裁判例
Precedent
事案の概要
平成6年に婚姻し、翌年に長女をもうけたものの、平成19年に別居に至った夫婦である。
妻は、夫に対し、月10万円の婚姻費用の支払いを求めて審判を申し立てた。夫は、別居の原因は妻の不貞行為にあり、妻が未成年の子を連れて同居する家を勝手に出て行ったものであると主張し、婚姻費用の支払いを拒絶した。
<争点>
別居の原因が妻の不貞行為にある場合、未成年の子に対する監護費用としての婚姻費用分担額はいくらとなるか
<審判の内容>
裁判所は、別居の原因は主として妻の不貞行為にあると認定した上で、妻は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、妻が、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求をすることは権利の濫用として許されないとした。
もっとも、裁判所は、同居する未成年の子の実質的監護費用を、婚姻費用の分担として請求しうるとの審判を下した。
具体的には、妻が申し立てた月10万円の婚姻費用に対し、月2万5000円分は、未成年の子の実質的監護費用額であると判断し、夫に月2万5000円の婚姻費用分担義務が存在することを認めた。
まとめ
婚姻費用は、義務者(収入の高い方)が負担する扶養義務に基づいて、配偶者や未成年の子に対して支払われるものです。
本件では、妻の不貞行為に関する弁解は認められず、別居の原因は妻の不貞行為にあると判断されたため、夫が配偶者に対して支払うべき婚姻費用はないとの判断がなされました。
しかし、別居の原因如何にかかわらず、夫の未成年の子に対する扶養義務は残るため、未成年の子に対する生活費の負担はどのように決するか、その算定方法が問題となりました。
やや高度な計算方法ではありますが、裁判所は、夫婦の基礎収入の額を定め、その上で、夫と子が同居しているものと仮定すれば子のために充てられていたはずの生活費の額を、生活保護基準及び養育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって算出し、これを妻と夫の基礎収入割合で按分し、夫の分担額を算出するとの方法を採用しました。
このように、裁判所は、より実態に則した婚姻費用分担額を算出します。
算定表により婚姻費用分担額を定めることが一般的ですが、本件のように、別居原因によっては、自身の生活費の負担が認められる範囲が制限されることになってしまいます。