関節機能障害(下肢)が後遺障害等級12~1級に認定された事例
「下肢」とは、股関節・ひざ関節・足関節までの3大関節及び足指の部分をいいます。
後遺障害等級認定においては、3大関節と足指は別に取り扱われています。
ここでは、下肢3大関節の機能障害をとりあげたいと思います。
下肢の関節機能障害には、以下のとおり後遺障害等級が定められています。
「第1級6号」:両下肢の用を全廃したもの 「第5級7号」:1下肢の用を全廃したもの 「第6級7号」:1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 「第8級7号」:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 「第10級11号」:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 「第12級7号」:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
関節機能障害は、等級が認定されれば、後遺障害慰謝料及び逸失利益の請求は問題なく認められるケースが多いです。
上記の後遺障害等級がそれぞれ認定された場合、裁判例ではどのように慰謝料や逸失利益が判断されるのか、いくつか裁判例を紹介していきます。
(1)後遺障害等級5級7号:東京地方裁判所平成20年11月12日判決
【事案の概要】
被害者X(原告)が自動二輪車を運転して直進進行中、道路反対側を対向進行してきた加害者Y(被告)が、道路進行方向左端に注射していた車両を追い越そうとして、道路進行方向右側へはみ出して正面衝突し、Xが右股関節脱臼骨折等の傷害を負った事案。
Xの主張
Xは、僅かに歩行が可能ではあるものの、杖すら使用が困難で歩行器を利用して何とか前進できる程度にすぎず、歩行器が床や柱などに引っかかると転倒してしまい、起き上がれない。
椅子に座る際には、手すりと背もたれがなければ上半身の姿勢を維持できず倒れる、入浴時は浴槽の段差が越えられず、介助が必要であるといった状態であることから、自賠責等級4級5号より重大であり、労働能力喪失率は92%を下回らない。
Yの主張
Xが後遺障害等級4級5号より重大であることは否認ないし争う。
裁判所の判断
Xの右股関節脱臼骨折及び右脛骨近位端骨折後の右股関節・右膝関節・右足関節の機能障害の程度は、それぞれの関節の完全硬直又はこれに近い状態にあり、「1下肢の用を全廃したもの」として自賠責等級5級7号に該当する。
また、右下肢短縮障害の程度は、左下肢長に比べ4センチメートルの短縮が認められ、「1下肢を3センチメートル以上短縮したもの」として自賠責等級第10級8号に該当するものである。
したがって、後遺障害等級として4級に該当する程度の後遺障害が残存していると認めるのが相当である。
よって、Xは、症状固定日当時、42歳であるから、25年の就労可能期間の間、92%の労働能力を喪失したと認められ、その基礎とすべき収入は、症状固定日当時の男子労働者の全年齢平均(555万4600円)とするのが相当である。
よって、Xは、後遺障害による逸失利益として7202万3098円が認められる。
また、後遺障害慰謝料としては、1670万円を認めるのが相当である。
コメント
本件では、1下肢の用を全廃したものとして、後遺障害5級が認められています。
さらに、下肢の短縮障害も認められ、これらが併合されて4級相当の後遺障害が認められています。
交通事故で足を骨折した場合、関節機能障害のほかにも短縮障害や神経障害が認められる可能性があります。
これらの後遺障害が認められれば、併合されることにより等級が上がる場合もあります。
本件では、4級相当の労働能力喪失率や後遺障害慰謝料が認定されており、適切な判断がなされていると言えます。
(2)後遺障害等級8級7号(併合6級):神戸地方裁判所平成26年12月12日判決
【事案の概要】
被害者X(原告)が、自動二輪車で直進青矢印の信号機の表示に従って直進中、赤色表示を無視して対向車線から転回しようとした加害者Y(被告)の運転する自動車に衝突された事案。
Xの主張
医師の診断によれば、MRSA感染による下腿骨髄炎が制圧不能の場合には下腿切断の可能性が極めて大きいことから、Xの後遺障害は、「1下肢を膝関節異常で失ったもの」として、4級5号に該当するものというべきであり、労働能力喪失率は92%である。
Yの主張
症状固定時以降Xの骨髄炎は沈静化しており、下腿切断の可能性が大きいとはいえない。
また、Xの受傷内容からすれば、足関節に機能障害が生じることは考えられない。
Xの後遺障害は7級にとどまる。
裁判所の判断
Xの右膝は、動揺関節の状態であるため、常時硬性膝装具の装着が必要であり、階段の昇降やトイレに大きな支障を来たしており、歩行のためには常時杖が必要であり、重い物を持つことができない。
そのため、自賠責保険において、右膝関節の機能障害につき「1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」として後遺障害等級8級7号が認定された。
Xは骨髄炎の再発を繰り返しており、下肢切断の可能性があることが指摘されているが、これまで下肢切断に至っておらず、将来的にも下肢切断の可能性があるというにとどまり、不可避であるとまで診断されていないことからすれば、現時点で後遺障害等級4級5号に相当するということはできない。
Yは、Xの受傷内容から足関節の機能障害は起こりえないとして、後遺障害等級7級にとどまると主張する。
しかし、Xは、本件事故により、右下腿開放骨折の障害を負い、足関節の機能障害については、自賠責保険において右腓骨骨幹部骨折によるものと認定されていることからすれば、本件事故によるものというべきである。
Xの後遺障害については、自賠責保険における認定どおり後遺障害等級併合6級に該当し、少なくとも労働能力の67%を喪失したものというべきである。
本件事故前年の年収440万9194円を基礎とすると、逸失利益は3787万5285円となる。
また、後遺障害慰謝料として1300万円を認めるのが相当である。
コメント
本件では、自賠責保険の認定どおり併合6級の後遺障害が残存したものと認め、労働能力喪失率を67%としました。
事故による衝撃が大きい場合、関節機能障害の他にも骨の変形障害などが残る可能性があります。
本件では、右膝関節の機能障害に限れば、後遺障害等級8級7号でしたが、その他にXには、右足関節の機能障害につき10級11号、右下腿開放骨折後の変形癒合につき後遺障害等級12級8号、右下腿の瘢痕及び右大腿の植皮創瘢痕が12級相当と認定されていました。
また、後遺障害慰謝料については、通常の後遺障害等級6級の場合よりも1割程度増額されています。
Xには、日常生活全般に多大な支障を生じている上、骨髄炎が再発するなどし、将来的に右下肢を切断することになるかもしれないとの不安を抱えながら生活していることなどの事情が考慮されているからのようです。
(3)後遺障害等級10級11号:大阪地方裁判所平成12年1月12日判決
【事案の概要】
丁字路交差点において、加害者Y(被告)が交差道路から左折合流する際左方確認を怠り左折進行したところ、直進道路を自転車で走行してきた被害者X(原告)に車両前部を衝突及び転倒させ、Xに左膝脛腓骨々折の傷害を負わせた事案。自賠責において後遺障害等級12級7号の認定を受けていた。
Xの主張
Xは、後遺障害等級認定後、症状固定当時の後遺障害のうち膝関節の側方動揺性が更に悪化し、人工関節を必要とする状態にある。
被害者はいまだ人工関節挿入置換を行っていないが、人工関節の耐用年数からできるだけ人工関節挿入置換を遅くさせようとの治療方針が採られ、骨移植等様々な方法での治療が継続されてきたものの、平成10年2月、人工関節置換手術以外は不可能であると診断がなされたものであるから、8級7号に該当する。
Yの主張
Xの左膝関節部の症状は平成6年6月30日に症状固定している。
裁判所の判断
Xは、平成6年6月30日以降の治療によっても症状の変化はほとんどなく、Xの側方可動域の原因も、同日時点で既に左脛骨プラトー部外側の骨欠損と変形治癒が認められており、同日をもって症状固定したというべきである。
Xの後遺障害の主たるものは、左膝関節の側方動揺性であり、歩行に際し、杖等による介助や装具による固定が必要である状態であるから8級7号とまではいえないが、10級11号に該当するものというべきである。
将来において人工関節手術を施行する可能性も認められるところではあるが、可能性にとどまっており、上記認定を左右しない。
Xは、症状固定時46歳であるから、就労可能年数21年、労働能力喪失率27%として、逸失利益は1449万1180円となる。
Xの後遺障害の内容からすると、後遺障害慰謝料は440万円と認めるのが相当である。
コメント
本件は、症状固定後に症状が増悪したというXの主張に対し、症状の原因が当初の症状固定診断時に示されており、症状変化もないという認定のもと、平成6年6月30日に症状固定したとの判断は変わらないと認定されました。
しかし、歩行に際し、杖等による介助や装具による固定が必要との事情から、後遺障害等級12級から10級に評価が見直されました。
後遺障害診断書の内容やX本人の証言が判断のポイントとなったようです。
(4)後遺障害等級12級7号:名古屋地方裁判所平成16年4月23日判決
【事案の概要】
被害者X(原告)が、事故現場付近の路肩に自動車を停止させ、自動車から降りて歩行中に、加害者Y(被告)が運転する自動車がXに衝突し、Xを道路上に転倒させ、右膝前十字靭帯付着部剥離骨折、右膝内側側副靭帯付着部剥離骨折等の傷害を負わせた事案。
自賠責からは、右膝関節の運動可動領域は健側の4分の3以下に制限されているが(12級7号)、一方右足関節の可動域は健側の4分の3以下に制限されていないとして非該当の判断がなされていた。
Xの主張
Xの右足首は背屈が5度しか可能しない(通常は20度まで可動する)ことから、Xの右足首はほぼ直角のまま固定された状態となってしまい、歩行に際し、右足先を後方へ蹴って進むことができない。
主治医も、「右足関節の背屈制限あり、それにより歩行に障害がある。走ることが困難で跛行がみられる。」と診断している。
これによれば、Xの右足首関節には、少なくとも「関節の機能に障害を残す」ものとして12級7号相当の後遺障害が存する。
Yの主張
Xの右足首の障害は、「運動可動領域の健側の4分の3以下に制限されている」にがいとうしない。X主張のような運動機能の障害があるとしても、これは、慰謝料として考慮されるべきものである。
裁判所の判断
自賠責において、12級7号に該当するには運動可動領域が健側の4分の3以下に制限されていると言う認定基準があることからすれば、Xの右足関節の障害の程度は、これに該当しない。
しかし、被害者は、右足首関節の背屈制限があることから、歩行に支障があり、走ることが困難で、跛行がみられる。
Xは実質従業員であり、仕事内容は作業現場に出て現場監督やクレーン操作や荷物運搬等の作業を行うもので、Xの右足関節の機能障害は、12級7号の認定基準に該当しないとしても、一定程度の影響を与えることは否定できない。
Xの右膝関節の運動制限は12級7号に該当し、右足関節の機能障害は12級7号に準じて、それぞれ労働能力に影響を与え、Xの仕事内容や後遺障害の内容等を総合して勘案すれば、Xの労働能力の喪失率は、12級相当の14%と11級相当の20%の中間である17%と解するのが相当である。
コメント
本件では、右足関節について可動域が健側の4分の3という認定基準には該当しないものの背屈制限により歩行に支障があることから、12級7号に準じて労働能力に影響を与えると認定されました。
単純に可動域の数字で判断するのではなく、現に労働に支障が生じているかどうかで後遺障害が認定されており、妥当な判断と言えます。
もっとも、右膝の12級7号と併せた併合11級相当までの労働能力喪失率は認めず、11級と12級の中間の17%の限りで認めています。
まとめ
下肢の関節機能障害については、冒頭でも述べたとおり、等級が認められれば後遺障害慰謝料や逸失利益は問題なく認められる場合が多いです。
また、事故の衝撃が大きい場合、関節機能障害のほかに骨の変形障害や足の短縮障害なども認められ、併合されてより高い等級の後遺障害が認められる可能性があります。
仕事内容や業務に対する影響の程度など、下肢の後遺障害で労働能力に支障が生じていることを詳細に説明することにより、通常より多額の賠償金を請求することもできるかもしれません。
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