関節機能障害(上肢)が後遺障害等級12~1級に認定された事例

「上肢」とは、肩関節・肘関節・手関節までの3大関節及び手指の部分をいいます。

後遺障害等級認定においては、3大関節と手指は別に取り扱われています。

ここでは、上肢3大関節の機能障害をとりあげたいと思います。

上肢の関節機能障害には、以下のとおり後遺障害等級が定められています。

「第1級4号」:両上肢の用を全廃したもの
「第5級6号」:1上肢の用を全廃したもの
「第6級6号」:1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの
「第8級6号」:1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
「第10級10号」:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
「第12級6号」:3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

関節機能障害は、等級が認定されれば、後遺障害慰謝料及び逸失利益の請求は問題なく認められるケースが多いです

上記の後遺障害等級がそれぞれ認定された場合、裁判例ではどのように慰謝料や逸失利益が判断されるのか、いくつか裁判例を紹介していきます。

(1)後遺障害等級1級4号(医療過誤事件):鳥取地方裁判所米子支部平成21年7月13日判決

【事案の概要】

生後約9か月の被害者X(原告)が、Y病院(被告)で急性細気管支炎と診断されて入院し人工呼吸を受けていた際、心配停止状態に陥ったのに、担当医師らの過失によりその発見が遅れたため、低酸素脳症による重篤な障害を残した事案。

Yの主張
Yは、担当医師らの過失とXに生じた後遺障害との間の因果関係や、Xに1級相当の後遺障害があることは認めた上で、逸失利益の計算方法を争いました。

裁判所の判断

Xの後遺障害が、交通事故の後遺障害等級表で1級相当のものであることは、当事者間に争いがない。

したがって、その労働能力喪失率は100%である。

Xの逸失利益の額は、平成17年賃金センサスによると、男性労働者の全年齢平均賃金は、年額552万3000円であるから、Xは、本件医療事故に遭わなければ、18歳から67歳までの間、平均して年額552万3000円を得ることができたのに、本件医療事故にあったため、これを得ることができなくなった。

Xの逸失利益の額は、5067万9048円となる。

また、Xは、本件医療事故のため、1級相当の後遺障害を負ったもので、その人生の大半を、生活全般について他人の介助を受けなければならない生活をやむなくされたのみならず、通常ならば成長や生活の中で得ることができたはずの多くの楽しみを失うことになったものである。

これらの事情を考慮すると、Xの後遺障害慰謝料としては、2800万円を認めるのが相当である。

コメント

本件は交通事故ではありませんが、医療過誤により重い脳障害が残り、その結果、「両上肢の用を全廃したもの」として後遺障害等級1級4号が認められました。

本件では、逸失利益で約5000万円、後遺障害慰謝料で2800万円の賠償金が認められています。

この裁判所が認定した計算方法や金額については、後遺障害1級相当の基準どおりの計算及び金額といえます。

(2)後遺障害等級5級6号:大阪地方裁判所平成20年11月26日判決

【事案の概要】

加害者Y(被告)が運転する原動機付自転車が、被害者X(原告)が運転する原動機付自転車に追突し、Xが右鎖骨骨折等の傷害を負った事案。

Xの主張
Xの右腕神経叢損傷による右上肢完全麻痺については、「1上肢の用を全廃したもの」として後遺障害等級5級6号に該当する。

Yの主張
Xには、深部腱反射が亢進し、体性感覚誘発電位及び神経伝導速度に異常がなく、本件事故後10日以上手指運動障害及び知覚障害が認められなかったこと、知覚神経活動電位が検出されたことなどからして、腕神経叢損傷があったとは認められない。

加えて、右上肢の他動運動時に筋緊張及び筋収縮が認められたことなどからしても、Xに、右上肢に原因がある完全麻痺の後遺障害を生じたとは認められない。

裁判所の判断

Xは、いわゆるバイクの転倒事故である本件事故に遭い、右鎖骨骨折の傷害を被ったものであるが、このような事故態様は、右腕神経叢損傷の受傷機転として合理性のあるものということができる。

Xは、少なくとも不全型の腕神経叢損傷の傷害を負い、これによる廃用性の拘縮を生ずるなどして、右上肢の完全麻痺ないし全廃の症状が現れたものと推認することができる。

逸失利益算定におけるXの基礎年収としては、27歳から40歳に達するまでの13年間については、平成15年男性労働者全年齢平均賃金547万8100円の75%に相当する410万8575円とし、40歳から67歳に達するまでについては同平均賃金547万8100円とすることを相当と認める。

Xは、本件事故により利き腕である右上肢の用の全廃を生じたものであるから、労働能力を79%喪失したものと認めることができる。

以上に基づきXの逸失利益を算定すると、6409万5385円となる。

コメント

本件では、右上肢の用を全廃したものとして、後遺障害5級が認められています。

後遺障害慰謝料も5級相当の1440万円が認められており、適切な判断がなされていると言えます。

Yは、右腕神経叢損傷があったとは認められないと反論していますが、裁判所は、本件事故の態様から腕神経叢損傷の受傷の原因として合理性があるものと判断しています。

このように、交通事故と後遺障害の因果関係が争われることは多いですが、その場合には、事故態様や初診時のカルテなどが大事な資料となります。

(3)後遺障害等級6級6号:東京地方裁判所平成23年3月9日判決

【事案の概要】

被害者X(原告)が、信号機のない交差点において、横断歩道を自転車で走行していたところ、左折しようとした加害者Y(被告)の運転する自動車に衝突された事案。

Xの主張
Xは、事故当日、左腕に、痛み、痺れの自覚症状があり、左肩、左上腕、左肘打撲、両膝、両下腿打撲の診断を受けた。

翌日、起床すると、左腕が動かなくなっていた。各病院では、左腕神経叢損傷の診断を受けており、左上肢麻痺は、本件事故によるものである。

Yの主張
Xは、本件事故により、左腕神経叢損傷や左腕神経叢麻痺を負ったものではない。

外傷に起因する神経叢損傷の場合、受傷直後の症状が最も重く、その後、症状が改善することはあっても悪化することはないから、事故当日、全く症状が認められないのに、その後、腕神経叢の麻痺症状を訴えたとしても、外傷起因のものとは認められない。

またXは、本件事故前から進行性の乳癌を患い、本件事故当時、ラパチニブのため癌の進行は小康状態を保っていた時期のようではあるが、癌は左腕神経叢周囲のリンパ節に転移し、同神経叢に浸潤していた状態であり、本件事故前から左上肢麻痺が出現していた。

裁判所の判断

後遺障害診断書によれば、Xの左上肢のうち、自動で動くのは、肩関節の屈曲が10度、外典が10度のみで、その他の肩関節、肘関節、手関節は自動では動かない状態であり、筋電図の結果も腕神経空位が認められる等、Xの左上肢の麻痺は、腕神経叢の神経障害によるものであることが認められる。

Xの腕神経叢損傷の症状を生じせしめたのは、腕神経叢周囲のリンパ節に転移した癌による圧排を受けていた腕神経叢が本件事故による受傷を契機として急速にその損傷を進展させた結果であると推認するのが相当であろう。

コメント

Xは本件事故以前から癌治療を行っており、左腕の神経損傷や神経麻痺は本件事故とは関係がないと争われていました。

しかし、本件事故前の左腕の動きの制限と本件事故後の左腕の動きの制限を比較して、本件事故によって神経叢損傷が生じたと判断されています。

(4)後遺障害等級10級10号:大阪地方裁判所平成20年3月14日判決

【事案の概要】

被害者X(原告)が自動車を運転し、丁字路交差点を直進していたところ、突き当たりを右折しようとした加害者Y(被告)運転の自動車に衝突され、自賠責から「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として、後遺障害等級12級6号に該当する者と認定されていた。

Xの主張
Xは、本件事故により、右手関節の可動域が健側の2分の1以下となったものであるから、後遺障害等級10級に相当する。

なお、症状固定診断の際の関節可動域は、背屈及び掌屈が健側の52%であり、2分の1にわずかに足らなかったが、参考運動の測定をしておらず、その1年後に改めて参考運動の測定をしたところ、背屈及び掌屈、橈屈及び尺屈のいずれも2分の1以下の可動域しかなかった。

このことからして、症状固定時において橈屈及び尺屈の関節可動域が2分の1以下であった可能性がある。

Yの主張
Xの右手関節可動域は、健側の2分の1以下に制限されていないから、自賠責において認定されたとおり12級6号が相当である。

裁判所の判断

Xの右手関節の運動機能傷害につき、症状固定時点の健側の52%とほぼ2分の1に制限されていること、当時から障害の増悪が見込まれており、その予測された経緯として、実際に1年後には運動機能障害の程度が健側の32%に増悪していることが認められる。

これらによれば、被害者の後遺障害の程度としては、10級10号に相当するものと評価することができる。

後遺障害の内容及び程度に基づき、労働能力喪失率を27%と認める。

コメント

本件は、症状固定時に健側の2分の1にわずかに足りなかった運動機能障害につき、当時から障害の増悪が見込まれており、症状固定の1年後にはそれが現実化して健側の2分の1以下の運動機能制限に至ったことを考慮し、後遺障害10級10号が認められました。

参考運動の測定が結論を左右した裁判例と言えます。

(5)後遺障害等級12級6号:東京地方裁判所平成16年12月21日判決

【事案の概要】

パトカーが一方通行の規制のある道路を逆走し、交差点に進入したところ、パトカーの左方から進行してきた被害者車両X(原告:指圧師)と衝突し、Xが国(被告)に対して損害賠償を請求した事案。

Xの主張

本件事故前年の所得は1047万1981円である。Xの労働能力喪失率は、平成11年の売上げに対する平成13年の売上減少率から46.5%程度とすべきである。

そして、労働期間を症状固定時70歳の平均余命の約2分の1である7年として、後遺障害逸失利益を算定すると2817万6221円となる。

Yの主張
Xの後遺障害逸失利益は、平成11年の所得702万1918円を基礎収入として、労働能力喪失率を14%、就労機関を平均余命の約2分の1である7年として、568万8380円が相当である。

裁判所の判断

労働能力喪失率についてみるに、後遺障害等級12級の労働能力喪失率は14%とされている。

しかしながら、指圧師は、その治療業務において、指先を使うばかりではなく、手指を患者の身体に当てた上で、手指に対する身体の体重のかけ方を微妙に調整するなどして施術を行うことなどからすれば、後遺障害による影響は大きいものと推認される。

このような事情を考慮すると、Xの後遺障害による労働能力喪失率は20%と認めるのが相当である。

もっとも、就労期間については、症状固定時にXは70歳と高齢であること、Xの仕事には相当の体力を要することなどを考慮し、5年とするのが相当である。

以上により原告の後遺障害逸失利益を算定すると、608万0192円となる。

また、Xの後遺障害等級に照らせば、後遺障害慰謝料は290万円を認めるのが相当である。

コメント

後遺障害12級相当の労働能力喪失率は、本来14%であるとされています。

もっとも、本件では、Xが指圧師であり、主に手指を使う業務内容であることにかんがみて、通常の労働能力喪失率より大きい20%が認められています。

しかし、その反面、労働能力喪失期間は5年に制限されてしまいました。

関節機能障害が後遺障害として残った場合、労働能力喪失率や喪失期間は、一定の基準に則って定められることが多いですが、本件のように、具体的業務内容から、基準より高い労働能力喪失率が認められることもあります。

残存した症状やその程度、業務に対する影響等を具体的に主張立証することが重要といえます。

目次

まとめ

上肢の関節機能障害については、冒頭でも述べたとおり、等級が認められれば後遺障害慰謝料や逸失利益は問題なく認められる場合が多いです。

ですので、後遺障害申請の時点で、しっかりと主要運動や参考運動の可動域を測定することがとても重要です。

また、関節機能障害の業務に対する影響が大きいのであれば、これまでどのような業務を行っていたか、後遺障害によって業務にどのような影響が生じたのかなど、詳細に説明することにより通常より多額の賠償金を請求することもできるかもしれません。

関節に痛みがあるが後遺障害申請をするべきか悩んでいる方、関節の機能障害が残ったけれども保険会社の提示する賠償金額に納得がいかない方は、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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