交通事故と医療過誤はどのように起こるのか?共同不法行為と競合不法行為について

1.医療過誤はどのように起こるのか

不運にも交通事故に遭ってしまい、お怪我を負った場合、ほとんどの方が病院へ通院することになると思います。

そこで大多数の方がきちんと治療をし回復を見ることになりますが、極まれに、通院先の病院で医療過誤に遭ってしまうということもあり得ます。

たとえば、交通事故にあって頭を打ったため、病院に搬送されたとします。

しかし、同病院の医師は、レントゲンを撮ったのみでCTもMRIも撮らずに、被害者を帰宅させてしまいます。

この被害者が実は頭蓋骨骨折に伴い、動脈損傷等を負っていた場合、数時間後には容態が急変し、救命措置が間に合わなければ、不幸にもお亡くなりになってしまうこともあり得るのです。

(1)賠償責任は誰にあるのか

さて、このような場合、賠償の責任を負うのは誰になるでしょうか。

そもそもの原因を作ったのは、間違いなく交通事故です。

したがって、事故の加害者に責任の一端があるのは確かです。

他方で、医師が病原を見逃さなければ、こんな不幸な結果にはならなかったかもしれません。

そういう意味では、医師にも責任はあり得ます。

では、たとえば上記のように交通事故と医療過誤が連続して起こり、結果として1000万円の損害が発生したとします。

このとき、被害者は

①事故加害者と病院に対して、1000万円請求できる
②事故加害者には1000万円の○%、病院には残りの1000万円の●%と分けて請求できる

という2種類の請求方法が考えられます。

①の考え方を「共同不法行為」

②の考え方を「不法行為の競合(競合不法行為)」といったりします。

(2)被害者にとってメリットがあるのはどちらか

上記の考え方のうち、被害者にとってメリットがあるのは①の方でしょう。

なぜなら、被害者は、どちらを相手にしても満額の請求が可能となりますから、あえて別々に2つの請求をする必要がなくなります。(もちろん、どちらか一方から満額を受け取れば、他方への請求はできなくなります。)

②の方は、どちらが何%悪いか判断できない以上、請求すること自体が困難です。

また、たとえば病院に1000万円を請求した際に、病院から「うちは50%しか責任がないから、半分しか支払わない」という反論を受けることになってしまいます。

そうすると、示談交渉も裁判提起も、二重の苦労となってしまいます。

2.裁判所はどう考えているのか

では、裁判所はこの点をどう考えているのでしょうか。

実は、ここについては紆余曲折いろいろな判断がありました。

しかし、ちょうど上に出したように、事故による動脈損傷を見逃した事案について、最高裁判所は、①の考え方でOKと判断しました(最判平成13年3月13日)。

裁判所が言い分を要約すると以下のとおりです。

例のような場合、被害者は、放置すれば死亡するほどの傷害を負ったが、搬送先病院で適切な治療がなされればかなり高い確率で救命できた。
すると、交通事故と医療事故とのいずれもが、被害者の死亡というひとつの結果を招いており、結果について相当因果関係があるといえる。
そうであるとすれば、交通事故と医療事故を別々に分けて責任判断することは相当ではない。

ここにある「相当因果関係」の判断は、一般用語の「因果関係」とは異なり、法的評価を含むものですので、一概には言えませんが、ざっくりといえば、「交通事故によって死亡してもおかしくない怪我を負った」「医療事故によって、その死亡の危険が実現してしまった」という2つの関係が密接に絡み合っているため、別々に分けることはできないということです。

事故加害者と医師との間で、それぞれの責任の割合はありますが、それは被害者には関係ない、当事者同士の中で解決しろ、という判断になります。

(1)過失割合はどうなるのか?

交通事故につきものが過失割合です。

逆に、医療過誤には大きな過失割合が生じることはあまり多くありません。

では、事故加害者との関係では、過失相殺を10%されてしまうような場合には、病院との間ではどのような処理がされるのでしょうか。

上記判例は結論として、他の不法行為者との間の過失割合をしん酌することは許されないとしました。

つまり、事故加害者との関係では、900万円になるとしても、病院との関係では1000万円を請求することができるということです。

これらの考え方によって、被害者は、より過失割合の少ない方へ、全額の請求をするという方法が取れることとなり、被害者救済が非常に達成されやすくなります。

3.すべてが上記の考え方になるというわけではない

しかし、気をつけなければいけないのは、すべての場合に上記のような形になるというわけではない点です。

上記の事案は、事故によって死亡の危険があること、医療事故が事故と時間的に近接していることが要素として挙げられます。

ひとくちに、「交通事故と医療過誤」といっても、たとえば、事故で足の骨を負って入院中に、点滴投与を間違えて死亡するなどといった事案も想定されます。

この場合にはそもそも、交通事故については死亡の危険性がなかったので、死亡結果の責任を事故加害者へ負わせることはできません。

また、たとえば、死亡の危険性がある傷害を負ったが、治療の結果なんとか回復してきた。

しかし、その経過で医療過誤が発生し死亡にいたった場合や、全治6ヶ月の傷害を負ったが、手術ミスによって全治が1年に延びてしまった場合など、さまざまなケースが考えられます。

これらについては、上記の判例と同じようには考えられません。

もちろん、そもそも医療過誤といえるのかという大きな問題点もあります。

誰に対して、どのように、いくらの請求ができるのかという点は、非常に重要です。

軽はずみな示談をしてしまう前に、ぜひ弁護士にご相談ください。

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