交通事故の慰謝料と通院日数の関係について

交通事故の被害者となってしまった場合、相手側から支払われる示談金には複数の項目が含まれています。

そのうちの1つが慰謝料です。

示談金と慰謝料は混合されてしまいがちですが、慰謝料はあくまで事故による精神的・肉体的苦痛に対して支払われるもので、加害者側が支払うべき全ての賠償金である示談金の一部の項目になります。

同じような交通事故に遭った被害者でも、精神的・肉体的苦痛の程度は個人によって異なります。

しかし、この苦痛は、第三者の客観的な視点から正確に判断することは非常に困難です。

そのため、交通事故の慰謝料の算定には一定の基準が設けられ、ある程度の定額化が図られています。

ここでは、慰謝料と通院日数の関係についてご紹介します。

1.交通事故の慰謝料と通院日数の関係

交通事故による受傷でやむなく入院・通院する場合に、その精神的・肉体的苦痛に対して支払われる慰謝料を入通院慰謝料と言います。

入通院慰謝料は傷害慰謝料ともいわれ、受傷の部位や程度によって増額されることもありますが、被害者個別の事情を算定することの困難性から、入院・通院期間を基に算出されます。

このことから、入通院慰謝料と呼ぶのが一般的です。

では、通院期間が長いほど慰謝料が増額するかと言うと、必ずしもそうではありません。

入通院慰謝料の算出には、通院の総期間を基にする場合と、総期間に対する実通院日数を基にする場合があるためです。

実通院日数とは、総期間に対して実際に何日通院したか、という日数です。

例えば通院の総期間が6か月あったとします。

毎月1回通院していた場合と、毎週1回通院していた場合とでは、実通院日数が違うため算出される慰謝料も異なります。

もちろん傷害の程度や主治医の指示によるものだったか等のその他の考慮事由はありますが、後者の慰謝料の方が高くなる傾向にあります。

また、算出方法には保険会社が用いる基準と弁護士が用いる基準があります。

通院期間を採るか実通院日数を採るかは各基準によっても異なります。

ご自身の入通院慰謝料に増額可能性があるかは、弁護士へご相談ください。

2.通院日数別の慰謝料の相場

では、実際に慰謝料を算出する際の基準についてご説明します。

入通院慰謝料の算出方法には自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つの基準に分けて説明させて頂きます。

各基準によって算出額は大きく異なります。

詳しくは後述いたしますが、一般的に自賠責保険基準が最も金額が低いとされ、次いで任意保険基準、最も算出額が高いとされるのが弁護士基準です。

なお、任意保険会社が設定する任意保険会社基準に関しては、計算式が公表されていないため、今回は相場の説明を省略しています。

相場としては自賠責保険会社以上、弁護士基準未満となることが多いです。

弁護士に依頼するケースとしては、保険会社基準で算出された慰謝料の額に納得できず、弁護士基準で算出した慰謝料で示談を成立させたい場合等です。

具体的な金額の差は後述しますが、弁護士基準で算出される慰謝料を相手保険会社に請求し、かつ応じてもらうには弁護士への依頼が必須となります。

(1)自賠責保険基準の慰謝料相場

自賠責保険基準とは、自賠責保険会社が設定する基準です。

被害者への補償は最低限を目的としているため、3つの中では算出額が最も低いとされています。

自賠責保険基準の入通院慰謝料の計算方法は、以下の計算式によって求めます。

もっとも、自賠責保険には傷害の場合、治療費や休業損害等、他の支払いを含めて総額120万円という上限があります。

したがって、治療費等が120万円に近づくほど、慰謝料として支払われる額は少なくなります。

1日あたり4300円(※1×通院日数×2(※2

※1 2020年3月31日以前発生事故の場合は4200円
※2 通院日数×2が総期間に対応する日数を超える場合は総期間にて計算

通院日数の算出方法を、例を用いて説明します。

例)A 実通院日数10日、総期間30日の場合:10×2=20 →20日で計算
B 実通院日数18日、総期間30日の場合:18×2=36 →30日で計算

Aの場合、実通院日数の10日を2倍した20日が計算式上の通院日数として採用されます。

Bの場合は、2倍すると総期間である30日より日数が多くなるため、この場合は総期間である30日が採用されます。

実通院日数を2倍した日数と、総期間とを比較して少ない日数が採用されると考えると分かりやすいです。

前述の通り、自賠責保険では被害者に支払われる総額は120万円までと上限が設定されています。

長期間の治療を要する場合、それだけ治療費・通院交通費等の費用が発生することは容易に想像ができます。

しかしそれらの費用分を差し引いて、残った金額から慰謝料を請求すると限度額を超える可能性が生じます。

限度額を超えた部分は、自賠責保険からは回収ができません。

(2)弁護士基準の慰謝料相場

3つの基準の中で慰謝料の算出額が最も高額になるのが、弁護士基準です。

弁護士基準とは、交通事故で加害者側に対し裁判を起こした場合、どのような請求ができるのかという基準です。

同じような交通事故が過去の判決でどの程度の慰謝料が支払われているか、といった裁判例を基に相手保険会社へ示談交渉を行います。

弁護士基準の慰謝料を相手保険会社に応じてもらうのに弁護士への依頼が必須としたのは、裁判を前提に示談交渉を進める必要があるからです。

弁護士基準の入通院慰謝料は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター発行の『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』に記載されている以下の『別表Ⅰ・Ⅱ』を基に算出します。

この書籍は様々な賠償金の算出に用いられています。

入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 B \ A 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 291 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 334
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 132 164 194 222 248 270 290 306 318 326 331 336 341
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 238 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 286
(別表Ⅰ)
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 B’ \ A’ 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183
(別表Ⅱ)

原則は別表Ⅰを使いますが、むちうちで他覚所見が無い等の場合は別表Ⅱを用います。

入院の場合は横軸、通院の場合は縦軸で、それぞれの月数に対応する枠内に書かれた数字(万円単位)に基づいて算出します。

例えば別表Ⅰのケースで、1か月通院した場合の入通院慰謝料は、28万円です。

しかし、実際の入院・通院日数はちょうど一月単位で終わるものとは限りません。

実際には入院・通院どちらもした場合や表の月数を超える期間入院・通院した場合なども考えられます。

また、自賠責保険基準同様に総通院期間に対して通院日数が明らかに少ない場合は、弁護士基準でも通院日数を基に慰謝料を算出することになります。

そういった場合、計算はより複雑になります。

事故態様によっては過失割合が影響することもあり、専門的な知識が無ければ正しく算出できないことがほとんどです。

ご自身の弁護士基準の入通院慰謝料を把握したいという方は弁護士にご相談ください。

後述しますが、通院日数は慰謝料を納得できるものにするための大事なポイントの一つです。

症状がありながら通院することはなかなかハードルの高いものですし、お仕事やご家庭の都合で通院しづらい場合もあります。

しかしそんな中通院したということは、受傷によって被った精神的苦痛の客観的な記録になります。

むちうちなどの場合、ご自身の判断で通院を終えられてしまう方もいますが、後々痛みやシビレが発現する可能性もあります。

そうなった際、通院期間を一か月以上空けて再通院しても事故との関連性が薄れていると見られてしまいますし、もし障害が残ってしまってもそれが後遺障害とは認められない可能性が高くなってしまいます。

まずは主治医の指示に従って通院を継続することが大切です。

3.損害賠償の例

では、具体的な入院・通院日数を基に、各基準の損害賠償金額を算出しましょう。

なお前述のとおり、任意保険会社基準は計算式が公開されていないため、説明を省略いたします。

(1)通院日数20日、通院期間2か月(60日)の場合

交通事故により頸椎捻挫、いわゆるむちうちの傷病を受傷して、上記期間通院したとします。

自賠責保険基準の場合は、通院日数を2倍した40日が通院期間の日数より少なくなるため、今回は40日を基に慰謝料が算出されます。

1日当たりの慰謝料は4300円と定められているため、今回のケースで自賠責保険基準の入通院慰謝料は17万2000円です。

弁護士基準でも通院した総期間ではなく、通院日数を3倍した日数が通院期間より短い場合はそちらを採用する傾向があります。

今回はそれに当たらないため、そのまま通院期間を基に算出します。

前述した『別表Ⅱ』によると、通院期間が2ヵ月の場合の入通院慰謝料は36万円です。

過失割合や受傷の程度によっては必ずしも全額が支払われるわけではありませんが、弁護士基準と自賠責保険基準とでは、約2倍も金額に差があることが分かります。

前述の通り、事故によってはより複雑な計算が必要になります。

ご自身の入通院慰謝料の見通しについて、詳しく知りたい方は弁護士へご相談ください。

相手保険会社に請求する賠償金として、他に治療費や通院にかかった交通費、休業損害等が挙げられます。

休業損害とは、交通事故による怪我で仕事を休んだ場合、給与が減収した際に受ける補償のことです。

例えば上記例で通院のため2日間仕事を休まなければならなかった場合、その分減収した給与を休業損害として相手保険会社に請求することが可能です。

休業損害について、自賠責保険基準では被害者の実収や職種に関わらず一律6100円※とされています。
※2020年3月31日以前発生の事故は1日5,700円

弁護士基準での休業損害は事故前3か月前の給与を基に算出し、被害者の実状に即したものを請求していくことになります。

また、家事従事者・アルバイト・自営業の方の場合でも請求が可能です。

ご自身の休業損害についても、詳しく知りたい方は弁護士へご相談ください。

4.適切な慰謝料をもらうためのポイント

弁護士基準とは、弁護士が加害者側に対して裁判を起こした場合、どのような請求ができるのかという基準です。

そのため、ご自身でいくら相手保険会社に弁護士基準での慰謝料を請求しても、裁判を前提としていないため応じてもうことは困難です。

弁護士基準の慰謝料を請求し、適正な金額での示談を図りたい場合は弁護士への相談、依頼を検討してみましょう。

依頼する弁護士は、交通事故案件に強い弁護士であることも重要なポイントです。

例えば知的財産に強い弁護士、医療事故に強い弁護士など、その弁護士により得意分野は様々です。

弁護士であればどんな案件に対しても強いことが理想ではありますが、すべての分野において精通するというのは、紛争の種類の多さから考えても中々困難なことです。

弁護士が保険会社に請求する賠償金額は、法律や過去の裁判例を参考に行われます。

しかしただ法律や裁判例を調べるのであれば、専門の書籍等でも可能ですし、交通事故案件に強い弁護士でなくてもできることです。

交通事故案件を多く経験した弁護士であれば、自身の経験からどのようなパターンで賠償金額を増額させられるのか、そのために必要な手続きは何か等を適切に判断できます。

また、交通事故の様態には様々なものがあります。

過去の裁判例のうち、ご自身の事故様態と完全に一致するものがあるとは考えにくいですが、そのような場合は何より弁護士の経験が生かされます。

通院中の対応や症状固定時期の見極め、そして後遺障害申請など、被害者の傷病に精通している弁護士でなければ対応が難しいことがあります。

高次機能障害等の専門的な知識を要する後遺障害申請が視野に入る事案では特にその傾向があります。

弊所ではこれまで数多くの交通事故案件を受任しており、弁護士も交通事故に精通しております。

そもそも依頼をした方がいいのか分からないといった方でも、ご相談いただければ弁護士で見通しを説明することができます。

まずはご相談だけでも、お気軽にご連絡ください。

まとめ

慰謝料と通院日数の関係について、ご理解いただけたでしょうか。

通院日数は慰謝料の算出基準となり、ご自身の精神的・肉体的苦痛を客観的に図る尺度として非常に重要です。

前述のとおり、ご自身のやむを得ない事情によって通院を断念した場合でも、継続して通っていた場合に比べると慰謝料は減額されてしまいます。

主治医の指示があるうちは、適切な治療を受けるためにも通院を継続することが大切です。

ご自身の通院状況に不安があり、今後どう通院していいか分からない場合は弁護士へご相談ください。

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