裁判例
Precedent
事案の概要
夫が職場の女性部下と関係をもったことなどから、妻は離婚を求め、夫もそれに応じたため、夫婦は協議離婚することになった。
妻が自宅に残って子供を育てたいという離婚条件を提示したので、夫は夫所有の自宅を妻に財産分与として譲渡することを約し(本件財産分与契約)、夫婦は離婚して、自宅の登記は妻に移転された。
その後、夫側に2億円を超える税金が課されることが分かり、夫は、本件財産分与契約は錯誤(勘違い)により無効であると主張した。
<争点>
本件財産分与契約の動機(自分に税金が課されないこと)の表示があったか
<判決の内容>
夫は、本件財産分与契約の際、財産分与を受ける妻に課税されることを心配してこれを気遣う発言をしたというのであり、記録によれば、妻も、自己に課税されるものと理解していたことが窺われる。
そうとすれば、夫において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事情かない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。
そして、本件財産分与契約の目的物(自宅)は夫らが居住していた建物を含む不動産の全部であり、これに伴う課税も極めて高額にのぼるから、夫とすれば、前示の錯誤かなければ本件財産分与契約の意思表示をしなかったものと認める余地が十分にあるというべきである。夫に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、夫に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。
まとめ
本件では、夫が、本件財産分与契約の際、「自分に税金が課されない。だから本件財産分与契約をするんだ。」という動機を表示していたか否かが争われ、裁判所は、夫はその動機を黙示的に表示していたと判断しました。
本件で争いの原因となったのは「譲渡所得税」という税金です。
離婚に伴って、不動産等の金銭以外の資産を財産分与する場合、財産分与する側(本件では、夫)には「譲渡所得税」という税金がかかります。
この「譲渡所得税」は、時価を基準として税額が計算されることから課税金額が高くなりやすいにもかかわらず、財産分与の場合にも課税されることはあまり知られていません。
本件では問題となっていませんが、財産分与される側(本件では、妻)にかかる税金として「不動産取得税」や「登録免許税」があり、場合によっては「贈与税」がかかってくる可能性もあるのです。
税金のことについて話し合わないまま離婚し財産分与を行った場合、思わぬ税金の負担を負うことになりかねませんし、本件のようにせっかくの財産分与の契約が無効と判断されることにもなりかねません。
財産を移転するタイミングによって課税される税金が変わってきたり、課税される場合でも控除の制度があったりと、税金関係は制度や法律が非常に複雑です。離婚に伴う財産分与を考えていらっしゃる方は、ぜひ一度ご相談ください。
その後の税金も含めた見通しを説明させていただきます。