死亡事故における葬儀関係費用が賠償金として認められた裁判例について

1.死亡事故で請求できる損害賠償の範囲

交通事故による死亡事故では、精神的苦痛に対する慰謝料、死亡しなければ得られたはずの収入である逸失利益が認められますが、その他に葬儀費用も認められます。

交通事故に遭わなくても人間いずれは死ぬものですから、葬儀費用を賠償させるのはおかしいという意見もありますが、一種の慰謝料的な側面から認められています。

ここでは、葬儀費用に関して述べたいと思います。
(※慰謝料、逸失利益については、「死亡事故の慰謝料」、「死亡による逸失利益」を参照)

(1)葬儀費用

交通事故を原因として請求できる賠償金の範囲は、その交通事故により通常生ずべき損害として社会通念上認められる部分となります。

死亡した場合に一般的に行われる、葬儀(訪問客の接待、遺体の処置を含む)やその後の法要(四十九日、百日の法要等)・供養等を執り行うために要する費用、仏壇・仏具購入費、墓碑建立費等は、通常生ずべき損害として賠償の対象となります。

#1:「赤い本」の基準

交通事故における損害額の認定については、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟損害賠償算定基準」(表紙が赤いので、通称「赤い本」と呼ばれています)が用いられます。

いわゆる「裁判基準」だとか「弁護士基準」だとか言われる基準が載っています。

東京地方裁判所でも「赤い本」の基準で損害額が算定されています。

そして、葬儀費用については、「赤い本」によると原則として150万円とされています。

しかし、実際に支出した金額が150万円を下回る場合には、実際に支出した金額が損害として認められます。

150万円を上回る場合でも、損害として認められるのは原則として150万円までとされています。

これは、葬儀費用が、葬儀の種類や地域、被害者や遺族の社会的地位などによって異なるものであるところ、死亡事故の被害者という点では同じであるのに、損害として認められる金額が異なることは公平に反すること等が挙げられます。

もっとも、150万円を超える葬儀費用が損害として認められた事例もありますので、個別具体的な事案に応じて主張立証する必要があります。

2.葬儀関係費用が賠償金として認められた裁判例

(1)仙台地裁平成24年12月27日判決

10歳の女児Aが夏休み中に北海道にある母の実家に滞在中に事故により死亡し、同事故により死亡した祖父及び従兄弟と3名合同の通夜及び告別式が北海道において行われた後、地元の仙台市においても通夜及び告別式が行われました。

仙台市において別途行われた通夜及び告別式についても、本件事故と相当因果関係のある費用として200万円の葬儀関係費用を認めました。

(2)さいたま地裁平成26年8月8日判決

交通事故被害者Bの死亡場所が居住地から離れたところであること、Bの両親及び姉も事故により重傷を負い、葬儀を二回行う必要があったことなどから、葬儀費用として200万円を認めました。

この裁判例も葬儀を二回行う必要があることを理由として200万円を認めていますが、遺族である原告は400万円強の葬儀費用が発生したとして争っていました。

しかし、直ちに本件事故と因果関係のある損害と認められるわけではないとされています。

(3)さいたま地裁平成24年1月31日判決

専業主婦であったCが、春の交通安全運動に際し交通安全協会役員として街頭指導活動に従事中、交通事故に遭ったという事件です。

街頭指導活動中の事故であったことから、さいたま県警はCを警察協力殉職者として取り扱っていること、そのため恥ずかしからぬ葬儀を営む必要があったと推認されること、現実にもCの葬儀のために500万円を超える費用を支出していることから、裁判所は損害として250万円を認めました。

この裁判例では、亡Cの当時の立場に着目し、高額となった葬儀費用を認めています。

しかし、現実に500万円以上の費用が発生したにもかかわらず、認定額を250万円にとどめており、原則の150万円を超える請求には一定のハードルがあるように思われます。

3.葬儀等に関係しない費用は別途積極損害として認められた裁判例

上記の葬儀費用に対し、遺体搬送料の費用については、葬儀等とは直接には関係ない費用とされおり、別途積極損害として認められています。

すなわち、葬儀費用150万円の他に、遺体搬送の費用がかかった場合はこれも別に請求することができます。

(1)京都地裁平成14年7月1日判決

葬儀費用のほか、遺体搬送料48万円余を認めています。

(2)東京地裁平成22年12月15日判決

葬儀費用のほか、遺体の空路搬送費用として25万円余を認めています。

(3)横浜地裁平成27年9月30日判決

葬儀費用のほか、バイク後部座席同乗中に73.8m滑走し脳座滅で即死した現場での遺体の状況等を考慮し、遺体処置費用等遺体搬送費一式66万円余を認めています。

4.香典・香典返しは損益相殺の対象なのか

交通事故によって損害を被ると同時に、何らかの利益を得た場合、その損害から利益を差し引くことを、「損益相殺」といいます。

例えば、受領済みの自賠責損害賠償額や各種社会保険給付金などがあります。

そして、香典は、交通事故により被害者が死亡したことから発生するものですが、儀礼的に死者や遺族を慰謝する趣旨で贈与するものとされており、損益相殺の対象とはなりません。

また、法要が無事に終わったという報告を兼ねたお礼として香典返しがありますが、これを損害として加害者に請求することもできません。

まとめ

以上のように、葬儀費用は支出した金額がそのまま賠償金として認められるわけではありません。

また、訴訟になった場合において、以前は、葬儀執行の事実が立証されていれば支出額の立証がなくとも基準額相当の支出を要したものとして推定する取扱いでありました。

しかし、近時の東京地方裁判所においては、基準額の賠償を認める際には、基準額以上の支出がされたことの立証が求められています。

その立証方法としては、葬儀会社や葬儀場等の領収書、葬儀会社等に振込送金を行ったことを裏付ける通帳や金融機関の振込依頼書等が一般的です。

このように、葬儀費用1つとっても、しっかりと賠償請求するには遺族の方にかなりの負担が生じます。

また、交通事故で身近な人が亡くなった場合、突然葬儀費用等の出費を強いられ、経済的な負担も大きいと思います。

葬儀等の準備を行いながら相手方の保険会社とやり取りをすることは相当なストレスがかかると思います。

また、適切な賠償額を請求するためにも、死亡事故でお困りの際には、是非当事務所にご相談ください。

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