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離婚問題
面会交流の条件について定めた裁判例①~面会の諸条件の紹介~(京都家裁平成26年2月4日判決)

事案の概要

妻が,離婚した夫に対し,夫が妻や未成年の子(3歳11ヶ月、心室中隔欠損症に罹患している。)の生活に支障があるような面会交流を求めて来るとして,妻と未成年の子との間の適正な面会交流の回数や内容を定めることを求めた事案である。

未成年の子は夫婦の実子であり、離婚後に妻から面会交流についての条件を定めるよう、裁判所に求めたものである。

<争点>

宿泊つきの面会交流を認めるか否か等の夫と未成年の子の面会に関する諸条件

<判決の内容>

面会交流の頻度や内容等は,同居期間中の夫と未成年者との関係,これまでの夫と未成年者との面会交流の状況,未成年者の年齢や生活状況,妻と夫双方の生活状況等を考慮して決定すべきである。

未成年者の年齢は未だ3歳11か月であるから,夫と未成年者との円滑な情緒的交流を確保するためには,少なくとも1か月に1回程度の面会交流を実施することが望ましいといえるが,未成年者は,○○に居住して平日は保育園に通園しているうえ,2歳のころに心室中隔欠損症の手術を受けていることから,一般の同年代の子と比較して細菌等に対する免疫力が弱く,また一度感染症に罹患すれば重篤な結果を招く危険性が高いと推認されることからすれば,1か月に1度日帰りの面会以上の頻度の面会交流を認めることは未成年者の負担過重になる可能性が高く相当ではない。

そして,未成年者の身体に配慮し,夫と未成年者との面会交流について,当初の2回に限り,○○内で行う旨を定めるのが相当である。

なお,妻は,未成年者の上記身体状況に照らして,頻繁な面会や遠方での面会を避けるべきであり,3か月に1回日帰りの面会に留めるべきである旨主張するが,既に認定したとおり,未成年者と夫とは,これまで夫の住居での宿泊付き面会交流も実施したことがあるなどに照らせば,裁判所が定めた面会交流の回数や内容が未成年者の負担過重になるとまではいえない。

また,妻は,夫が同居期間中,携帯電話を作動させながら未成年者の世話をするなど配慮を欠いた行動をとっており,今後の面会交流の際も,未成年者に対する十分な配慮をすることが期待できない旨主張していると解されるが,仮に,夫が同居期間中に未成年者に対する配慮を欠く言動があったとしても,それだけで,上記の面会交流の実施が未成年者の福祉を害するとまではいえない。

また,妻と夫は,1で認定したとおり,離婚するに際し面会交流に関して合意しているが,その内容を含め検討しても,夫と未成年者との面会交流の頻度や内容等を以下のとおり定めるのが相当である。

#1:面会日,面会時間

(1)毎月1回,日曜日の午前9時から午後5時まで
(2)上記(1)とは別に,毎年,①7月20日から8月31日までの間,②12月26日から1月7日までの間に,それぞれ2泊3日程度の宿泊を伴う面会交流
(3)上記(1)の面会実施日は,前月末日までに母と父が協議して定めるが,協議が調わない場合は,第3日曜日とする。
(4) 上記(2)の面会日は,①では7月19日まで,②では12月25日までに父と母が協議して定めるが,協議が調わない場合には,①については8月1日から3日まで,②については,12月27日から29日までとし,待ち合わせ場所及び方法は,2項のとおりとする。

#2:待ち合わせ場所及び方法

(1) 待ち合わせ場所
○○駅改札口を出た広場付近

(2) 待ち合わせ方法
母が,上記面会交流開始時刻に未成年者を待ち合わせ場所に連れて行き,未成年者を引き渡し,父が面会終了時刻に待ち合わせ場所まで未成年者を連れて来て引き渡す。

#3:面会場所の制限

父は,上記1(1)の第1回及び第2回面会日に限り,未成年者との面会は○○市内で行うこととする。

#4:父の保育園行事への参加について

(1) 母は,保育園の意向に反しない限り,父が保育園の運動会,生活発表会等の保育園行事に参加することを認め,父と母は,父が参加できる学校行事について別途協議をして決める。
(2) 母は,保育園から行事日程の連絡を受けたときは,すみやかに父に連絡する。

#5:誕生日,クリスマスなどの未成年者へのプレゼントの渡し方

父と母が協議をして決めるが,協議が調うまでは,誕生日やクリスマスに近接する面会日に父が直接未成年者に手渡すこととする。

#6:面会日等の変更

未成年者の病気,その他やむを得ない事情により,上記1項の日時に面会交流が実施できない場合には,当該事由の生じた当事者は,速やかに他方当事者に連絡し,双方協議の上代替日を定める。

協議が調わないときは,1(1)の面会日は,第4日曜日の同じ時刻とする。

#7:連絡方法等

父と母の連絡方法は,原則としてメールによる。

#8:その他

(1) 当事者双方が合意をしたときは,上記1項ないし7項の内容を変更することができる。
(2) 当事者双方は,未成年者の福祉に配慮し,特に未成年者の体調の変化に注意する。

まとめ

面会交渉権とは、子を監護養育していない親が、その子と個人的に交流する権利です。法律上どのような根拠に基づいて発生するものか、規定はありませんが、親として有する固有の権利として認められます。

夫婦間での合意に達しない場合、裁判所が審判によって決定することになります。

その際、裁判所は、面会交流やその諸条件が「子の福祉」にとっていかなる影響を与えるかという点を考慮し、判断することになります。

本件では、宿泊つき面会交流を認めるか否か、また、認めるとしても場所や時期をいつとするかという点が大きな争点となりました。

裁判所は、心室中隔欠損症を患っている子の負担に言及したものの、2泊3日程度の宿泊を伴う面会交渉を認めました。

本件の夫には、凶暴性が認められる等、子を会わせるのは危険だとの判断をするほどの事情はなく、夫側の育児の態度に関する事情としては、“同居時、携帯電話を操作しながら育児をしていた”というものにすぎず、それ自体は面会交渉の際に、子の福祉を害するおそれがあるとの事情とまではいえませんでした。

このように、面会交渉の諸条件については、「子の福祉」が重要視されます。

夫側の事情や妻側の事情それ自体は、付随的なものにすぎません。

また、本件のように、面会交渉の諸条件は、待合せ場所、行事への参加、プレゼントの渡し方等、その細部にわたって定められることになります。

面会交渉の諸条件は、夫婦の離婚後であっても、調整を行うことができますし、子の成長過程に応じて定め方が異なってくるものです。

子の成長に伴い、適切な時期に、「子の福祉」にとって最良の条件を定める必要があります。

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