裁判例
Precedent
事案の概要
夫婦は電子部品等の販売業を営み、夫が営業を、妻が経理事務を担当していた。
婚姻期間中、妻は生命保険に加入し、その保険金受取人を自身に設定した。
その後も順風満帆に婚姻生活を送っていたものの、妻は、日常的に機嫌の悪い夫の態度に耐えかね、子らを連れて家を出て、離婚を決心するに至った。
その後、2年間に及ぶ妻からの度重なる離婚請求に耐えかね、夫は心労を抱えてしまった。
それを見かねた夫の実父は、妻の要求に応えるべく、子ら(実父にとっては「孫」)に対する月額6万円の生活費の支払いを始めた。
離婚求める妻に対し、夫は、生命保険を含む各種財産の分与を求めた。
しかし、妻は、生命保険を解約して得た33万1948円は、生活費に充ててしまい手元に存在しないことから、財産分与の対象にはならない旨主張した。
<争点>
生命保険の財産分与における取扱い
<判決の内容>
生命保険につき、その保険料は夫婦の財産から支出されたものであるが、妻がこれを解約して返戻金33万1948円を生活費に充てたため、現存しないことが認められ、分与対象財産とはならない。
この解約は妻が生活を維持するため、いわば財産分与を先取りしたものということができ、この返戻金の50%相当は夫が取得すべきものとして本来夫に返還されなければならないが、この間夫は婚姻費用分担金にせよ子らの養育費にせよ支払いをしていないこと、夫の実父が子らのために月額6万円を支払うようになったのも別居後2年以上経過してからのことであること、夫も格別この返還を求めていないこと等からからすると、あえて清算する必要まで認めがたい。
まとめ
どんな弁護士であっても、「生命保険は離婚の際に清算しなければならないのか」と問われたとき、一様に決まった回答をすることはできません。
一般論としてご説明できるのは、「婚姻期間中に、夫婦のお互いの協力によって保険料が支払われたといえる場合は、清算の対象になることが多い。」ということです。
生命保険は、契約者が保険契約の継続か解約か、保険金受取人の指定・変更を自由に行うことができます。
そのため、契約者の自由な判断に任せた方がお互いにとって有益として、財産分与の対象としないということもあります。
もっとも、婚姻期間中は、たまたま一方の契約にしていただけで、契約者が一方的に継続・解約の判断をしてしまうと、他方にとって不利益が生じるというケースでは、財産分与の原則に立ち返って、夫婦がお互いの協力によって保険料を支払ってきたのであれば、財産分与の対象とすべきと考えることになります。
そして、具体的な財産分与の方法は、①継続する場合は、契約者が他方に金銭で分与、②解約する場合は、解約返戻金を分け合うというものに大別できます。
本件のように、婚姻費用を支払ってこなかったという事情が、財産分与の判断に影響を及ぼすこともあり、保険に関する判断は多種多様です。
生命保険の公平な清算には、解約返戻金の試算やその他個別の事情を考えることが不可欠です。
ご相談いただければ、皆様の個別事情に沿う保険の清算方法をご提案させていただきます。