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夫婦同居申立事件②~夫婦の同居義務って何~(札幌家庭裁判所平成10年11月18日審判)

事案の概要

夫婦は2人の子をもうけて平穏に生活していた。

しかし、その後、妻は、夫の態度に憤慨し、東京家庭裁判所に離婚のため調停を申し立てた。

調停で妻は、夫の父との同居の不満、夫が自宅を修理しないこと、夫の飲酒などを理由に強く離婚を主張していたが、反面、収入が無く期日に出頭するための旅費も夫に依存している状況で、調停委員からも別居は妻のわがままであると諭され、期日を重ねるうちにやり直す方向で考えるようになった。

その結果、夫婦は当分の間別居することで合意した。妻が帰宅することになったときは、相互のコミュニケーションを図るよう常に留意することなどを合意し、調停が成立した。

調停成立後、一向に妻が戻る様子を見せないことから、夫は、札幌家庭裁判所に対して、夫婦関係調整の調停を申し立てた。

妻が夫に対し、土下座するので別れて欲しい旨申し入れたところ、夫は、妻に対し、「土下座などしなくてよい。こんな非情な女とは別れる。」と告げ、子らの親権については裁判で争うとの意向を示していた。双方とも意向に変化はなく、離婚調停は不成立となり、本件は審判手続に移行した。

その際、夫は、裁判所が審判により妻の非を指摘して同居を命じ、そのうえで夫がさらに時間をかけて説得すれば、妻が離婚について翻意する可能性があるから、早急に同居を命じる審判を求めると述べた。

これに対し、妻は、たとえ審判により同居を命じられても絶対に同居には応じない、夫が同居にこだわるのは子どもたちと一緒に暮らしたいからであって自分に対する愛情からではない、もし同居を命じる審判がなされ、裁判所の審判には従わねばならないということなら、子らを引き渡して離婚するしかないのかもしれない旨を述べた。

<争点>

当該夫婦は同居することが相当か

<審判の内容>

夫婦は、合理的な理由のない限り、同居すべき義務を負っているが(民法752条)、この義務は、婚姻費用の分担義務などと大きく異なり、その性質上任意に履行されなければその目的を達成できないものであり、いかなる方法によってもその履行を強制することは許されないというべきである。

そうすると、家事審判法9条1項乙類1号に定める夫婦の同居に関する処分として、同居を拒んでいる夫婦の一方に対し、同居を命ずる審判をすることが相当といえるためには、同居を拒んでいる者が翻意して同居に応じる可能性が僅かでもあると認められることが必要であると解すべきである。

これに対し、夫婦である以上同居義務があるのであって、同居を拒否する意思がいかに固くとも、同居を拒否する正当な理由がない限り、同居を命ずる審判をすべきであるとの見解もあろう。

しかしながら、同審判は、夫婦を同居させて円満な夫婦関係を再構築させることを究極の目的としてなされる家庭裁判所の後見的処分の一環であって、同居が実現されないことに対する帰責性が夫婦のいずれにあるのかを確定することにその本旨があるわけではないと解すべきであるから、同居を拒んでいる夫婦の一方に翻意の可能性が全くない場合には、前記の同居義務の性質に照らし、同居を命ずる審判をすることは相当でないというべきである。

前記の翻意の可能性の有無の判断においては、単に審判時に夫婦の一方が現に強く同居を拒んでいるという一事をもって即断すべきでなく、同居を拒んでいる真の理由、当事者間の婚姻関係の破綻の程度、それに対する当事者双方の有責性、当事者の経済状況、特に同居を求める側から同居を拒否する側に婚姻費用が支払われている場合は同居を拒否する側の生活がその婚姻費用に依存している程度、未成熟子がある場合にはその状況、さらには審判がなされること自体による影響力をも含めて総合的に考慮したうえで客観的に予測されるところの将来的な翻意の可能性についても可能な限り考察すべきである。

妻は、仮に審判により同居を命じられた場合、子らを引き渡さなければならない事態となったとしても、同居には応じない旨を明言している。

もとより、子らを引き渡しても、という点は、熟慮のうえでなされた発言ではなく、むしろ情緒的な混乱の中で表明されたことであって、現在、妻が子らを引き渡すことに同意していると理解すべきではないが、反面、妻の同居拒否の意思は、簡単に覆る程度のものではないことを示していると理解すべきである。

このような妻に対し審判により同居を命じることは、妻の心理により大きな混乱を生じさせ、妻の子らに対する監護養育態度にまで影響を与え、ひいては、子らの福祉を阻害する結果を招来するおそれがないとは言い切れない。

以上により、夫の心情については十分理解できるものの、本件申立てについては却下するほかない。

まとめ

夫婦同居申立事件は、例が少ないのですが、本件はまさに現実的な判断を下した審判例といえます。

すなわち、夫婦の一方が同居を拒むという状況から一歩進んで、同居を拒む理由や真意を追求することで、当該夫婦が同居することが相当かどうかを判断している点が参考になります。

本件は、夫婦の同居義務は観念的に認められることを前提に、その強制が不可能であることを踏まえ、現実的な判断をした審判例といえるでしょう。

夫婦同居申立事件①(東京家庭裁判所昭和41年7月7日審判)と比較すると、現在の家庭裁判所の主流の考え方は本件だと思われます。

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