裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は長女をもうけ、3人で暮らしていたが、妻は長男を妊娠し、自身の実家で里帰り出産することになった。
その間、夫は新たなアパートを借りて、夫が出産後の妻を迎えに行くという約束した。
妻が実家で長男を出産した後、夫は一向に迎えに来なかった。妻は不審に感じて子供らを伴って上京したところ、夫から既に他の女性と同棲している事実を知らされ、夫および夫の父母は、妻に強行に離婚を迫るようになった。
妻は夫に対し、他の女性との関係を絶って、妻、長女、長男との正常な水入らずの家庭生活を希望しているとして、同居を請求するとともに、同居に至るまでの生活費の分担を求めた。
<争点>
当該夫婦は同居することが相当か
<審判の内容>
まず妻の同居請求について考えると、妻と夫とが同居するに至った事情は、夫婦間に多少の紛争があり、夫婦間に一度は離婚の話合いがあつたことは認められるけれども、右は単なる話合いに過ぎず妻に離婚を強制すべきすじあいではないし、右別居が妻の責任に原因する事実ないし、夫が妻との同居を拒む正当の事由を認めることのできる証拠はない。
然るときは、夫婦は法律上の結婚を継続している以上、夫は妻と同居し、未成年の二人の子の育成と、健全な家庭の再建設に協力する義務があるものといわざるを得ない。
よつて、夫は、出来るだけすみやかに、住居を設定し、妻と長女、長男とともに呼び寄せて同居すべきものとする。
妻の生活費の請求について判断する。
夫の分担すべき金額を月額金1万円と定める。
既に履行期の到来している昭和39年8月以降昭和41年6月分まで合計金23万円を即時に、妻方に送金して支払うべきものと定める。
まとめ
夫婦同居申立事件は、調停・審判の一種ですが、離婚事件(夫婦関係調整)に比べると圧倒的に数の少ない事例です。
そして、夫婦の同居義務というのは、まさに絵に描いた餅です。観念的には認められるが、実現は困難なことが多いです。
やはり調停にまで発展する夫婦問題は、対立構造が深まってしまいますので、同居を強く求めるという要請は時間を経るにつれ薄れてしまうことが多いのでしょう。
本件は、夫婦の同居義務を認め、未成年の子の育成のためにも夫婦の同居をさせる審判をした数少ない審判の一つです。
法解釈としては正しいのですが、現実問題として、一方が拒む同居を裁判所が強制するように審判を下すことは終局的な夫婦問題の解決になるか、議論を呼ぶ問題です。