裁判例
Precedent
事案の概要
夫と妻は、平成14年に婚姻し、子をもうけたが、平成20年、子の親権者を妻と定めて協議上の離婚をした。
妻は、子と共に、実家に転居した。
転居後、妻は、子のほか、父親、母親、姉及び弟とともに生活したが、次第に、妻は同居する親族と不仲となり、対立が顕著となってしまった。
妻は、子を監護する意欲が薄くなり、次第に育児が疎かになっていった。
そのため、次第に姉を中心とする妻の親族が子の監護を担うようになっていった。
その後、妻は、賃貸物件に転居し、子を伴おうとしたが、子はこれを拒否し、妻の実家に留まった。
子は公立小学校の五年生であり、夫とは、月に一回の頻度で週末にかけ夫宅に宿泊するなどの交流が存するが、妻との交流はほぼ途絶えている。
<争点>
親権者の変更は認められるか
<審判の内容>
家庭裁判所調査官による調査報告書によると、子の実際の監護を担う姉を中心とする妻親族と夫との関係は良好であるのに対し、妻親族と妻との関係は良好でないことが確認できる。
しかも、本件報告書によれば、子の妻に対する印象・評価も良好でないことは否定し難い上、家庭裁判所調査官が子に今後の生活等についての意向を尋ねたのに対しても、子は、妻と生活はしたくない旨及び現在の生活を続けたいし、また、将来的には、夫宅に生活拠点を移転することになるであろうが、その場合にも妻実家と行き来したい旨を述べている(このような子の意向も、同人の年齢(数か月後には11歳に達する小学校5年生である。)や本件報告書から確認できる子の応答ぶり等からすると、十分な判断のもとでの意思の表明として尊重するのが相当である。)。
してみると、本件離婚後、妻の子への関わりが変化し、しかも、妻と子が生活拠点を異にするなど、子を巡る監護状況に変更が生じているため、その状況に応じて、子の親権者を妻から夫へ変更する必要があると認められる。
まとめ
未成年の子がいる夫婦が離婚する場合、親権者をいずれとするのか協議をしなければなりません。
いずれを親権者とするのか、協議で定まらない場合は、裁判所が夫婦の一方を親権者として指定することになります。
裁判所が、親権者を決めるにあたって、用いる判断基準は、「子の利益」です。
「子の利益」を判断するにあたってのポイントは、子の意思の他に、成育環境の継続性や、夫婦それぞれの経済状態、居住環境、心身の状態などさまざまな要素が挙げられます。
そのため、裁判所は、家庭裁判所調査官による調査を実施し、その調査結果に基づいて、客観的に夫婦のいずれを親権者とした方が「子の利益」に適うかを判断します。
本件では、子の意思が重視されました。小学校5年生(10歳)であることを考えると、その意思は生活環境に左右されがちで、自身の意思に基づく判断ができるか、非常に微妙な年頃です。
しかし、本件の場合、子は、自身の養育を実姉に任せる母の態度を肌で感じ、父との交流を優先させました。結果的にその判断は、子自身の意思であると認められる結果となりました。
このように、親権者を決するにあたっては、お子さんの意思が優先される傾向にあります。
お子さんの年齢も考え、その判断を歪めないように配慮しながら、適切にその意思を把握する必要があります。
場合によっては、お子さんをお連れいただいて、相談にお越しいただくことをお勧めいたします。