物です。
給与自体は破産をしても取られることはないため、基本的には破産財団には組み入れられないと考えられます。
しかし、この金額が大きい場合には、若干の問題が生じます。
つまり、例えば月収50万円の人が月々の生活に20万円しかかからないとすれば、余剰が30万円出ることになります。
もし余剰が貯蓄として残っていた場合には、これは破産財団に組み入れられてしまいますから、金額次第では、一部が破産財団に組み入れられるという処理をされてしまう可能性もあります。
そうならないためには、上記のとおり、破産者の生活状況等を考慮してもらうように働きかける必要があります。
(4)逸失利益
逸失利益は、後遺障害が残った場合に、将来における労働能力の喪失を金銭換算したものです。
これは基本的に将来の分なので、破産手続きが始まった後のものは、関係ありません。
なぜなら、破産は破産手続きを開始した時点で持っている財産を使って返済する制度だからです。
したがって、症状固定時から破産手続き開始時までの間の逸失利益は、金額次第では上記休業補償と同様の処理がされる可能性があります。
(5)慰謝料
慰謝料は、細やかな配慮が必要です。
法律では、慰謝料は行使上の一身専属債権と考えられています。
これは、慰謝料というものが精神的損害を補填するものであるという性質上、それを請求するかどうかは被害者自身が自由に決められるということです。
何を当然のことを…と思われるかもしれませんが、少し考えてみましょう。
例えば、AさんがBさんに100万円を貸しているとします。
Bさんは「お金がなくて払えない」といいますが、実はCさんに対して100万円の売掛金債権を持っているとします。
Aさんからすれば、「Cさんから100万円取り立てて自分に返済しろ!」といいたくなりますよね。
破産手続きでは、これを第三者が取り立てて破産財団に組み入れることによって、実現することになります。
しかし、慰謝料請求権は、第三者が請求することが許されないのです。
したがって、破産手続きが開始するまで、慰謝料の請求をしていなければ、慰謝料が破産財団に組み入れられることはありません。
加害者から提案が来ていても、合意に達していなければセーフといえるでしょう。
もっとも、金額の合意や、判決が出てしまっている場合には、通常の債権と変わりなくなってしまっているため、その金額は破産財団に組み入れられてしまう可能性があります。
まとめ
このように、交通事故被害者が破産をする場合には、交通事故の示談交渉を進めるか否か、どのタイミングで破産を申立てるか等の点を、各事案に応じて分析しなければ、本来であればもらえた金額が泡と消える可能性があります。
上記はあくまで、基本的な考え方ですので、事案によっては異なる結論も十分にあり得ます。
そのくらい、交通事故賠償と破産の関係は、入り組んでいるのです。
当事務所は、交通事故賠償請求のみならず、破産申立についても数多く実績があります。
ご自身で見切り発車をしてしまう前に、ご相談いただくのが円満解決のためになると思われます。
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