裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は、昭和47年に婚姻し、2人の子をもうけた。
妻は、専業主婦であったが、昭和56年以降は宗教活動にのめり込むようになり、昭和59年頃からは年間1000時間以上の伝道活動をするようになった。
夫は、平成6年の退職まで一般企業に勤務した。
夫の退職後、夫婦は、妻の宗教活動をめぐって家庭内で対立するようになり、夫は家を出て別居を開始した。
夫は再就職を果し、別居後も妻に対し、年間約250万円~300万円の婚姻費用を送金していた。
平成20年に離婚判決が確定し、夫は同年に別の女性と再婚した。
離婚判決の確定後、妻は夫に対し、年金分割を求めた。
<争点>
別居期間中に納めた厚生年金保険料の分割は認められるか
<審判の内容>
年金分割の対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与は、互いの協力によりそれぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと考えられるから、特別の事情がない限り、互いに同等と見るのを原則と考えるべきである。
別紙1の情報通知書にかかる保険料納付期間は、夫が平成6年までに勤務していたものであり、この間妻と夫は一応同居して生活していたのであるから、その年金分割の割合は0.5とするのが相当である。
しかしながら、別紙2の情報通知書にかかる期間は、平成6年以降の夫が再就職先に勤務していた間に保険料が納付されているのであって、この間妻と夫は既に没交渉で、共同生活が再開されることは期待できない状態であり、しかも妻は夫から収入に照らしてもやや多めの婚姻費用分担額を受領していたのである。
この間、被保険者たる夫が負担した保険料につき、妻が保険料を共同して負担したものであるとみることはできず、前記にいう特別の事情があるということができる。
以上のとおり、別紙1の情報通知書にかかる年金分割の割合は0.5とするのが相当であり、別紙2の情報通知書にかかる年金分割の申立てを認めるのは相当でない。
まとめ
年金分割は按分割合を0.5とするのが通常です。
分割の対象となる期間は、原則として「婚姻から離婚までの期間」であり、「婚姻から別居までの期間」ではありません。
しかし、本件では、別居後の保険料の支払いが夫婦の協力によりされたものではないことを理由に、例外的に、分割の対象となる期間を「婚姻から別居までの期間」としました。
本件は、別居時にすでに夫婦関係が破綻していたとの事情や別居から離婚に至るまでの期間が15年以上と長期に渡ること、別居後の夫の婚姻費用の支払い実績が重視された結果、例外的判断に至りました。
このような例外的な審判を得るためには、根気強い主張立証活動と、婚姻費用の支払い等の誠実な態度が必要となります。
当事者間の話合いでは、状況に応じた冷静な判断を行うことが困難な場合が多々あります。
実態に合った年金分割を行うため、まず一度弁護士にご相談ください。